見出し画像

「nostalgie 一章」No.5



わぁ……。
ファインダーを覗いた私は思わず感嘆の声を上げた。

「ねぇ、秦さん、秦さん何かね、違う!違うよ!」

 解読難解な言葉を繰り返す、私。

ーー今まで覗いていたファインダーから見る感覚とは、全く違うのだ。

テーブルの上に無造作に散りばめられたビーズは、太陽の柔らかい光を浴び、キラキラと輝いている。
 熱もダルさも瞬間的に忘れ、はしゃいぐ私に、秦はその姿を見て笑っていた。

「たくさん、撮ってご覧よ」
「シャッター押すの、緊張するよ〜」
「何故?......変だよ、それ」

「いいから、いっぱい撮ってご覧」

「失敗なんかないから」

「え?」
「ブレてるとか、秦だって失敗した〜!って、言ってるじゃない」
「どういうこと?」

「失敗したって構わないってことさ」

ーー失敗がない?

「ねぇ、秦さんは『これ』をどんな風に撮るの?」

「俺?俺のはいいの。俺のことは気にしない」


 何故、秦が写真に夢中にるのか私にはわからなかった。
写真を自分が撮られるのも好きじゃないから、興味なんかない。

そう思っていたけれど......

秦が用意したキラキラと光るビーズは、
ファインダーの中で不思議な感動を覚えた。

四角い枠は、絵画の額縁のようで......
その先は絵画を描くようでもあり......
頭の中でイメージを描いていく。

それは、多分、さっきまで抱えていた
ごちゃごちゃしたものを全部忘れ、
四角い枠の中へ脳の中の全てが、『トリップ』していく感じなんだ。

目の前の世界は自分だけのもの。
私だけの世界。
そして、
そして......
いくらシャッターを切っても、

「失敗してもいい」
 私はいつも何かに恐れてた。
もしかしたらそれは「失敗すること」かもしれない。


 子供の頃から白い画用紙に向かっては、何を描いていいかわからなくなり、真新しいノートを買っては、「汚く書かないように」と緊張しては、
消しゴムが使えると安心してた。


秦さんが写真を撮るのは......
そこにあるのは「パッション」
『?』


  私たち二人は、人には言いたくは無い、
息を殺すように生きていたそれぞれの過去があった。
何かを「感情を」剥き出しにすることを恐れていた。
  でも、不思議と秦には言えた。
そして、秦も私には自分のことを話してくれた。
怪我して転んで蹲っていた、過去の痛み。
その痛みは二人なら分かり合えると思っていた。
秦さんをわかっているような気になっていた。

でも、違っていた。

今......

君、秦さんを少し知ったような気がした。

つづくーー



第一章 了



この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?