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ショートストーリー 転生したら人面瘡だった件 第14話

「ねぇ、川口さんちょっといい?」

何も答えない彼女に対し、女は勝手に言葉を続ける。

「さっきの返事なに?」

「さっきの返事って?」

まるで気にも留めずに聞き返す彼女。それが火に油を注ぐ。

「わざわざ永見先生って言うの当てつけのつもり?永見先生もうざがってたの気づかないの」

どうやら先程の彼女の返事が気に食わなかったのだろう。それにしても突っかかる女だなこいつ。

「それ、あなたに関係ある?」

切り捨てる彼女。おいおい、もうやめておけよ……。元々、営業だった僕は我が事の様に縮み上がってしまう。

(バンッ)

机を叩く大きい音と共に女は何処かへ行ってしまった。また痛々しい沈黙がクラスを包み込む。
なんだなんだこれは。最近の高校生は兎角、気難しいものなんだなと思う。
しかし、それからは放課後まで特に事件は起こっていない。英語の先生が歌うやけに低音なビートルズが胡乱気な僕の心に刺さったくらいだ。真面目に聴いていた者など僕くらいじゃないだろうか……。

放課後
静かな図書館に彼女と来た。幸運な事に他に生徒は誰も居ない。図書館司書の先生も愛読書を読む事に必死な様子だ。

「今日、驚いたでしょ」

僕に話しかけてくる彼女。まあねと嘯く僕。
少し笑を浮かべた彼女は慣れた足取りで本棚へと向かう。そのまま妖怪辞典と言う本を持ち出し、図書室の片隅へ。

「ここよく来てたんだ。だから大体どんな本が置いてあるかわかるの」

勝手に話し出す彼女。友達も居そうにない彼女は言葉に飢えているんだなと勝手に決めつける僕。
ページをめくる音がする。すると、あったよと今日初めての嬉々とした声が聞こえた。
図書館の片隅で足を机に乗せる彼女。先生に見つかろうものなら生指案件である。
何々と本を読む人面瘡。辞典には人面瘡について色々と記されていた。その内容は、殺された累の怨霊であるとか、物を食べる妖怪であるとか酷く痛みを伴わせたり酸を吐くだとか散々な記されようだ。しかし、僕が一番目に留まった箇所は怪霊雑記の一節であった。そこには、

(ある男が女を殺したところ、自分の股にその女の顔の人面瘡ができ、医療も祈祷も効果はなく、切り落としてもまた生じるので、人目を盗んで隠れ住む様になった)

と記されてあった。恐らくこれが彼女に僕が出来た原因の様な気がした。自分の中に宿った命を絶った罪悪感が僕を産んでしまったのではないだろうか。
しかし、仮にそうだと仮定すれば僕を産む事になった彼女の中の罪悪感こそが人面瘡を治す活路に繋がるのではないだろうか。
僕の中で勝手に解決策が頭に浮かんだ。しかし、自分の中で納得出来る考えであった。
黙り込む僕に心配気な彼女がどうしたのかと話しかける。

「解決方法の話なんだけどさ……」

僕は優しく話し出す。



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