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派閥の威力と限界 総裁選と菅首相退陣から ~後編~

 派閥が何なのか、いよいよ分からなくなってきた。元々、自民党にある派閥は自民党総裁選挙のためにある。総理大臣候補と目される政治家を考え方の近い政治家を支えるのが、派閥だ。その派閥に対して若手から批判が噴出し「党風一新の会」なるものができた。しかも派閥横断的に。さらには主要派閥が相次いで自主投票とした。岸田文雄前政調会長が会長を務める岸田派以外は、誰を支持するか態度さえ決められない。一方で、9月3日の菅義偉総理大臣退陣の際には、多数の派閥が離反し、政権を倒すという大きな力を示した。依然としてすごく力あるとも、無くなったともとれる。改めて整理してみた。

※長くなってしまったので前編と後編に分けています。こちらは後編です。派閥の現状振り返り部分が多い前編はこちら。

数は力

 では、派閥が力を発揮するのはいつか。
①自分の身分に影響しない=選挙までにはいくらか期間がある
②派閥の長老たちと若手・中堅の利害が一致
 ②は結果的に一致したということになる。これは菅政権誕生の時がまさにそうだ。1年以内に選挙がある中、選挙に強い安倍晋三前総理大臣の後に誰を持ってこようかをみんな考えた。結果、岸田さんは知名度が低いし、石破茂元幹事長は、人気があって選挙に強い安倍さんを批判していて好きではない。だから「令和おじさん」として有名だった菅さん。といった具合だ。長老も石破アレルギーがあり、みんな菅さんに乗った。

 ひるがえって、今回はどちらも当てはまらないから、中堅・若手は自分が選挙で勝てる候補を推したいということで、党風一新の会を立ち上げた。彼らの行動を抑えきれないほど、派閥幹部の意向に魅力・説得力、もっというと強制力がなくなってしまった証拠だ。つまりは派閥が議員個人の懐に影響することもなければ、選挙の公認権に影響することもなくなってしまった。

 ただ中堅・若手が声を上げるんだったら、私は前回の総裁選の時に声を上げとけよと思う。「結果として菅さんだけど、派閥の長老の意向をくんでやっているわけではない!!」と。今回になって、河野太郎行政改革担当大臣の国民的人気が高いから推したいというのは、前回、国民的人気が高く、選挙に勝てそうだった菅さんを推したときと何ら変わらない。今回は長老と意見が合わないから、自分はイメージの悪い長老たちとは違いますよというアピールに走っているに過ぎない。結局、党風一新の会は中堅・若手の派閥みたいなもので、数の力で政局の主導権を握りたいという点でやってることはさして変わらない。

 それでも派閥はなくならないはずだ。どんなに党の長が派閥解体といったとしても、言えば言うほどなくならない。長老支配の悪い面が強調されるが、総裁を生み出すために徒党を組むのは、決して悪いことではないはずだ。というか、生き馬の目を盗んで自分が権力を握りたいと思うのであれば、人の塊を作るのは当たり前だ。

 派閥が発言力を持つためには、やっぱり最初に戻って総裁候補を生み出し続けなければならない。派閥の長がほとんど総裁候補ではないとなれば、ただ単に長老が若手を従えるだけの人の塊としか見られない。それにもし総裁になれば、総理大臣になる可能性が高いのだから、政権を支えるための人間関係、役割分担をあらかじめ考えてチームを形成するのは欠かせない。その準備のための派閥、という側面があれば、国民にも分かりやすい。選挙が近いタイミングでの総裁選のたびに、選挙に不安な中堅・若手がばらばらになっているようでは、今後の政権が不安定になってしまうのではないかと危惧する。

野党の主張

 最後に先日、立憲民主党の枝野幸男代表が「自民党内での疑似政権交代が行われていたのは、中選挙区時代の話だ」と発言したと報じられた。なるほど、小選挙区においてはその通りだ。ただその前提として野党が一つになってもらわないと有権者はどこに投票したら良いか分からない。それでは政権交代は起きえないので、自民党内での政権交代に注目してしまうのは仕方ない。国民民主党、共産党、社民党と野党の乱立が続き、いつまで「コップの中の嵐」をやっているんだろうとあきれて見ている有権者も多いはずだ。

 それと、野党側は報道各社に自民党総裁選一色となる報道姿勢に疑問を呈しているが3つの点でおかしい。まず野党が批判している自民党と同じことをしている点だ。国政選挙のたびにテレビ局に対して自民党が文句を言っている。野党側が権利擁護を叫ぶのであれば、言論の自由を制限するような言論はすべきではない。有権者はそういう姿勢に幻滅する。

 2つめは、理念に権力監視を掲げるマスコミが、次の総理大臣を選ぶ総裁選に注目しないわけがない点だ。世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっている上に、アフガニスタン情勢や北朝鮮の弾道ミサイル発射など大きなニュースはたくさんある。それでも日本の最高権力者が誰になるかという報道のニュースバリューは非常に高い。新聞、テレビのオールドメディアに限らず、ニュースサイトにまで総裁選のニュースがあふれているのを見れば明らかだ。

 3つめは、注目される野党でないという点だ。自分たちがニュースとなる努力が足りていない。この点、確かに今回の総裁選にあわせて、野党側の努力は見える。政権交代したらどんな政策をするかといった公約の発表を、総裁選に向けて盛り上がる時期の報道にぶつけている。選択的夫婦別姓の導入を掲げた点や性的少数者への配慮の責任者として担当大臣を設置する点に私は、是非やってほしいなと思った。

 ただ、次回の総選挙で政権交代など夢のまた夢の状態で、そんなことを言われたとしても、空虚に映ってしまう。やっぱり野党側が急ぐべきは、自民公明連立政権に変わる政権の枠組みを示すことだ。そこが解決されない限り、国民の注目は集まらない。厳しく言ってしまうと、総裁選に埋没してしまうのは自業自得だ。

※前編もあります。

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