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「ほーらね、やっぱりうまくいかない」に隠れる心理は?

長いことうまくいかない人生を送ってきて、それでも一念発起して自分を変えたい・幸せになりたいと思って努力するものの、「トラブル」が起きることがある。わたしもよくあった。そして、わたしがカウンセリングを担当してきた人たちにも、めちゃくちゃよく起こっていた。

そういう時、おそらくたいていの人が「ほーらね、やっぱり私の人生はうまくいかない!」と思うはず。

“やっぱりうまくいかない”の裏に隠れている本心は、“うまくいくのが怖い”じゃないだろうか。

* * *

人が成功を回避しようとする心理については、1968年にアメリカの女性心理学者マティナ・S・ホーナーが「成功回避理論(成功恐怖理論)」を提唱している。

成功回避理論はざっくり言うと、
・人間には無意識に成功を回避しようとしてしまう心理がある
・しかもそれは女性に多い

という理論だ。

ただこの時は、今よりも女性の社会進出ができていなかった。
「女性が成功すると、嫉妬・やっかみを受けやすい」環境要因があったため、“女性は特に成功を回避しようとしがち”という理論が成立していたようだ。

もちろん今も女性の社会進出はしにくい部分があるだろうが、うまくいっている男性も叩く人がいるので、男女関係なく「成功を恐れる心理」は働いていると思う。

* * *

個人的には「嫉妬・やっかみを受けやすいから」というより、「みんなもうこれ以上がんばりたくないから」成功を恐れるのではないかな、と考えている。

わたしのカウンセリングに来る人たちはなぜか「頑張り屋さんを通り越して頑張らないといけない屋さん」になっている女性が多い。

もうそれ充分やってるし頑張ってると思いますよ、と言っても、「こんなんじゃダメなんです」「ぜんぜん頑張れていません」「自分よりもっとすごい人がいます」「もっと頑張らなきゃ」「もっといい女にならなきゃ」etc...と言っている。

とはいえ自分もそう言っていた人間なので、そういう思考に陥るのはものすごくよくわかる。「自分はこういう思考から、どうやって今みたいになったんだっけ?」と毎回考える。喉元過ぎれば熱さを忘れるというか、あんなに苦しんでいたはずなのに、苦しみをやわらげていった過程をすぐ忘れてしまうのだ。

確かに、苦しかった時期をひんぱんに簡単に思い出せるようであれば、それは「乗り越えられていない」ということなので、「思い出せない……」となるのはある意味正しい。正しいが、カウンセリングの時わりと困る。

ふと思い出すのは、「もう嫌だ、もうしんどい、もうがんばりたくない」という記憶だ。

わたしはずっとずっとずっと長い間、空回りしながら“頑張り続けて”いた。
「頑張ればうまく行くはず」と信じながら、心のどこかで「うまく行ったら行ったで、さらに頑張り続けなければならないのだろう」と思っていた。

うまく行って楽になりたいだけなのに、「さらに頑張らなければならない」とは地獄だ。だからわたしは「死ぬ」ことですべてを止めたかったのだろう。生きている限り、必死で回し車を回し続けるハムスターのようになっていなければならない、と感じていた。

しかしだんだん「自殺する気力も湧かない」状態になっていった。そうなると次に取る行動は「成功しないような選択をする」になっていった。

うまくいってしまったら今よりさらに頑張らなければならない。しかしうまくいかなければ、今と同じ頑張りだけしていれば済む。「自分の予測の範囲」の努力さえしていれば、それでいい。

「ほーらね、やっぱりうまくいかない」は「ああ、今回もうまくいかなくてよかった。というか、うまく行かないように仕向けたしな」じゃないんだろうか。なぜなら、「やっぱり」という言葉は「自分が予測できること」にしか使わないから。

「自分は不幸な星のもとに生まれたのだから、やっぱり幸せになれなかった」「自分は無能なのだから、やっぱりうまくいかなかった」よりも、「自分がそうなるように仕向けたから、やっぱりうまくいかなかった」のほうがしっくり来る。

「私なんてぜんぜん頑張れていません」という人たちは、本当は自分がすごく頑張っていることを知っている。必死で、限界ギリギリで、この生きづらい日本で、世界で、頑張り続けている「自分」のことを知っている。

だから本当はもう「頑張りたくない」のだ。今この瞬間に呼吸を止めて安らかになれるのならもうそれでいいと思っている。

もう今以上がんばらなくて済むために、「ほーらね、やっぱりうまくいかなかった」を繰り返している。

しかし、楽になれる「うまくいく」もあるんだよ。死ぬ以外に楽になれる方法もあるんだよ。それをどうやって信じてもらうか、それをどうやって伝えるか、境界性パーソナリティー障害が治ってからというもの、多分ずっと考えている。

※本日の写真も「みんなのフォトギャラリー」から拝借しました。この写真の被写体はわたくしではありません。

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