見出し画像

他人を信用しない、暴力的な支配者の病。妄想性(猜疑性)パーソナリティ障害とは?

私がかつて患っていた病——境界性パーソナリティ障害について今より熱心に発信していた頃、よく私のカウンセリングには「彼(または夫)は境界性パーソナリティ障害だと思うんです」と訴える相談者さんがよく来ていました。

(※境界性パーソナリティ障害については下記記事をご参照ください)

しかしながら、話を聞けば聞くほどちっとも境界性パーソナリティ障害ではないんですね。

もちろん私は精神科医じゃないので病名の診断はできないのですが、“その病気だった当事者として”話を聞いていても、自分と全然違うのです。

ならば非常によく似た症状の出る、自己愛性パーソナリティ障害のほうではないかと考えたのですが……
相談者さんに聞くと「違う」と言われるわけです。

“境界性パーソナリティ障害を治したカウンセラー”と話をしている訳ですから、断固として境界性パーソナリティ障害であってほしい(彼のかかっている病気が治る病気であって欲しい、という願いがある)のかな?
と当時は思っていました。

しかし今思えば、本当に違ったのかもしれません。

なぜなら、その時言われていた症状が「妄想性(猜疑性)パーソナリティ障害」に酷似しているからです。

私があの時、この病気についてもっと詳しく知っていたら、もっと彼女たちの助けになれたのでしょうか。

などと言っても仕方のないことで、「その病気に詳しくない私」とその時の彼女たちが会うこともまた、お互いに必要な流れだったのかも知れません。

ということで今回は、男性に多いと言われる「妄想性(猜疑性)パーソナリティ障害」についての話です。

※最近は男性性の強い女性も非常に多いので、もしかしたら女性にも当てはまるかもしれません。

◆妄想性パーソナリティ障害の大きな特徴とは

妄想性、と聞くだけで、「きっと何か悪い妄想をするのだろう」とか「幻覚を見たり幻聴を聞いたりするのかもしれない」と思う人もいるのではないでしょうか。

妄想性パーソナリティ障害の最も大きな特徴は、「他人が自分を傷つけようとしているのではないか、陥れようとしているのではないかと不信感を持ち、疑い続けること」です。

幻覚や幻聴は統合失調症の代表的な症状なので、妄想性パーソナリティ障害の抱える妄想とはちょっと違いますね。

MSDマニュアルにはこのように記載されています。

妄想性パーソナリティ障害の患者は、他者が自分を搾取したり、欺いたり、害を与えたりしようと計画しているのではないかと疑っています。(略)
証拠がほとんどないかまったくない場合でも、自分の疑念や考えを主張し続けます。

妄想性パーソナリティ障害|MSDマニュアル家庭版

わかりやすいケースは、企業の経営者あるいは会社の中で役職のある男性が、「部下が自分を裏切るのではないか」「同僚が自分を陥れようとしているのではないか」と常に疑う、みたいなことですね。

また、妄想性パーソナリティ障害はパートナー(または配偶者)の不貞も疑います。これもまた「傷つけようと/欺こうとしているのではないか」の一種なんですね。

証拠もないのに「浮気しているのでは」と疑い始めてその妄想が止まらなくなり、相手に詰め寄ったり、何としてでも証拠を掴もうと必死になります。

ちなみに自分が境界性パーソナリティ障害ではないかと疑う女性の中にも、「相手の浮気を始終疑ってしまう」という方々がいらっしゃいました。

が、しかし。妄想性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害には、こんな違いがあると私は考察しています。

境界性パーソナリティ障害の傾向が高い方々は、ほぼ10割の確率で“浮気しそうな男性”とか“すでに浮気の前科がある男性”とお付き合いしているんですよね。

前の彼女と付き合っている時に自分と出会い、浮気して、自分に乗り換えた男性とかね。奥さんがいるのに自分と不倫している男性とかね。

そりゃ「自分も前の彼女と同じように乗り換えられるのではないか」「奥さんにしているみたいに、私にも嘘をついて他の女性と付き合っているのではないか」と思うでしょ。略奪愛は略奪されるってやつです。

私自身もそうでしたが、女性にだらしないクズに惹かれちゃうのが境界性パーソナリティ障害の特徴のひとつですよね★と思います。

(※もちろんクズに惹かれるからってだけで全員境界性パーソナリティ障害というわけではありません、あしからず!)

妄想性パーソナリティ障害は、そうではありません。

明らかに証拠がない、そのようなことをしそうにない(実際にしていない)人でも「絶対に浮気している!!!!」と全く根拠のない妄想を抱き、相手を責めるのです。

◆妄想性パーソナリティ障害の診断基準

毎度おなじみDSM-5(アメリカの精神疾患/精神障害の診断・統計マニュアル)にご登場いただきましょう。

DSM-5には、まず「他者に対する持続的な不信および疑い深さ」が認められる必要がある、と書かれています。

次いで、以下のうちの4つ以上があてはまれば、他者に対する持続的な不信及び疑い深さがあると認められるとのことです。
(※症状は成人期早期までに始まっている必要があります)

  • 他者が自分を利用している,傷つけている,または裏切っているという根拠のない疑念

  • 友人および同僚の信頼性について根拠のない疑いにとらわれている

  • 情報が自分に不利に使われるのではないかと考え,他者に秘密を打ち明けたがらない

  • 悪意のない言葉または出来事に誹謗,敵意,または脅迫的な意味が隠されていると誤解する

  • 侮辱,中傷,または軽蔑に対して恨みを抱く

  • 自分の性格または評判が非難されたと考えやすく,性急に怒りをもって反応したり,反撃したりする

  • 自分の配偶者またはパートナーが不貞を働いているという根拠のない疑念を繰り返し抱く

(MSDマニュアルプロフェッショナル版より)

3つ目に「他者に秘密を打ち明けたがらない」というのがありますが、これは秘密だけでなく個人情報なども含まれます。
おそらく内面の思い(感情の吐露)も含まれるんじゃないでしょうか。

境界性パーソナリティ障害の人は基本的に依存傾向が強いので、自分の秘密をペラペラ喋って相手と親しくなろうとする傾向があります。
私もそうです(笑)。
これもまた、妄想性と境界性の大きな違いですね。

私は分析系カウンセラーなので、自分の秘密や内面の話を沢山してくれるほうが、分析が超はかどっていいんですよね〜。

境界性パーソナリティ障害当事者のカウンセリングを得意としているのは、自分が元当事者だったからというだけでなく、そういう部分もあるかも知れません。

また、以前ご紹介した回避性パーソナリティ障害も自己開示をしたがらない傾向がありますが、

妄想性との見分けかたはこんな感じですね。

・妄想性:自分が陥れられないため、勝利するために、開示しない
・回避性:親しくなった後に傷つくのが怖いので、開示しない

どっちにしてもこの2つの症状は、カウンセリングが向いていないことがよくわかります。

自分で病に気付き、「治したい」と思って出向いたならまだしも(それでも困難を極めそう)、周囲の人間に無理やり受けさせられた場合は「絶対に自己開示しない」と決心するでしょうね〜。め、めんどくさ……(本音)。

◆支配的な病、妄想性パーソナリティ障害

数年前に岡田尊司先生の「パーソナリティ障害:いかに接し、どう克服するか」を電子書籍で購入したのを思い出し、「そういえばこれに妄想性パーソナリティ障害の解説があったじゃん!」と改めて読んでみました。

ここから先は

5,188字 / 3画像
この記事のみ ¥ 600

サポート頂けるとわたしの創作活動や生活費の支えになります。支援が増えると更新頻度が高くなります。