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2019年に観た映画ベスト10

ワーストに引き続きベスト10を。

・ベスト10
Pain & Glory(邦題未定)

狂気の変態監督アルモドヴァルも自伝的映画を撮るようになったんだなぁと感慨深くなる。とはいえ一筋縄ではいかないところがさすが。

自分自身を重ねてるだけにメタ構造が折り重なってて、フィクションを作るということ自体を客観するような構成はすごくハッとさせられる。ラストシーンは思わず唸ってしまった。

画の構成もすごく面白くて、カメラが動くことで異世界というか映されてる場面の次元が切り替わるようなシーンがたくさんある。それがアルモドヴァルの持ち味の極彩色とバッチリハマってて陶酔感がすごい。音楽もよかった。


・ベスト9
The Lighthouse(邦題未定)

ウィッチの監督の新作。個人的には前作より好きだった。心理スリラーとラヴクラフトの世界観を混ぜたような禍々しさと、主演二人の怪演がなかなか見応えある。ウィレム・デフォーがもうアニメとか絵画ばりのデフォルメ感ですごい。

モノクロの効果を極限まで使った陰影と光の演出は、それだけで観る価値あると言えるほど迫力と美しさ、恐ろしさがある。

モノクロのレターボックスサイズで観る映像はかなり"作品"としての趣が際立ってて、逆に没入感があるのが面白かった。後日知り合いに聞いたけど、4:3の画面比率の映画がまた増えてきたらしく、そういえば先日見たMid90sとかもそうだった。

話自体はめちゃくちゃシンプルなので、抽象的な出来事やセリフが続いてもあまり混乱することはない。


・ベスト8
アス

Get Outにはやはり劣るけど、映像や表情、動きの不気味さはすでに確立されたものがある。不条理ホラーとして油断して観てたので、ラストはまんまとひっかかった。

結構日本では否定的な意見が、特にホラーファンからは多かったようだけど、そのだいたいがホラーを依り代にして貧困などの裏テーマを描いていることへの「ポリコレアレルギー」というか、「ホラーに愛着がない」というような、自分がBlack Chistmas(2019ワースト7)で言っていたことと被る批判だったけど、最近見かける薄っぺらなダイバーシティ映画に比べたらよっぽど切実に作られてたと思うし、そもそもホラーって例えばゾンビのように社会的な問題などを被せて描く文化があり、また相性も抜群と言う意味でこの映画は正しいホラー映画だと時個人的には思う。


・ベスト7
ゴジラ キング・オブ・モンスターズ

自分も少年だったから、とかいうとこれまでの文脈からボコボコに批判されそうだけど、やっぱりモンスターや宇宙にはいつまでたってもワクワクする訳です。

ギャレス・エドワーズの前作も結構気に入ってて、不恰好ながらに監督の味が出た、神格化というか持ち上げられたゴジラ像もなかなか好みだったんだけど、今回はもはやゴジラを神棚にあげて土下座しながら拝み続けてるようなわっしょいっぷりが清々しく、かつ満足度の高い重めのアクションと、神話のようなテンションで描く怪獣たちのビジュアルにかなり満腹にさせられた。

怪獣映画では邪魔になりがちで、でもないと映画として成立しない人間たちのドラマも絶妙なバランスで展開していて、家族の愛みたいな野暮ったいテーマをうまく添えながらも、怪獣を美しく力強く描くことをあくまで優先しながら成立させていて上手いと思った。

これまで観たゴジラ映画のなかでは(たいして日本のシリーズ観てないけど)シンゴジラの次に好きかも。


・ベスト5
ミッドサマー

アリ・アスターは本当に凄い。ヘレディタリーからわずか1年でまたこんな恐ろしいものを作ってしまうなんて。

この監督は常に題材をパーソナライズして描く事で作品をユニークなものにしている。前作含め、題材自体はいつも、なんだったら今回は少し残念に思うくらいスタンダードなものだったけど、単にオカルトや田舎のカルトを描くのではなくて、個人的な贖罪や苦しみとの葛藤をリンクさせる事で新しい視点をもたらしている。

それが故にちょっと監督の心配してしまった。どんだけ苦しんでんだよこの人。そのうち自傷とかしなきゃいいけど。

ドラッグ映画としてもなかなか的確?に描いてて、そこの側面あまり議論されてないけど一考の余地があると思った。

ひとつ、この先の期待としては、これまでの2作が表面上の設定は違えど描いてるものは全く同じだったので、今後はそこごと違った作品を作ってくれるといいな、と。


・ベスト4
ジョジョ・ラビット

これは上手いとしか言いようがない。ワイティティ本来のヒューマンコメディと子供の成長記、そして戦争、分断を描くのを同時にやって、しかもちゃんとそれぞれ成立させ、さらにそれぞれの要素が交わるところで新しい視点を生み出すという離れ業をやってのける。前からうまくバランスとれた映画撮る人だったけどここまでやれちゃうとは。

まぁ逆に、上手くまとめるために結構演出や展開とかはベタなところに収まってたけど、それだけにシンプルにメッセージが伝わるので、観る人の映画のリテラシーに関わらず広く受け入れられるだろうと思う。
ただ観る前にちゃんと第二次世界大戦の知識は改めて入れておくべき。それ抜きに感動したとか言っちゃダメだと思うけど、言うんだろうな結構。

ただ、これは前々から個人的に許せないというか納得できないポイントなんだけど、自分のなかで「言語のコロナイゼーション」としている現象がここでも盛大に導入されてて残念だった。
メインの市場である北米に向けてるのは分かるけど、なぜドイツの物語をアメリカ人が英語で演じるの?いくら外国語映画が受けないからって傲慢すぎない?
自分はこれを許したくないし、人種やジェンダー、LGBTQに対する最近の過剰なまでの配慮に相反して、言語の視点ではそこが鈍感すぎるというか完璧に容認されてるのは絶対におかしいと思う。
例えば日本が舞台で日本人の日本語の話をアメリカ人が日本語なまりの英語で演じるようなもんだよ。これは言語上の差別だと思う。
特にこの映画に関しては敵国であるアメリカ軍も少し出てくるからもうフィクションだとしても統合性が取れなくなっちゃう。

物凄くよくできた、個人的にも響いた作品だっただけにこの部分は本当に残念。

ただ、後日そこのところをスペイン人の友達と話し合ってた時に、ドイツ人がこういう形で自国の汚点を笑いの視点から批判することはまだできないという点で、他国でしか作り得なかった作品だからこの映画(このテーマ)に限ってはある程度正当化されるのではないかという話をしていてなるほどな、と思った。それでもそれがドイツ訛りの英語を話す言い訳にはならないとは思うけど。


・ベスト3
サスペリア(2018)

「君の名前で僕を呼んで」は観客にインテリぶってる小金持ち風の人が多くて雰囲気が気に食わなかったんだけど(映画自体はよかった)、そういうエセ文化人がこれをどう評価するのか想像してすごく愉快になった。

レトロなカメラワークと、叫び声や鋭い息遣いなど耳を追い詰める音響に容赦ないスプラッタ描写と現代アートを掛け合わせた強烈なビジュアル。オリジナル版のサスペリアをはじめとした原色系のクラシックホラーにオマージュを捧げつつ、監督の持ち味である愛情、それを通わす人間関係を見事にホラーに落とし込み、さらにイタリア人のなのに事細かに調べ上げたであろう東西ドイツの分断まで真摯に描いた怪作。

ヒントが多すぎて一度観るだけじゃ理解が追いつかないところがたくさんあるけれど、決して退屈なアート映画にさせない画作りと展開で2時間半があっという間に過ぎていく。

ダンスもかなり面白くて、コレオグラフィ単体でも称賛に値する完成度。


・ベスト2
ジョーカー

この映画、すでに言い尽くされてるようにあまりに現実とリンクしてしまっていて危険すぎる。と初回観た時に思った。自分をはじめ多くの人間は主人公(ジョーカー)に感情移入してしまって、彼の行動にシンパシーを感じてしまう。そして感情移入せざるを得ない、映画の中で描かれる弱者に対する社会の仕打ちが、映画的に描かれていながらも現実のシチュエーションとがっちりリンクしてしまうという危険さ。

主人公は個人レベルから社会システムレベルまで、フィジカルからメンタルまでボコボコにいじめられ続ける。そのいろんな側面のどこかに、観客の弱さ、フラストレーションがリンクし始める。そこからのラストは、単純に映画として見事なクライマックスであるとともに、ある種快感を伴うものになっているのだが、映画が現実とリンクしているだけに、その人道に反する危険な行動に快感とシンパシーを感じてしまうということに対して、観客がそれを単なる気づき、問題定義として冷静に受け止められない場合、最悪この映画にあるような行為が実際に起きてしまうのではないかと、最初に観た時にとても不安になった。

ネガティブに書いてしまったけど、そこまでの感情を抱かせる完成度には文句の付け所がなく、危険だからこそ今この時代にこういう映画を作ったと言うことは称賛したい。とても意義のある作品だったと思う。個人的にも響きまくりだったのだけど、破壊衝動とかは起こらなかったのでご安心ください。

しかしなんて世の中になってしまったんだ。バットマンでなくジョーカーが「ヒーロー」になってしまうなんて。


・ベスト1
パラサイト

韓国での旅行中に英語字幕の回があったので観賞して以来、取り憑かれたようにカナダに帰ってからも数回劇場に足を運んだ。間違いなく2019年トップの映画。

前年のパルムドールで是枝裕和が描いたくそ真面目で暗いテーマを、ポン・ジュノが撮るとここまでエンタメなブラックコメディになるのか。最高すぎる。

何度も観てると展開やカメラワークなど、用意された要素に無駄がなさ過ぎて思わずため息が出てしまう。どこにいくか全く予想のつかないストーリーと各パートの完成度の高さ、緊張感、笑いとバイオレンスのバランス。ポン・ジュノお得意のアクション、スローモーションとクラシック。どこをとっても完璧すぎて開いた口が塞がらない。笑ってドキドキして泣けるなんてディズニー映画もびっくりだよ。

これだけエンターテイメントというか、表面上の見る映画としての面白さにあふれていながら、止めどなく、しかし押し付けがましくなく言及される貧困、格差のレファレンスは非常に冷淡というか容赦無く描かれており、映画が面白ければ面白いほど観るのが辛くなってくるという業の深い作品。

MVPはゴラムを地でいくあのおじさん。


しかし、今年はアスやジョーカー、このパラサイトなど、社会の分断、貧困を描いた映画が一斉にヒットして表に出てきて、どれだけ世の中住みにくいんだよと、それらの映画の面白さに反して悲しい気分になった年だった。観てないけどケン・ローチの近年の作品もまさにそれを扱ってるみたいだし。

一方でディズニー一派の能天気なマーケティング映画が興行収入ランキングを更新してたり、ちょっと文化圏を離れるとまだまだ世の中鈍感というか、これだけ首の皮一枚で繋がってるような危うい世の中で全身タイツのおっさんおばさんたちに熱狂するようなアホな人たちもたくさんいる訳で(彼らの情熱はある種現実逃避なのかな、と考えたりもする)、映画をクリティカルに楽しむことの重要さを再認識したりする。


今年はどんな映画に出会えるのか、楽しみでもあり、不安でもあり。それでも引き続き映画を観ていく。

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