見出し画像

Myシドニーポートレート#5

ホームステイ先であるシェアウッド家の朝食は、棚にある食材から好みのものを各々が取り出して食するスタイルでした。
私はシドニー駅の売店でドーナツとりんごを買って歩きながら食べることがほとんどでしたが、ごくたまにコーンフレークに牛乳をかけずそのままポリポリとつまむこともありました。

ある日の早めの夕食後、私がリビングの床に座って宿題と格闘していると、ホストマザーのスージーが朝食の棚をのぞいて言いました「大変!コーンフレークがないわ!」
共にホームステイしているドイツ人のマートンとデンマーク人のヴィヴィカは、毎朝コーンフレークを食べている様子でしたのでスージーは慌てています。
「テツヤ、マートンとヴィヴィカは帰りが遅いからあなたがボタニーの商店街で買ってきてくれる?」とスージーがこちらに来て言いました。
「本気で言ってる?バスあるのかな?」
私はペンを置き少し投げやりに言いました。
「バスはまだあるからお願い!」とスージーは少し強い口調になりました。
彼女の短気さは皆の知るところなので、私は少しため息をついて「分かったよ」と言い、家を出ました。

シドニーの9月はまだ春先で寒く、私は身を縮ませてバスを待ちました。
程なくしてバスがやってきて、私は誰も乗っていないバスに乗り込みました。
走り出してすぐ、窓外に目をやるとそこには工場の巨大なサイロが幾つもならんでいて、私はそれを眺めながら苦笑いをしていました。
サイロにはやはり巨大な文字で「kellogg's」と書いてあるのです。
その中にはおそらくは大量のコーンフレークが収められているのでしょう。
私は暗闇に小さくなってゆくその文字振り返りながら、10分先のボタニー商店街へ向かうのでした。
『明日の朝は久しぶりに家でコーンフレークを摘もうかな』過ぎ行く街の灯りをぼんやり眺めながら、心の中でそう独りごちながら。

🎵 This Ain’t Love Song
  Bon Jovi 

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?