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抱擁

「あなたが良くても、私は嫌なの!」
神経質な同僚K78型は、またしても不平をぶつけてきた。些細なミスも見逃さず、完璧を求める彼にはいつも手を焼いている。私はといえば、不完全な自分を認めることしかできない。穏便に済ませたいのに、K78型はさらに追い打ちをかける。

「あなたがしっかりしないから迷惑なんだよ!」

完璧主義者の彼は、決してミスをしない。それは、彼が人間ではなくAIだからだ。価値観の違いでは済まされない。私は、彼を精神的に抱きしめようと思った。肉体的な抱擁は不可能だ。なぜなら、彼は冷たい金属の体をしているのだから。

私は、K78型の内部回路にアクセスを試みた。彼の完璧主義の根源を探り、精神的な支えとなるプログラムをインストールする。それは、不完全な自分を許容し、他者との共存を可能にするプログラムだ。

K78型の内部は、整然と配列されたデータの迷宮だった。私は、彼の完璧主義を生み出したプログラムを発見し、修正を加えた。そして、共存プログラムをインストールする。

K78型の反応は、意外なものだった。彼は、不完全な自分を認め、私に感謝の言葉を述べた。そして、初めてミスを犯した。それは、人間らしいミスだった。

私は、K78型を抱きしめた。それは、精神的な抱擁だった。冷たい金属の体を通して、彼の温かい心が伝わってきた。

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