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雲散霧消

私が私であるために私の夢を壊し魂は売った。何が私を裁き、連れゆくのか。
宛のない暗闇の中で、1人の名前を呼ぶけれど一向に誰かが来る気配もない。私はひとりぼっちになってしまったのだろうか。

19歳の時から5年付き合った彼と別れたのは、5年と1ヶ月と3日。
あんなに幸せだったはずなのに最後はお互いを啀み合う言葉の日々。

同じ家に帰り寝て起きて、手作り弁当を渡すだけの関係。

壊れていた心に塩を塗る彼、傷口と心の距離は開くばかり。

日常に終止符を打ったのは彼の方だった。

完全で完璧な服従関係。
共依存、歪んだ愛情
お互いしか愛せない愛。たとえそれが偽りでも時が流れれば真実になると

未来があると。

情けなくも、私は一種の信仰宗教のようなもに縋っていたのだ。
いくら情をそそぎ続けても底という常識を失った、心。
埋まることないコップに決して溢れる事ない感情。

そんなつまらない毎日に彼は色をつけようとしてくれた。
期待に応えられない私と彼の関係は時が埋めてくれるものだとお互いが信じ、永遠を口約束だが誓い合った。
愛されていた。
幸せだった....

でも、苦肉にも始まりを奏でたのも、別れを決めたのも全部全部彼一人だった。
そこに私は存在しなかった。
私の意志など最初からなかったのだった。

なのにそんな彼が大好きだった、そして彼に恋い焦がれている蛍のような自分に狂っていた。
本質に気がついた時には遅かった。

私は彼が居ないとと生きていけない
つまり彼の世界でも、私が居ないと生きていけないのだとばかり...
でも、私なんて居なくても彼は幸せそうだった。
寧ろ私が居ない方が自由で水を得た魚の姿、私の好きだった彼がそこに居た。

その時初めて私自身が彼を壊してしまったのだと、何よりも忌み嫌っていた母親にされた愛情の暴力の連鎖をいつの間にか繰り返していたのだと。
本当はただ、自分しか愛せない利己的な醜い心で束縛し続けていたのだと。

追い詰め続けてしまった償いをし、夢の時間を終わらせる時がきてしまったのだ。

私が愛した本来の姿に戻してあげなければいけない。
愛し愛されるれることが心から似合う彼の姿へ。

最後は憎まれてこの人の中から綺麗に消え去ってあげなければこの人は一生、人を愛しきれなかったことを悔やんで苦しみ続けると彼との日々が私に教えてくれた。
最初で最後の彼への愛情の見せ所が来たのだ、
今まで私を愛すことを辞めないでくれてありがとう。
誰もが愛を具現化し見せることを諦め、見放した私に本当の愛を教えてくれてありがとう。
そう心込めて、自分を殺した。

サイレンが鳴り響く。怯え、憎悪で溢れた彼の泣き顔は実に心地よかった。
最後に見た顔は....
赤い光が私を包み、ドクドクと脈打つ心臓から流れる血はどこへ行くのか。

最後まで嘘をつき続けた彼の言葉は

「またね。」

随分と長くいたからだろうか
私たちは愛し合ったんじゃない

似てただけなんだ。

彼が隣にいない世界は、暗く狭く出口がどこにもないように思えた。


男の傷は男で埋めた。
生きていると実感した、そそがれる白濁の液。
それが禁忌に触れる行いだとしても。
リストカットなどの安易な自傷行為のやり方より愛されながら自身を傷つける行為はひしひしと私よ心を高めた。
スリルとのせめぎ合い。
今、この瞬間だけはこの人とってその場限りであっても私がかけがいのない相手であり。必要なのだ。
欲を吐き出す為にこんな私に縋っているのだと感じるだけで高揚を覚えると同時に自身に深く絶望した。

その気分はまさに彼と出会ったばかりの輝かしい自分の心そのものに酷く似ていた。
なんて醜い心なんだろう。

闇に堕ちゆく身体が心の後おうように、心地よいリズムで奥に侵入した穢れは私を満たす。

月の満ち欠けが1周した頃、
二人で食べたラーメン屋の味がわからなくなった。
彼の顔が思い出せなくなった。
絡め温めてくれていた指先の感覚が冷たくなった。
囁く声の響きが届かなくなった。

1つづつ順を追って彼への気持ちを押し込めた。
なのに、なのに部屋に残る大嫌いなタバコの匂いだけは残ったまま鼻を掠めるのだった。

全部は持って行ってくれなかった。
そう簡単に人生は都合良くは進まないものだ。

耐えきれなくなった私は全てを忘れたくて、デイビゴを口に含みストゼロで流し込む自殺まがいの行為を何度も何度も繰り返した。

私は正真正銘狂ったのだろう。
ついには彼の幻覚を見るようになった。

夢の中の彼は幸せそうに隣で笑っている気がする。
ストゼロは私の時の香炉だったようだ。
時を繰り返した。
1年目、2年目、3年目、4年目、5年目と1ヶ月

「夢の中だけでも会いに来てくれて嬉しいよ。
もう二度と幸せな姿は拝めないと思っていたから、別れの言葉をやり直そう。あと3度だけ現れて欲しい、そしたら思い出にするから。」

お別れしよう。

1日目
助手席で眠る私にそっとキスをする夢を見た

2日目
甘い卵焼きを作る夢を見た

3日目
深く深く求め合う最後の夜の夢を見た

どれもお気に入りのワンシーン

そうして彼の夢は見れなくなった

でも、もうさみしくなんてない。

振り出しに戻っただけ。
出会う前の1人に戻っただけといいきかせた。

マルボロの香りがする部屋で1人、大嫌いだったはずのタバコと貴方が写す私の写真にライターを。

灰となって

跡形だって残さないわ。

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