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カウンセリングで患者(クライエント)が起こす「転移」とは?どのような対応策がある?

Amazonなどで「転移」と検索すると異世界転生系の本ばかり引っかかって非常に困るんですけども(笑)、カウンセリングや心理の世界で言う転移とは、主に“感情の転移”を指します。

個人的には相談者さんがカウンセラーに恋愛感情を持つ転移——「転移性恋愛」が一番有名なのではと考えているのですが、読者のあなたはどうでしょうか?
ちなみに私は、用語をちゃんと調べるまでそれしか知りませんでした。

ということで今回は、私自身の学びを元に、読者のあなたにもわかりやすく「転移」について解説する記事にしていこうと思います。
ただし、めちゃくちゃ難しい題材なのでそこは覚悟してください!(笑)

◆全体的な「転移」とはどういう症状を指すのか

転移とは、心理学をかじり出すと大体すぐ名前が出てくるジークムント・フロイト(心理学者、精神科医)が、クライエントの治療中に発見した現象です。

その後さまざまな精神分析家などが、転移そして逆転移について考察・研究を重ねています。逆転移については今後ほかの記事で詳しく解説する予定ですので、今回はひとまず「転移」にのみ注目していきましょう。

(※以下、私は「クライエント=相談者」と表記して解説します)

相談者さんは、カウンセラー以外の人間関係の中でさまざまな感情を抱いていますよね。

カウンセリングの対話中(長期にわたるカウンセリングであればその期間中)に、その“感情”をカウンセラーに向けて感じることを「転移」と言います。

基本的には、過去にあった人間関係やそこで抱いた感情のパターンが現れると言われています。

最もよく言われるケースは親(父親か母親、またはその両方)です。

たとえば父親が厳しい人で、我が子が失敗するとすぐ怒鳴ったり殴ってきたりしていたとしましょう。そのことに対して、子ども(相談者さん)は恐怖や緊張、怒りを感じていました。

その相談者さんが男性カウンセラーに相談しようとした時、父に感じていた恐怖、緊張、怒りを男性カウンセラーにも感じてしまう——これが「転移」です。

よく言われるケースが親というだけで、祖父母やそれ以外の親族、学校の先生、先輩などという場合もあります。

また、カウンセリングを何度か受けていたり、色んなカウンセリングを渡り歩いている場合、「以前のカウンセラーに抱いていた感情を、現在のカウンセラーに感じてしまう」という転移もあるようです。

こちらは心理カウンセラー(心理学博士・公認心理師・臨床心理士)・古宮昇氏の研究ノート【前カウンセラーからの転移現象について】 に詳しく記載してありますので、当てはまる方、気になる方はぜひ読んでみてください。
 ↓
https://www.jstage.jst.go.jp/article/keidaironshu/64/6/64_113/_pdf/-char/ja

(※オフィシャルサイトのリンクも張っておきます↓)

補足ですが、前述した「厳しい父親を男性カウンセラーに重ね合わせてしまう」というのは“投影とうえい”という言葉で解説されることもあります。

私も実際にそういう解説をする時もあります。

投影と転移の違いは何ですか、と言われると、私は以下のように考えています。(私の個人的解釈になるかもしれませんので、あしからず)

【投影】

カウンセラーに限らず、周囲の人間関係に過去の重要な人物を重ね合わせて見てしまい、目の前のその人ではなく過去の人物に対してするように振る舞う現象

(※さっきの例で言えば、厳しい父親を周囲の年上男性・上司・取引先の男性などに映し出し、恐怖や緊張や怒りを感じたり、父親に対してするような態度をとってしまうこと)

【転移】

カウンセリング中、つまり治療の経過でカウンセラーに過去の重要な人物を重ね合わせ、同じような人間関係を築こうとしたり感情を抱いたりする現象

こうして比較してみると微妙に違いますよね。
共通しているのは「目の前のその人を見ていない」ということでしょうか。

※父親を投影する例は先日書いた「妄想性パーソナリティ障害」の解説記事内にもありますので、あわせてどうぞ↓

◆2種類の転移:陽性転移と陰性転移

転移には,治療者に対して信頼,尊敬,情愛,感謝などの感情を示す陽性転移と,敵意,攻撃性,猜疑心,不信感などの感情を示す陰性転移の二種類がある.

プリズム/感情転移

一般的には肯定的・好意的な感情を陽性転移、否定的・悪意的な感情を陰性転移と言います。

好意的に思われるんならいいじゃないと考えるかもしれませんが、この好意的と言うのもたまに厄介なんですよね。

確かに相談者さんがカウンセラーに信頼感や好意を持った結果、自分の心の深い部分を話すようになってくれれば、精神分析の材料が増えて分析がしやすくなったり、治療の助けになるでしょう。

しかし、たとえば「学校の先生に良く思われたい生徒」のような好意だと、生徒は嘘をついてまで先生に良い評価をもらおうとする時がありますよね?

そうすると実際の精神状態は何も良くなっていないのに、カウンセラーに良く思われたい、喜ばせたいと思うあまりに「良くなってきました!」と嘘をつくことがあるのです。

これ中には本当に良くなってきている場合もあるので、見極めが難しいですよね〜。

あるいは、嘘であると見破れた場合でも、カウンセラーはそこを追求すりゃいいってもんじゃないんですよね。
「嘘じゃないですか?」って聞いて激怒される場合もあるでしょうし(笑)。

陰性転移の場合も同じです。

敵意や不信感を出しているからと言って本当にカウンセラーを頼りにしていない訳ではなく、むしろ助けてもらいたいと思っていたり、頼りにしている場合もあるんです。

なので「それでは、他のカウンセラーを紹介しましょうか?」と申し出ると「いや、このカウンセリングでまだ続けたいです」と言われたりするんですね。

実際に思っていることと表に出ている態度の乖離かいりが起きるのもまた、転移のややこしいところであるかもしれません。

ちなみに冒頭で言った「転移性恋愛」は好意の感情ですから陽性転移と考えられることが多いようですが、陽性ではない、とする考え方もあります。

恋愛感情は陽性の感情であるから、一見すると陽性転移に見えますが、実はそうではないのです。臨床場面でもクライエントさんからカウンセラーに転移性恋愛を向けられると、だいたいがカウンセリングや心理療法が停滞してしまい、事態は混迷を極めることが多いのですが、このことからも決して陽性転移などではないことは明らかです。

転移性恋愛のメカニズムを知って理解する:心理学と精神分析の視点から解説 | (株)心理オフィスK

私は転移性恋愛をされたことがないので(えっ、鈍くて気づいてないだけ……?笑)、事態が混迷を極めるというのはよく分かりませんが、

“カウンセリングや心理療法が停滞するか否か”

で陽性と陰性を判断するのであれば、単純に「好意的に思ってくれてるから陽性」とは言いづらいですね。

◆私(伊藤巴)が実際に経験した転移現象

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