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60歳からパチスロ専業を目指した男の話②

第1話はこちらです⇒https://note.com/pachislot_novel/n/ndeb099c26792
第3話はこちらです⇒https://note.com/pachislot_novel/n/nb2dfc8809d81



老年期を迎え、夫婦関係は落ち着くかと思われた。

若い時から藤吉は妻との夫婦喧嘩が絶えず、家庭内不和は日常茶飯事だった。
原因はパチスロ。
月の給料の使い込み、お小遣い制を余儀なくされた藤吉は、消費者金融にまで手を出した。
それでも妻は、あの手この手で家計を支え、一人息子を大卒まで育て上げた。
息子は家庭の事情を察してか、奨学金制度で進学した。

藤吉は罪悪感こそあれど、パチスロを辞めることができない。

「パチスロは勝てる。」
と幾度となく耳にはしていたものの、初老期を迎えようとしている藤吉は、情報量が圧倒的に少ない。
遠隔を疑い、波理論を信じた。
独自の理論でしか立ち回れない環境だった。

定年まで勤め上げた会社も、40代で再就職した為、退職金もさほど無い。
現在は夫婦で年金暮らし。
それでも妻は、老後の為にと貯蓄は続けていた。

総務省の調査によれば、定年後の夫婦の実収入は22万円程度。
藤吉夫婦は金銭にゆとりが無かった為、年金の繰り上げ受給で生活していた。
平均値を下回った受給額で、生活をやりくりするのは大変だ。
金銭管理は未だ妻が行っているが、今回の特別定額給付金は、退職祝いと銘打ち、藤吉の元へ渡った。

祝い金である給付金の半額を失った藤吉は、翌日、パチンコ店へ車を走らせる。
手元には現金5万円。
本日の作戦は以下の通り。

・昨日、大ハマリしている海物語を朝一から打つ。
・単発なら辞める。確変ならしばらく様子を見る。
・海物語が駄目なら、100G以内のジャグラーをカニ歩き。
・ある程度の出玉を得ることができたら凱旋へ。

前日の布団の中で、藤吉は奮い立った。
「これならば…!」と謎の確信を得た。
給付金の半額を失った事実を忘れ、取り戻すどころか圧勝を夢見ていた。

現地到着。
時刻は8時30分。
前には10人ほど並んでいたが、何故か前日の海物語は取れる気がした。

予定通り前日800回転のハマリをみせた海物語に着席する。
開始50回転。投資は4000円。
あざやかな魚群。いつもより魚の数が多い気がした。
藤吉は表情一つ変えなかったが「ニヤリ」と心中ほくそ笑んだ。
結果は確変大当たり。
感情を抑えきれなくなった藤吉は、勢いよく尻を浮かせ椅子を座り直した。
口を尖らせ静かなる歓喜の雄たけび。

「っしゅーーーー」



そして、藤吉は負けた。


信じてやまなかった海物語も3連で終了。
元より曖昧な作戦だったが、その後、実行することなく、一度確変を引き当てた海物語を打ち切った。
現在の時刻は22時15分。
残金は800円。牛あいがけカレー並盛を食べて帰宅する。

珍しく妻が起きている。
首には数珠…のようなネックレス。
「なんだ、誰かの葬式だったのか?」
藤吉は尋ねたが、妻は返答しなかった。
藤吉はひどく疲れており、風呂にも入らず床に就いた。

「もしもし、佐伯さんですか。本日、お御霊を授かった川野です。はい、本日はありがとうございました。これで私も救われますでしょうか。はい、是非、他の御神体も見せて頂きたいです。それと、集いの日なんですが、あいにく息子と用事がありまして。ああ…そうですか…。皆様参加されるんですね。はい、お力いただきたく存じます。はい、何とか参拝するよう努めますので。はい…それでは…。神仏の命は我が名の元に。おやすみなさい…。」


つづく


第3話はこちらです⇒https://note.com/pachislot_novel/n/nb2dfc8809d81

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