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message in a bottle

子どもの頃に読んだ本に、海で流れてきた小瓶を拾った人のお話があった。
冒険譚だったと思う。

わたしは海がない街に育ったので、夏休みに母の田舎で連れて行ってもらえる新潟の海だけがわたしの海だった。
だからひとりで海に行ける大人になった時には誰にも届かないかもしれない手紙を、小瓶に乗せて海に流したいと夢見ていた。

そこに誰かいますか、どんな暮らしをしていますか。
遠くの知らない誰かのことを想像することは嬉しいし、一方的なお手紙が届けられること、もしかしたらその手紙を受け取った人に会えることも愛しいことだと思っていた。

中学生の時、授業によってクラスを混ぜて教室を変えたりすることがあった。知らない他のクラスの誰かが、自分の机を使うことがあったのです。
だから机にメッセージを書いて、座った誰かが返事をくれるのを待っていた。


ここはインターネットの海。
90年代以降に書かれた、書籍にする必要も需要もない文章がたくさん転がっている。
この海の中に思いつく限りのことを書いてみたら、いつか誰かに届くかもしれないし、その人と会えるかもしれない。
ずっとそう思っています。

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20代の頃、なにもできない自分に対して、なんでもいいから外に出てやってみることを課していました。

なにもやらないならなにかやる、というつもりでいろんな場所に赴いていました。

そのひとつが東京の三鷹・ハモニカ横丁で開催されていた「三鷹マルシェ」というイベントです。

その時「珈琲交換」という方法で出店をしました。
コーヒーと、それと同じ価値だと思うものを交換しましょうという内容です。

当然ですが、「三鷹マルシェ」自体は一般的なマルシェイベントで、地域の美味しいお店さんが集まるイベントです。

当時、Facebookにイベント情報を載せただけで、来るお客さんはマルシェに来た方や自分の知り合いを想定していました。

いらっしゃった方の多くには「珈琲交換やってるんです」と都度説明をし、みなさん何かほかのお店で買ったものや、たまたま持っていたものと交換してくださる中、ある女性の方がいらっしゃいました。

その方は鞄からDVDを出して、「これと交換してください」と言いました。

事前になにかを用意して来てくださる方などいなかったため、驚いてお話すると、前回同じ場所で「珈琲交換」をやっていたのを見て、わざわざ持って来てくださったとのこと。
きっと好きだと思うということを言って、コーヒーとそのDVDを交換してくださいました。

それはユーリ・ノルシュティン監督の作品集でした。

そのほかに、あるイラストレーターという男性が「コーヒー好きなんです」と言って立ち寄ってくださいました。

イベントのコンセプトにも共感してくれ、身軽な鞄できたことを悔やんでいたので、「全然、100円玉みっつとかでも大丈夫ですよ〜^^」と言うと、「いや、いれてもらったコーヒー1杯に対して、ちゃんと対価となるものをお渡ししたい」と。

一生懸命に鞄を探ったあと、「仕事道具なんですけど」とペンを2本くださった。


とても嬉しくて、これにわたしは味を占めているのです。
あの人たちにはきっとあれ以来会っていないと思いますが、本当にありがとうと言いたい。

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インターネットの海にも、その辺の道端にも、小さな手紙を置いておくことで、見たこともない誰かに届くかもしれない。
そういう気持ちで、架空の誰かに宛てた小さな小さな手紙をここに書き続けたい。

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