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もう若葉ではないのだから


僕は滅多に怒ることがない。

めんどくさいのが一つ目の理由,
もったいないのが二つ目の理由, 
優しくないのが三つ目の理由。


基本的に「怒る=行動の修正を促す」が目的であり, 
威圧する必要はないと考えている。


よって, 大きな声を出したりするのは
必ずしも必要ではない。

それならやりたくない。
よって「めんどくさい」。


さらに, お昼に食べたトンカツも,

僕が誰かを怒るためのエネルギーになることを
決して望んでないだろうと思うのだ。

どうせならもっとハッピーなことに
消費されるエネルギーになりたいだろう。


よって, せっかく食べたご飯を
怒るために使うことは「もったいない」。


あとそもそも人に期待していない。

ネガティブな意味ではなく, 

人ってそんなもんだよね。
元々弱い生き物だよね, という感じだ。


僕がそもそも大した人間ではないのだから, 
他人にも求めない。

他人に吐いた言葉は自分に返ってくると思い,
奥底で一線を引いて言葉を吐いている。


聖人なわけではなく, 
心の奥底は波立っているものの

ただ怒らない。それだけなのだ。


僕は優しくない。



修士二年生になり,
後輩の研究を手伝ったり, アドバイスすることが増えた。

XXってどうやるんですか?
XXについて, どう思いますか?

今日も心をざわつかせながら
薄い笑顔で回答する。


かつては僕もしていたであろう問い。

しないようには意識しているが,
もしかすると今もやってしまっているかもしれないな。

そんなことを思いながら。


何が心を波立たせるのか。

それはスタンスをとっていないことだ。


僕は研究が好きだ。

責任をかなりの範囲, 自分で持てる上に, 

うまくいっても行かなくても, 
前進したと言ってしまえるメンタリティがあれば

どんな結果も興味深く思えるからだ。


やりたいことをできるのに, 
予想通りの結果じゃなくて良い

自由で好きだ。


それなのに, 「XXはどうすれば良いか」, と聞くことは

手法の自由さと責任を取る楽しさの
両方を放棄しているように見えてしまう。

もったいない。


まあ, それだけなら別に良い。

ただ, 先の質問には
脳内の天秤が透けて見えてしまうのだ。


どんな手法を取るべきかな。
ちょっと調べたけどよくわからないな。

もっと調べようかな。
めんどくさいな。

先輩に聞こう。


色々手法あるな。
どれが良いかわからないな。

自分で決めて失敗したくないし, 
先輩に決めてもらおう。


もっと頑張って調べるか,
手軽に聞くか。

自分の意思決定で勝負するか,
他人に責任をとってもらうか。


このまま頑張らなきゃいけないくらいなら, 
サクッと聞けば良いや。

失敗しても人のせいにすれば良いや。


質問の背景に, 本能と欲望に負けた
情けない天秤が透けて見えてしまう。

意識的か, 無意識的かは知らないが。


まあ, でも怒らない。

めんどくさい。



先日, 後輩から実験の手伝いをしてくれと頼まれた。
朝9時に来てほしいらしい。

その日は午前中にミーティングがあったが, 
相手にお願いをしてずらしてもらった。


そして当日, 直前で準備することがあれば
手伝おうかなと, 8時30分に登校した。

後輩は来ていなかった。


暇潰しに, 次にやる自分の実験の手順を
ノートにまとめた。


9時から10分ほど過ぎた頃に
後輩がやってきた。

一応謝っていた。
1アウトだなと思いながら, 笑顔で対応した。


今日は何をするために僕は呼ばれたの?
と聞いたところ, 

何すればいいんですかね?
そこから聞きたかったんですよ。

と言われた。


2アウトだなと思った。
それも特大の2アウトだ。


君の実験だから僕は知らないよ。
やること決まったら声かけてね。

そう言って, ノートに向き直った。


1時間少々待った。

具体的な実験の流れについて質問されたので, 
ステップごとに説明した。


僕がやることはなさそうだったので
実験室を出て休憩室に向かった。


結局, ミーティングはずらす必要がなかった。

9時に登校したものの, 
正午までに実働は10分程度しかなかったからだ。

でもこちらから日程変更を依頼した都合, 
その日に実施することはできなかった。


次から実験に付き合うのはやめようかなと考えていた。

質問のLINEが来ていたら, 困っているんだろうなと思って
即レスするようにしていたが, それもやめだ。

彼は優先するに値しない。


などと, ぼんやり思っていたら後輩が走ってきた。

僕が研究試料を保管していた装置を勝手に触り, 
収拾がつかなくなったらしい。

操作を教えてないから, そりゃわからんよなと思いつつ
装置を見にいった。


見事に僕の試料はダメになっていた。

もう使えない。
作るのに4週間かかったのにだ。

後輩の1ミス, 3秒でパーだ。


後輩は謝っていたが, 意味がない。
事実は覆らないし, どうにもならない。


謝らなくて良いよ。そう言った。

関わることをやめようと思ったからだ。



10分遅れてきたこと。

10分だろうが, 1時間だろうがどうでも良い。

僕は怒らない。


目的も決まっていないのに, 呼び出された。

暇な時間は, 別の作業をすれば良い。

僕は怒らない。


時間をかけて作った試料がダメになった。

ギリギリやり直す時間はある。捨てれば良い。

僕は怒らない。


何が関係を切るに至らせたのか。


天秤だ。

全ての行動において, 醜悪な天秤が透けて見えた。


相手に感謝し時間を守ること, 
相手を軽視し少しならと気を緩めること。

わかるまで調べること, 
めんどくさいので聞いてしまおうと逃げること。

人の研究に敬意を持ち素直に聞くこと, 
面倒なので聞かずに独断で進めること。


すべてだ。
見事にすべて間違えていた。

行動それ自体ではなく, 
行動に至らしめた天秤が受け入れられなかった。


断っておくと, 質問すること自体が悪いのではない。


調べた結果, AとBとCがあると思っていて, 
僕はAが良いと思ってます。理由はXXです。

先輩はどう思いますか?


これなら僕は一切怒らない。

質問の前に可能な限り調べるという, 
相手への敬意と, 責任を取る覚悟が見える。



色々迷った結果, 素直に聞くことにした。


僕はめんどくさいから怒りたくないんだけど, 
怒ったほうが良い?

後輩は怒ってほしいです, と答えた。


素直に話した。


僕から見て, 君は今日, 三つ間違えた。


一つは遅れてきたことだ。

今日, 9時に呼ばれたけれど,
僕は8時30分に来ている。


君のことだから, 僕が来る前に
一通りの準備は終わらせるだろうと思った。

その時に困ることがあるかなと思って, 
早めに来たんだよ。


実際には, 君は9時10分に来た。

これが一つ目のミスだ。
相手に対する敬意と想像力が足りない。


別に30分前に来いとは言わないよ。

でも最低限の礼儀として, 
君の実験なんだから君が遅れちゃダメだ。


二つ目はやることを決めていなかったことだ。
僕は9時になってから, 一時間以上待っていた。


その時間に入っていたミーティングをずらしたが, 
本当はその必要はなかったと言うことだ。

僕は本当に9時に来なきゃいけなかっただろうか?
気軽に待たせても良い人間なんかいるのだろうか?


三つ目は僕の試料をダメにしたことだ。
他者の研究に対する敬意が足りない。

サンプルを一つ作るにも, 
それなりの労力と時間がかかっている。

そこに対する想像力と敬意が足りていない。


他人の時間と労力を借りるときは,
自分のそれ以上に緊張感を持つべきだ。


さらに例を出そうか。

君は今日, 実験の説明を受けているときに
一切のメモを取らなかったが, 


メモを取る, いっときの自分の労力と, 
もう一回僕に尋ねて僕の時間を奪う損失を

無意識に天秤にかけて, 後者を軽んじているんだ。

これは極めて傲慢だと理解している?
そして, 相手に与える印象を想像していた?


僕は君がとても優秀だと思っていた。

発表資料の文章や説明はわかりやすく, 
実験の結果・考察も十分できている。

先日見せてくれた資料には, 僕も襟を正す想いだった。


でも僕は今後,
君に関する対応の優先度大きく下げることになる。

連絡をすぐに返すことも無くなるだろうし, 
君のために入っていた予定をずらすことはしない。


わかってほしいのは, 

君を嫌いになったわけじゃないし, 
無視するわけでもない。

君を貶めたいわけでもない。


ただ, 信頼を失うとはそういうことだ。

君も22歳の立派な大人だから
行動の責任は取らなければならない。


あと半年, 僕が卒業するまでに
変わってくると僕は嬉しい。



自分で言っておきながら,
よくも偉そうに言えるものだなと思った。


自分だってやってしまっていることがあるだろう。

記事にする中で, 
一文一文が自身に突き刺さる想いだった。



どうしても記事に残しておきたく。

心良い内容ではないが, 
きっと時々見直すと思う。


過去の自分に同じことを言われないよう, 
後輩に負けず, 僕も進歩し続けたい。


人に言うからには, 
自分は完璧でないといけない。

投げた言葉は自分に返ってくる。


いや, 僕には誰も返してさえくれないかもしれない。

僕はもう生まれ変わりを期待されるような
若葉ではないのだから。


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