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不適切にもほどがある第8話 1回しくじったらダメですか?

ムッチ先輩を令和にワザワザ飛ばしたわけ?

 毎度のように神回と言い始めているが、改めて「不適切にもほどがある」が面白いですね。機会があれば、他の作品も見てみましょう

 ムッチ先輩を未来に送ったくだりは、まったく理解が追い付いていない。昭和のヤンキー臭丸出しのムッチ先輩を平成とばして、令和に送りつけたらどんなことになるのかを見せたかっただけかもしれん。

 ムッチ先輩の息子である秋津君との対面を「ドッペルゲンガー」で終わらせてしまった。感動の対面を期待させておきながら、ドッペルゲンガーで終わらせてしまう。一つの必勝パターンを否定して捨て駒にしてしまった。
 
 ムッチ先輩を飛ばす理由は、表向きは突然いなくなった純子を連れて帰るため。行ったはいいけど入れ違いで純子は昭和に戻ってしまう。純子の帰りを待ってればいいのに何で行くんだろうとムッチ先輩が令和に行くのが全くわからなかった。期待するなら秋津親子の対面でどんなことが起こるのだろうと思っていたが、「ドッペルゲンガー」でなかったことにされた。

小泉今日子がすべてを持って行った

 ムッチ先輩は捨てエピソードかと思われたが、最後の最後に58歳の小泉今日子を捕まえて、「おばさんキョンキョンですか。顔ちっちぇー」と失礼なぐらいにいじりまくっている。未来の小川市郎はキョンキョンのポスターで昭和に戻る話をするが、全然通じていない。けど「デビュー40周年おめでとうございます」ということはしっかり理解してたりする。

 もはや、小泉今日子をいじることで成立させてしまっている。ついこの前は「バラエティーなんてくだらない」って言ってたばかりの人に「このおばさんもしかしてキョンキョン」って危なっかしいな。ドラマはくだらないって言われてしまうぞ。

 さらっと見てしまったけど、昭和61年のスキャンダルでの吉田羊と担任の先生とのくだりで「今のキョンキョンじゃね?」が挟まった。令和だとこのぐらいの反応かもしれないが、昭和61年でキョンキョンが目の前に現れるのは大事件である。

令和から戻った純子

 何となくドラマの中の昭和61年が少しばかり遅れていると感じる。セーラーズはあるけど、おニャン子クラブは出てこない。「毎度お騒がせします」のネタは少しばかり出てくるけど、板東英二かB-B-Cだ。ドラマをネタにするときにズラシてボケるのはよくあるけど、真っ先に取り上げる人は全然出てこない。その人物は純子が青学に行くぐらいのころに出てくるはず。

 純子は令和に帰ってしっかり良い娘となっており、「つっぱり」を否定していた。あの聖子ちゃんカットにセーラー服にロングスカートは誰をオマージュしてるのか。スケバン刑事はもうちょい後に出てくるから違うだろう。そういえば、初代「麻宮サキ」は今回のテーマに引っかかる人物だった。

 となると誰なのか?

 ズバリ「中森明菜」でよいだろう。もちろん80年代アイドルのスーパースターであるのは間違いない。7話まではスケバン刑事や毎度お騒がせしまうじゃないだろうなと思うがいまいち決定打がなかったが、8話で確信した。それは純子が言った「じれったい」が決定的だ。ここでいう「じれったい」は中森明菜のセカンドシングル「少女A」のサビだ。ここから、中森明菜がツッパリソング(少女A・禁区・十戒)とラブバラード(スローモーション・セカンドラブ・サザンウインド)と交互にレコードを出す戦略をとる。2年これやってから、「北ウイング」→「飾りじゃないのよ涙は」→「ミ・アモーレ」といった流れで脱皮しその時代を代表する歌手であり、アイドルであり続けた。

 純子の人生は、ツッパリでアバズレの17歳→令和で刺激を受けて真面目キャラになり青山学院を目指す→見事に合格しオールナイトフジのような女子大生ブームにのる→マハラジャで黒服の犬島ゆずると出会い、妊娠する→小川市郎に反対されるけど、駆け落ちで神戸に行く(正式に結婚してない?)→渚を産む→犬島ゆずるが黒服から神戸の仕立て屋となる→小川市郎とゆずるが和解する。神戸にて初めてのスーツをお義父さんに送り、仲直りをする(1995年1月16日)→1995年1月17日阪神淡路大震災にて享年26歳の短い生涯を終えるってとこだろうか

一度しくじったら復帰してはダメですか?

 8話のメインテーマは、7年前華々しくデビューを飾った新人のアナウンサーの話。彼は東京オリンピックにむけて選手たちへのインタビューを戦場に活躍していた。そんな中、東京オリンピックの女子スケボー選手に近づき一夜限りの過ちを犯し、マスコミにすっぱ抜かれてしまう。その後は激しいパッシングを浴び、肝心な東京オリンピックの期間は自宅謹慎、それからADとしての下働きを続けており、アナウンサー復帰のタイミングをうかがっている最中だ。

 しかし、一夜限りの過ちに対して「ゆっくり魔理沙と霊夢」がYoutubeにあげられている。さらっと阿部サダヲが真似をしているのに笑ってしまった。アナウンサーの彼は謝罪も済ませ奥様と仲直りも済み、待望の第一子も授かったという。そんな彼に対して小川市郎はたった一回のしくじりですべてを失うのはおかしいではないかと訴える。

 ここで立ちはだかるのは、コンプライアンスに神経質になりすぎている山本耕史だ。今のテレビ界のコンプライアンスを過剰に気にして結局テレビがつまらなくなっていることを象徴する人物だ。山本耕史はいろんなドラマでこのような役柄を勤め上げ、いつしか眉間にしわを寄せるのが伝統芸になっているが、今回はさらに一層意識してやっているような気がしてならない。

 試しにとばかりに早朝5時のレポーターを任せてみたが、反応は芳しくない。たった2件の過去を蒸し返すコメントをきっかけに火種が大きくなる。アンチコメント→コメントへのいいね、SNSへの拡散→Webのコタツ記事(取材も裏取りもしないで記事を書き上げること、私もドラマを見ただけで駄文を垂れ流しているから同じ穴のムジナですな)→コタツ記事のリツイート→そして炎上と負のスパイラルに向かっている。

 コタツ記事に対して偉そうにコメントしているけど、何も関係ないはずだろう。しかし、一夜限りの過ちが世間一般に対する大罪のようになってしまっている。「キモイ、見たくない」というのが全てを物語っている。もともと見ていないくせに……

 やっぱり嫌な時代になったものだ。炎上のメカニズムなんて頭じゃ理解しているはずなのに、たった一度の火遊びだけで、アナウンサーとしての命を絶たれてしまう。悪意のあるコメントをしている奴なんて自分には関係ないはずで、本当に腹が立っているのか?
 一人の人間を私刑にしてストレス解消にしているとしか思えない。

 ついにアナウンサーの心が折れて「一般人ならここまで叩かれないのではないでしょうか?」という。ここまで叩かれてしまうのであれば、政治家や芸能人にはなりたくないと思うのは無理がない。私だってたった一度の過ちさえ許されないのであれば、芸能人になんてなりたくない。しかし、もっと多くの人に認められて有名になりたいと相反する願望を常に持っている。

飯でもどうだ!オレの家に来い!!

 山本耕史がついに動いた。そこで見たものはいつもの眉間にしわを寄せている彼ではない。随分と柔らかく不自然な笑顔を振りまく山本耕史だ。彼らは結婚20周年をむかえ、アナウンサーと小川市郎を迎えたわけだ。普段は決して見せないプライベートを見せるために。

 そこには奥様の幼馴染夫婦も結婚20年パーティーに出席している。背が高くて痩せているからと、ポッキーこと八嶋智人のリアル嫁と、タイコこと遠山景織子がいる。

 3組の夫婦たちとアナウンサーに小川市郎がにぎやかなパーティーをテラスで行う。豪華な食事におしゃれなテラス、子供たちは部屋でにぎやかに遊んでいる。小川市郎も時代を超えたコミュニケーション能力ですぐさま打ち解けている。そして主役である山本耕史が自らその場をふるまっている楽しそうな結婚記念日なのだが、なんか空気がおかしい。

 「職場ではどんな感じなんですか?」
 「いつも叱咤激励を受けております」
 「ふーん、そうやってヘラヘラしているのね」
 うわうわうわ怖い怖い。

 「これは夫婦が家庭円満で確かめるために、こうして結婚記念日にみんなで集まっているの」
 「これではちっとも反省していないじゃない。」
 「本当不愉快、ねえ謝って」「これじゃ困りますなあ。また来年も集まって確認しなくてはいけませんなあ」

 コンプライアンスに過敏になり、過ちを犯したアナウンサーの復帰に二の足を踏んでいる山本耕史も17年前に妻の幼馴染と火遊びを起こしていた過去があるのだ。3年目の浮気など多めに見てはくれておらず、毎年結婚記念日のたびに、ポッキーとタイコの2人の夫婦が「山本耕史の家庭円満を見守る会」が行われているのだ。山本耕史は17年前の火遊び以降は清廉潔白だ。でも、毎年謝罪させられている。

 謝っている先は奥様と不倫相手(なんと山本耕史を見守る会に出席しているし、パーティーの料理を作っている)ではなく、ポッキーとタイコ夫婦の「不愉快よ」に対してだ。

 金曜日の妻たちとか板東英二を散々挟み込んでいたけど、全部この一発のためにジワジワと刷り込んできたのか。未来人の吉田羊が金曜日の妻たちをいまさら見てなくシーンもこのためだったのか。怖い怖すぎる。

 小川市郎の「気持ちわる」もポッキーの「なんか言った?」の一睨みで、「いえ」と黙ってしまう。渚のまえで「この時代にもオレのような不適切なやつが必要なんだよ」と威勢よく豪語していたのが、一睨みで終わってしまった。思えば8話は強引なミュージカルに誰も乗ってこないとか、このドラマの勝利の方程式がことごとく通用しない。

 小川市郎も黙らすこの空気、本当に怖すぎる。何が恐ろしいって「山本耕史の夫婦円満を見守る会」なんてやめればいいのに、奥さんは全然やめようとしない。当時の不倫相手の「ひとみ」にも料理を作らせてお膳立てさせている。おそろしい、ターゲットを山本耕史にしておいて「ひとみにあやまって」と謝罪させている。これは怖い、不倫の相手を同情していると見せかけて更なる攻撃をしている。

 金曜日の妻たちが放映されていた昭和61年、私は7歳だ。そういえば父と母と一つ下の妹とで、なぜか知らない家族のパーティーに参加していた。その家族には同じぐらいの男の子がいたが、なにも違和感なく彼とパーティージョイに夢中になっていた。彼は名前も顔も覚えていない、その時だけだったけど凄く仲良くさせてもらった。車で1時間ぐらい乗っていった大きな家の彼がうらやましいと不意に思い出した。あの時、一緒に遊んでなさいと言われて無邪気に遊んでいたけど、父も母もその子の両親と話していた。奇しくも金妻ブーム、まさかこんなことしてたわけじゃないだろうな。小学生の時にたまに訪れる全然知らない家族と仲良くしている謎イベント、同じ小学校でなければ、親戚でもない。いったい誰だったんだろう。

 こんな形で38年前の謎が解けてしまったのなら怖すぎる。それが20年間令和の時代まで存在するのなら、怖い怖すぎる。

 小川市郎は何もできず黙るしかなかったが、そのホラーをあえて部下に見せた山本耕史は漢の中の漢だ。

「何十年前の出来事でもいつか必ず蒸し返す人間がいる。笑顔でいても笑ってるんじゃねーと叩き、神妙な顔をしても暗いと叩かれる。オレたちはそんな世界にいるんだ!覚悟を持ってやれ!!!」と激励し、アナウンサーを料理コーナーに奥さんと一緒に起用する。やっぱりWeb記事のコメントやSNSは荒れる。それでも覚悟を持って出演するしかない。これがつまらなくなった令和に対するアンサーでしかない。

 それができるのは一部の面の皮が厚い人間の特殊能力と思っていた。そうではない、一度きりの失敗であっても叩く奴はたたく、それがホラーでありゆがんだ自己満足であってだ。そんな理不尽と戦うには結果を出すしかない。結果というのはいつ出るのかわからない。しかし、逃げることは許されないのだ。

 山本耕史も「一般人になる」という発言に対して、誰にも見られたくない恥をあえて晒し、身を切りながら叱咤激励をしたのだ。コンプラにとらわれた情けない上司だと思ったら、そうではない立派な上司ではないか。

 この役は山本耕史は適任だろう。何しろ彼の奥様は堀北真希、伝説の猛アタックでややもすると格差婚というありがたくない言葉も頂戴しながら、堀北真希を妻に迎えることができたのだ。彼が本当に火遊びしてしまったら、ヤバいことになるのは想像に難くない。

 あの恐怖でしかないパーティーをあえて見せたのは漢だ。それでも気持ち悪さと後味の悪さが残るが、一気に吹き飛ばしたのはデビュー40周年を迎えた小泉今日子の登場だ。

 まさかの小泉今日子の登場が恐怖とモヤモヤを全て吹き飛ばした

 



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