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海を見つめる椰子の実

一番大きく見えるフララップ島が、群青色の海の色に白い砂浜の輪郭に囲まれて、緑一色と見えていたのに、フララップ島に第一歩を踏み閉めて驚いた。大発の着く附近の椰子の木は、爆弾で傷つき、葉は折れて色があせ、そんな木に二、三個の椰子の実が、しがみつくようにぶら下がっていた。その下には大きな弾こんに水が浸かり、中には割られたり、傷ついた椰子の実が浮かんでいた。そんな光景を目のあたりにした時、孫呉でえがいていた赤道直下にはきたけれども、椰子の木陰でてくてく踊るなんてもっての外で、これが戦争の傷あとだと思い知らされた。フララップ島でも島の中央に入ると、にょきにょきと枝の無い椰子の木が密生されていたが、この木の椰子の実を取ることは許されてなかった。落ちているのを探すけれども、兵隊の数が多くて手に入らなかった。フララップ島の飛行場の突端から、パリアウ島の南端に高射砲隊が陣地変換した時、敵機を早く発見する為に、陣地内の椰子の木は全部伐り倒された。この時始めて、青い椰子の実を割り、中の水を飲むことができた。青い椰子の実のコプラは生いかのようにきょろきょろしていた。赤茶けた枯れた椰子の実のコプラは、固くかみしめると味があったが、口の中にかすが残り、のみ込むまでには相当かまなければいけなかった。

引用文献:金沢英夫(1988)『メレヨン島生還記』P168(株)アルププロ

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主人はチュークの彼がする話を教えてくれた。
ココナッツにも種類や形によってそれぞれ名前があるということ。
ココナッツの若い木が砂糖みたいに甘くて、タケノコのようなそれを掘り返しては、家に持ち帰り、食べるのが大好きだったということ。
ココナッツにまつわる伝説。
これは下ネタになるのでここでは言えない。

おじいちゃんの本を再び読み始めたわたしは彼の話を聞いては、時代を重ね、自分がミクロネシアの椰子の実の下にいる想像をしていた。

ある時、私は和食をチュークの友達に食べさせてあげたいと思った。主人がハワイ島で採れたごぼうをもらってきたので、きんぴらごぼう、かぼちゃペースト、小魚サラダを作ってあげた。全部美味しいと言って食べてくれた。彼らの息子がかぼちゃペーストが気に入ったと言ったので、レシピを教えてあげた。チュークにもかぼちゃがあり、それは日本人が持ち込んだようだ。その話はおじいちゃんの本の中にも出てきて、チュークからかぼちゃの苗が届き、それを育てては、ネズミに食べられた話。
雄花が咲くのを毎朝期待し、咲いた時に花弁の中の甘い匂いを感じた時のこと。
メレヨン島には蜂がいないので、人工交配をし、ネズミに食べられないように缶で保護してあげたこと。
そしてできたかぼちゃの一切れが草や木の葉を食べていた口にはこんなに美味しいものだとは知らなかったと言って、勿体なく食べていた話。
このかぼちゃやココナッツなどの繋がりを見つけては、自分がここ、ハワイでそれらを口にする度に、この話を思い出しては不思議な感覚が生まれくる。

初めて、彼らのうちに遊びに行ったとき、わたしのかぼちゃのレシピを大切に保存してあるのを見て、わたしは嬉しくなった。

奥さんが写真を見せてきた。

「これ、わたしのいとこなの。あなたに似てるでしょ。」
そして、どんどん話の場所がチュークへと移って行く。
「わたしのおばあちゃんは経験ないと言っていたけど、おばあちゃんの妹は日本人とのセックスを楽しんだって言っていたわ。」
チュークが大日本帝国だったことで、その島にどんな日本の街があったのか。地元の人にどんな影響を与えていたのか。変えることのできない過去の事実を、わたしは彼らの話を聞きながらしっかり受け止めていた。

黄色い沢庵を親指と人差し指でつまみ、美味しそうにたべる彼女。
白米をお皿いっぱいに乗せて、渡されたけど、一人で食べる量なの?と思わず笑いながら聞いた。
ご主人は大胆に網状に切ったマグロを、食事に使うとは思っていなかったプラスチックのケースに入れて、これが俺のスタイル!という感じでマグロを手で掴み、食べる。

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手で食べることが気持ちよくて、沢庵と白米とマグロでわたしのおなかはいっぱいだった。

彼らとわたしのおじいちゃんとおばあちゃんも私たちと一緒に食事をしているように感じた。同じ戦争の時を、近くの島で過ごした戦友同士。そしてわたしの主人のアメリカ人も一緒に食事をする。戦後の日本の平和条約や、アメリカが行なっていた戦争の為の実験が原因で、すべての過程があり、私たちはこの島に今一緒に生活している。お互いの理解を深めるのはまだまだこれからも続く。

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Swimming together  2020 April  

わたしたちの未来はこれからどう変化してくのだろうか。そんなことを考えながら、海の中で一緒に泳ぐ生き物を描いた。

これからの未来の為に、わたしは何かに目覚めた気がする。
おじいちゃんが、様々な視線からわたしにヒントをくれる。

Aloha


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