見出し画像

【連載小説】「恋するスピリチュアル」㉘~お姫様抱っこ、からの、ぐるぐる

夕方近くになって、ドスン、ドスンと大きな音を立てて二階から降りてくる足音がした。

息子のユージである。

ユージは、三年前に高校を卒業したものの、希望した学部ではないということで、浪人をしていた。

浪人とは体のいい言葉で、実際は引きこもり。

毎日、自分の部屋へ閉じこもっては、勉強をしているのかしていないのか、
分からなかったが、年々、偏差値は低くなっており、このままではどこの大学にも受かりそうもなかった。

あの無気力な歩き方だと、今、起きたばかりだな、と私は思った。

ユージは、仕事に行ったとばかり思っていた母親が居たので、
驚いたようだったが、
なんだか口元がゆるんで締まりがなくなっている私の顔を見て、
「どうしたの?」と尋ねてきた。

「うん」
私は、にやけるのが止まらなかった。

出版社の人からは、「誰にも言わないでください」と言われていたけれど、
家族にならいいだろうと思った。

「実はね、私、小説賞の大賞を取ったの。今、電話があった」
そう言うと、ユージの目がみるみるうちに大きく見開いた。
「えっ!?本当?そりゃすごい!」
「うん」
私も笑顔になった。

「やったね!おふくろ、やったー!!」
彼はそう叫ぶと、私を抱き上げてぐるぐると回し始めた。

「えっ、えっ」
私は仰天した。
こういっちゃあなんだが、私のあだ名は〝百貫デブ〟だ。
子供の頃、口さがない男子たちからそう呼ばれていた。

大人になったからと言っても、体重はそうそう変りはしなかった。
だから、最初に考えたのは、息子の腰の事だった。

「ひ~・・・、止めてぇ~、止め・・・。お前の腰が、
腰がぁ~・・・」

ぐるぐる回されながら、私はやっとの思いでそう言った。
でも、息子は止めなかった。
「やったぁ~、やったよ~」
そう言って、いつまでもぐるぐると回し続けるのだった。

ようやく降ろしてくれた時は、二人ともヘトヘトになっていた。

しかし、息子は、いまだ興奮冷めやらぬと言った感じで、
「すごいね、すごい」と我が事のように喜んでくれたのだ。
それを見ると、私の方も涙ぐんでしまった。

そうなのだ。
この子が小さな頃から、パートに出ては辞め、辞めると、
シナリオを書いては、子育てそっちのけで、勉強し続けてきた私。

傍から見たら、なんという母親だと思われた事だろう。

一番の被害者は彼だった筈なのに、
私が講座や原稿書きなどでどんなに夜遅く帰っても、
文句ひとつ言わなかった。

それどころか、公募に落ち続け、落ち込む私を見て、
慰めることさえしたのだ。

しかし、今、それが報われて、私以上に喜んでいる姿を見ていると、
感無量・・・。胸がいっぱいになるのだった。

「ありがとう、ありがとう」
そう言って、二人で涙にくれていると、
「ただいま」
と、夫のタカシが帰って来た。

タカシは、二度のうつ病体験を経て、元の職場へ戻っていた。

「あ、お帰りなさい」
私が言うと、
「おやじ、おふくろ、すごいんだよ、賞取ったんだよ!
小説賞の大賞を」
横から嬉しそうにユージが報告した。

しかし、タカシは興味無さそうに、
「ふ~ん」
とだけ言って、目も合わせなかった。

二度のうつ病経験を経て、タカシはまるで別人のようになっていた。

無口になり、気難しくなったのだ。

しかし、学生の頃から、お互い切磋琢磨して夢を語りあってきた仲なのに、
〝おめでとう〟の一言もなく、リビングに消えていく夫の後ろ姿に、
私は一抹の寂しさを覚えるのだった。


第一部 了

第二部へつづく


こんにちは。
パモンです。

いやあ~、思いつきで、筆を走らせてきたこの物語も、
第一部がようやく終わりを告げましたね。

はじめたのが、去年の今くらいではないかと思いますので、
約一年間、ほったらかしにしていたと思います。

最初の頃から、読んでくださっていた皆さま、感謝です。
そうして、新しく、読んでくださっている皆さま方にも感謝申し上げます。

最近になって再び筆をとり(ということは、ストレスが溜まっていた!
ということなんですけどね・・・(*´ω`*))

本当は、私の身に起こった、スピリチュアルなお話を書きたくて、
衝動的にnoteブログに登録し、書き始めたのですが、
途中で、体調の悪化と、本業の仕事の方が上手くいかず、
トーンダウンして、引きこもっておりました。トホホン・・・。

そして、自分の身に起こったスピ話を書くには、まずは、
当時の状況をお話せねばならず、お話するには、また、
私の子どもの時代からの話もせねばならず・・・
ならず、ならず・・・で、こんなに風に説明が長くなって
しまいました。

ご容赦ください。

次回からは、ようやく、〝スピ話〟に入るかと思いますが、
相変わらず、こんなペースですので、一体、この物語が
いつ終わるのかも定かではございません。

出来れば皆さま、見捨てずに、最後までご一緒出来ると嬉しいです。

次回、「恋は突然に!?あたしを好きにならないで~!あたしゃ、既婚者よ」です。

どうぞお楽しみに。

☆「スキ」をたくさんいただきました。ありがとうございます。(*´ω`*)
私も返しているつもりですが、もし、返し忘れていましたら、
申し訳ありません。忘れっぽいので、ゆるされて~。


☆別ブログでも、短編小説を書いています。
良かったら、こちらの方も見てくださいね。☆


☆それでは今日もよい一日を。










あなた様のサポートに感謝です!いただいたサポートは、クリエイターとしての活動費に使わせていただきます。