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6.ハチクのあくを抜く 長野ゲストハウスヘルパー体験記

 2021年6月12日 午前9時。午前中はキッチンを自由に使えそうだ。今やるしかない。

 「2軒隣のご近所の方からいただいたから、ここに置いていくね」と宿オーナー飯室さんが言い残して、謎のものをキッチンに置いて行った。なんですかこれ、と宿の常連さんに聞く。ハチク、との回答。調べれば「淡竹」という字のようで、その文字の通り竹であることが分かった。ということは、これは知っているものより細長いけど、タケノコのようなものだと理解した。

 宿のキッチンは基本的に自由に使える。もちろんゲストが優先だが、空いている時はスタッフも自分たちの食事をつくる。現在はスタッフが3人住み込んでいるので、食事時は使っても良いか、いつ使うか確認、調整が必要だ。
 淡竹は馴染みのあるタケノコと同様、あくを抜いてからでないと食べられないようだ。20〜30分茹でなければならないし、わたしはタケノコのあく抜きをしたことがないので、大いにまごつくと予想できた。ついでの料理というモチベーションではできない。こうして、わたしのせいで淡竹は3日間ほどキッチンの隅に置かれたままになった。

 「そろそろ手をつけなければ淡竹がかわいそう」とキッチンの隅が目に入るたび思っており、やっとある日の午前中、3時間ほどキッチンが使える、わたしも時間があるというタイミングが訪れた。やるしかない。

 まず、初っ端からあると言われていた重曹が見つからない。まだ宿に来て1週間経っていないので、少し遠慮して引き出しをガサゴソする。が、どこにもない。米のとぎ汁でもあくは抜けることを突き止め、2合米をとぐ。とぎ汁は調達できた。

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 次に淡竹の皮をむいて、切る。どこまでむいて良いのか分からないので、勘だ。

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 鍋に入れて、とぎ汁を淡竹がヒタヒタになるまで入れる。火にかけ、沸騰したら弱火にして20〜30分煮る。

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 待っている間、歌でも歌いたかったが何も頭に浮かばず無言で鍋を見つめる(だいぶ前に“ほぼ日”の連載で、糸井重里さんが生姜を煮ている間に歌を歌ったというエピソードを思い出した)。煮えたらそのまま冷めるまで置いておき、タッパーに煮汁ごと入れて冷蔵庫に収めた。味見すると、無事にあくが抜けたようだ。香りが良い。
 せっかく2合米をといだので、半分はタケノコごはんにする。材料がなかったので、タケノコ、ベーコン、白だしで炊き、その後醤油とバターを混ぜ込んだ。彩りに紫蘇を刻んで乗せる。味は淡竹のせいではなく、味付けのせいで正直まあまあだった(と言えるのはつくった人の特権)が、すーさんとみどりちゃんが喜んで茶碗2杯も食べてくれた。

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 普段、スーパーでは自分で買おうと思ったものしか手に取らない。そして購入するものは、大部分が扱いを分かっているものだ。予期せぬ食材に出会い、悪戦苦闘しながらも料理の経験が増えるのは、ヘルパー生活のうれしい副産物。次の未知なる食材との出会いはいつだろうか。



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