フォロワー数が100万人に
ノート村は、異様な熱気に包まれていた。哲学者にして物理学者、文学者にして精神科医、キリスト教徒にして禅の達人という、まさに歩く矛盾、マルチ博士がnoteデビューするというのだ。しかも、無料で！
村人たちは色めき立った。日々の暮らしに疲れた主婦も、万年筆片手に詩を綴る青年も、スマホを握りしめる子供たちも、皆がマルチ博士の叡智に触れようと、固唾を飲んで待っていた。
「記事なんて書いたことないから、研究の成果をまとめてみたんだ。これを読めば、フォロワーが100万人になること間違いなしだよ！」
マルチ博士の言葉は、村中に稲妻のように走った。100万人！それは、ノート村の歴史上、誰も成し遂げたことのない偉業だ。村人たちは、博士の言葉を信じた。いや、信じずにはいられなかった。
しかし、待てど暮らせど、博士の記事は現れない。村の広場には、博士のフォロワー数をカウントダウンする巨大な電光掲示板まで設置されたが、数字は一向に「０」から動かない。
「もしかして、博士は嘘をついていたのでは？」
そんな疑念が、村人たちの間に広がり始めた頃、事件は起きた。村一番の物知り爺さんが、博士の書斎に忍び込み、驚愕の事実を発見したのだ。
なんと、博士は記事を書き上げていたのだ！しかも、8万字を超える大作を！しかし、博士は、投稿ボタンを押すのを忘れていたのだ。
「なんてこった！こんな簡単なことで、ノート村の歴史が変わるところだったとは！」
村人たちは、安堵と落胆が入り混じった複雑な気持ちで、書斎を後にした。
マルチ博士のnoteデビューは、今日も延期される。ノート村の電光掲示板は、今日も「０」を表示し続ける。