旅立ち。

時季外れの
旅立ちは
不吉な予感だと
ばあちゃんが云った

駅のホーム
見送った
４０年前

もう二度と戻らない

あの時
手を離さず
「行かないで」
そう言えた

何万回後悔しても
戻らないの

電車の事故など
ありえない
電車の事故で
亡くなるなんて
想像もつかなかった

「いつもと違う」
期待するボクらに
ばあちゃんが釘をさす

いつも同じ日々を
過ごすことに
感謝もしないで
後で後悔しても
戻らないんだよ

当たり前なんて無い
毎日同じように
過ごせるありがたさを
わからない人間は

いつもと違う日々
こなせるわけもない

いつもと違う
そのことで
事故や事件が巻き起こる
そんな用心しないと
絶対に危険だよ

どんな時も
どんな事柄も
「ゆっくり」
対応して
とりかかる

安全で安心な
自身の暮らしのために

さあ、行きなさい

新しい旅立ち
「期待」なんてしたら
打ちのめされるだけ
「苦難」へ
飛び込むつもりで
行くんだよ

いつでも
帰っておいで
やりなおしは
何度だってできるんだ

ばあちゃんの
小さなからだ
しわしわの隙間から
滲む涙

かさかさした
ばあちゃんの手を
ギュッと握ってた

あの日の
あの場所へ
ばあちゃんの前に
戻って
「ありがとう」
そう言って
抱きしめたい

ばあちゃん
会いに行けば
よかった

心配させたね
苦労かけたね

ボクは大丈夫
そう伝えたい

ありがとう
あなたのおかげです