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ショートショート オートマティック ・ ライフ

<21XX年、人類は想像を超える発展を遂げていた。中でも医療に関する技術革新は凄まじく、再生医療・ゲノム編集・免疫療法の活発化は、「治療医学」から「予防医学」への転換を進め、さらに超免疫細胞「HTMC(ヒト免疫細胞)」と「ATMD(自動調整装置)」の開発は、「完全な健康体」の達成を実現した。幼少期「HTMC」ワクチン接種と成人後「ATMD」 埋め込み手術は、法律により義務付けられている>



サカガミマコトは今年二十歳になる。この日マコトは「ATMD(自動調整装置)」手術を控えていた。 

「母さん、おはよう。...ハクション!」
「マコト、また体調悪いの?」


マコトは昔から体が弱く、7歳の頃には「風邪」という大病に罹って生死の狭間を彷徨ったこともある。


「手術すれば健康になれるわよ。あと少しの辛抱ね」母は笑って言った。


体調を崩して学校を休みがちなマコトは、いつも一人だけ皆勤賞を貰えなかった。

この時代の人々は老若男女問わず体を壊すことがなく、もはや「病気」とは無縁の存在なのである。 患者がいないため「病院」は消え、代わりに国営の「研究所」が街のいたる所にある。

「行ってきます!」
マコトは研究所へと向かった。



「手術予定のサカガミマコトさんですね。虹彩ID が認証されましたので、こちらでお待ちください。」


しばらくして、ドクターとアシスタントがやって来た。

 「本日は、ATMDの埋め込み手術で間違いありませんね。まずは採血を行います」 

マコトが出した右腕に、アシスタントが採血用の針を刺した。

 「きゃああああ!!!先生!!血が!!」 

ガシャンと音を立てて注射器が割れた。鮮やかな赤い血が、真っ白な床に広がる。

 「なんだこれは!?ど、どうして血がこんな色に...。「赤い血」なんて見たことがない」 

「通常なら血液は「青」ですよね、先生。もしかしてこの子、政府が秘密裏に進めていると噂の「ヒトアンドロイド改造案」の実験体なんじゃ...。この血の色、人間とは思えません」 

アシスタントの声は震えている。

 「そんなはずはない。カルテを見たが、数年前に「風邪」を発病している。アンドロイドならば病気にはならない!我々と同じ人間だ!HTMCワクチンの不適合者かもしれないぞ」


マコトの手術は延期になり、ドクターはマコトの赤い血について政府に情報を求めた。




「大臣、嫌なお知らせがあります。国営研究所で「赤い血」が出たそうです」

「なんだと?まだ「ニンゲン」がいたのか。
我々「ヒトアンドロイド」の血液は、青だ。赤い
血などではない。科学者もろとも処分しておけ」

「承知しました」

「それにしても、参ったものだ。超高齢化、少子化への抜本的な解決案として出た「ヒトアンドロイド改造案」だが、いまだに稀にワクチン不適合者が出てしまう。」

「ワクチンが不適合だと、赤い血になってしまうのですか?」

「いや、逆だ。青くならなかったのだ。
我々の体には元々赤い血が流れている。

そもそも、幼少期HTMCのワクチン接種は、体の中に抗ウイルス検知デバイスを流すことにある。このデバイスが血液を青くするのだ。
成人後のATMD装入によって、このデバイスから検知されたウイルスを体内で自動的に処理することができる。抗ウイルス薬を自動で生成し、体内に流すことで、ヒトは未然に病気を防げるようになった。「ヒトアンドロイド」とは、完全な健康体を持つ改造されたニンゲンのことなのだよ。

そして国民は、その殆どがヒトアンドロイドへの進化を遂げたところなのだ。皆、自分は正常なニンゲンだと思い込んでいるがな。

人体は国家資源だ。国を守るための生権力なのだよ。だからこれは秘密裏に進められる計画でなければならない。赤い血の出現は国家への疑念を生みかねぬ、タブーの代物なのだ。」



それから数日後、サカガミ家は何者かに放火され全焼し、例の研究所では原因不明の爆発事故が発生した。助かった者はいないという。


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