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25作品目 映画「違国日記」

どうも自家焙煎珈琲パイデイアです。「淹れながら思い出したエンタメ」作品目の今回は映画「違国日記」です。
新垣結衣さん演じる小説家の高代槙生は事故で両親を亡くした中学3年生の姪っ子、田汲朝が親戚に心無いことを言われているのに耐えられず、勢いで引き取ることに。
「あなたの母親のことは大嫌いだったから愛せるか分からない」という言葉で始まる二人の共同生活を通して、他人とのコミュニケーションが苦手な槙生と、大人の世界を少し覗き見た朝が心を通わせていく物語でした。
ざっとしたあらすじ、というか、ざっとし過ぎたあらすじでした。

ひとまず、私は新垣結衣さんの仕事選びに全幅の信頼をおいています。
キャリアを積んで以降の彼女の出演作にハズレはまずありません。仕事を外さない、私は、これは役者の素質の中でもかなり重要な部分だと思っています。
今作も例外ではありません。

この映画の良かったところは、「違い」を理解し合うものではなく、その存在を認知するものだと捉えているところでした。
二人の間には、槙生にとって大嫌いな姉、朝にとって大好きだった母の存在があります。同じ人間を他方は憎み、また一方は愛する。
朝は母親に対する槙生との違いを理解し合おうとします。どうして、槙生はお母さんが嫌いなのか、問い詰めます。
それを知れば、そこからこじ開けて、お母さんを槙生にも好きになってもらえると考えたからです。

私は珈琲が好きです(珈琲屋やるくらいだから当然か)が、嫌いな人ももちろんいます。
そういうとき、「珈琲のどこが嫌いなの?」とつい聞きたくなります。嫌いな理由が、私が説くことで、その人にとって魅力に変わるかも知れない、なんて考えるからです。
考えてみたら、これは人の「嫌い」を自分の力で変えられるだろうという、思い上がりみたいなものすら見受けられます。

朝が槙生に母親が嫌いな理由を問い詰めるには、自分は槙生の気持ちを変えられる、という思いがあるのです。
それに対して、槙生ははっきりと

あなたの感情も私の感情も自分だけのものだから、分かち合うことはできない。
あなたと私は別の人間だから。

とピシャリ。しかし、だから言って、他人同士の槙生と朝が一緒に暮らせないわけではありません。それに逆説的に言えば、一緒に暮らしている家族が「理解」し合っているわけでもないのです。

朝の発言には「大人だから」という思い込みがちらほら聞かれます。
初めて槙生の家にきた朝は「大人だから片付けが得意」だと思っていました。大人だから軽音学部に反対されると思っています。
その朝を押さえつける「大人だから」は母親の影響であることが後でわかります。
母親だって、一緒に家族をやっているのに朝のことを理解していなかったのです。

槙生の友人として、登場するのが夏帆さん演じる醍醐奈々です。
印象的だったのは槙生、朝、そして醍醐の3人で餃子を作るシーンです。
このシーンは槙生と醍醐がなんで友達でいられるのか、つまり、槙生と醍醐が違いを理解ではなく、共有するものだと認識を共にしていることが伺えるシーンでした。

焼き上がった餃子を前に槙生は醍醐のグラスにビールを注ぎます。そのとき、槙生の前にあるビールと醍醐のビールは銘柄が違うのです。
ビールなんかどれでも同じ、だからこそ、相手も自分と同じものいいだろう、と選ばれてしまいがちなビールですが、二人は自分の好みで選んでいるのです。
二人はビールの趣味の違いを、認め合っているのです。
なんでもないものがテーブルに並んでいるシーンですが、非常に良かったです。
夏帆さんの朝に対してちょっとお姉さんを演じる醍醐の感じもすごく良かったです。

ラストのシーン、ノートの使い方もさりげなくて、しかもそのノートが二人の関係に展開を与えたノートだという辺りも含めて、プロットも非常に良かったです。

多様性という言葉が、多くの人がその意味を理解する間もなく、広がるだけ広がってしまい、あたかも理解できるものだ、えもすると、理解「しなくてはいけない」ものだという風当たりの強さすら感じます。
しかし、他人と私が違うなんて当たり前のことで、私たち多様性という言葉の以前に、私があなたが違うとは、ということへの考えを巡らすべきだったのだろうなんて考えます。

〈information〉
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