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最近読んだAIロボット一人称SF小説3作品を紹介―その2

はい。Vivy最終回、最高にエモかったですね!このアニメの元となった小説(プロトタイプ)も出ているので、そのうち読みます。

『Vivy Prototype』

さて。続きを書いてまいりましょう。その1はコチラ

3.世界の外側でAIとして生きる

『Y田A子に世界は難しい』大澤めぐみ著

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エピローグでダダ泣きしました!基本的には『マーダーボット・ダイアリー』と同様に独立したAIロボットがどう生きるのか、そのままの自分で生きていく場所を見つける物語。

女子高生型野良AIロボットの一人称語りで、ライトな語り口。マーダーボットの弊機ちゃんは丁寧で皮肉めいた堅い口調だったのに対し、こちらのA子ちゃんはツルツルと思考がだだ漏れしている感じ。

マーダーボットはバリバリのミリタリー×宇宙SFでしたが、A子ちゃんの方はゆるゆる日常系でSF設定もガバガバよ。それぞれ全く違う個性をもった面白さなのです!

本書の特徴としては、ほぼ哲学!もう哲学問答なのよ!あとね、AIロボが主人公ではあるけれど、これは普遍的な人間の物語かな、と。人間と、そう変わらない。

A子の感じている疎外感、世界の外側から観察している気分、自分はどこにも属していないような孤独感。こういうところ、すごく共感します。思春期らしいですね。

そんなA子が世界の中に居場所を見つけ、壊れるまで生きていこうとする。あとどのくらい稼働できるのか、不安の種は尽きないけれど。それでもA子には拠り所ができたから。初めての友達―風香が手を差し伸べてくれたから。私は、この世界に生きていて良いんだ、と存在を肯定されるラストに胸が熱くなる!

語り口の軽快さでスイスイ読み進めちゃうし、中高生にもオススメです。哲学的SFではあるけれど、小難しいことは一切ないから。

4.弊機とA子に抱く親近感

ここまで2作品、語り手がヒネたAIロボでとても親近感わきました。二人とも孤独感、疎外感を味わっている様子がとても人間的。何やかんやで守りたい人ができたり、面白く感じる趣味ができたりするのも何だか青春。

思えば十代の頃、世界と隔絶したような感覚の中で生きていた。その感覚はいまだにうっすら続いてるけれど、あの頃ほどの絶望感は今はもうない。学校や社会に入っていけない、誰も自分を受け容れてくれない。積極的に誰かや何かに関わっていけない。世界と自分との間の溝は深くて、見えないバリアが張られていた。すぐそこにあるのに。

AIロボットの彼女たちは、覚醒してからそれほどの時間が経っていない。知識にアクセスして考えてみたり、他者との対話で多角的にモノを見られるようになったりと成長の初期段階なのだ。メンタルは子供。人との関係が苦手で本ばかり読んでいた自分とグイグイ重なるものがある。

彼女たちは確かに成長していくのだけど、機械である事実は変わらない。だから人間社会に交じって生きていくにしても、唯一無二の存在である孤独感からは逃れられない。でもそれって、私たち人間も本質的には同じことじゃない?もちろん人類という一つの枠の中では同じ生命体だ。でも一人ひとり体格も体質も肌や目や毛の色も何もかも違う。いわんや、その内面をや。

5.この世界の片隅から一歩ずつ

両作品とも、自分が自分のままで(無理に人間らしくせずとも)生きていける場所に辿り着く。それはPlaceというよりもPeople。弊機ちゃんは自分の存在をそのまま受け容れて必要としてくれる人たちに出会う。A子ちゃんは友達を作るチャレンジでパっと目についた風香が段々とかけがえのない大切な存在になり、その風香の差し出した手が世界に招き入れてくれる。そして二人とも、世界の内側でどう生きていくのかを検討し始めるのだ。何をしたって、良い。しなくても、良い。

そこにあるけれど手の届かなかった世界。それが、(理由や動機はどうあれ)自分から少し行動したことで、他者との相互作用が発生し繋がりが生まれる。大事にしたい繋がりを大事にする。これが世界と繋がることなんじゃないかな。大抵は家族との繋がりが、世界への糸口になるのだろう。私の場合は残念ながら家族との繋がりが希薄だったので世界そのものが遠く孤独感ばかりが募った。ありのままの自分を愛してくれる他者に出会うまでは。

世界への扉を開けるのは些細な一歩から始まる。旅をしたって良いし、よく見かける他人に話しかけても良い。そうした一歩一歩が、世界の内側へと導いてくれるはずだ。通りすがりの観察者から、生き生きとしたこの世界の住人へと変化できるはずだ。

だから『Y田A子に世界は難しい』のエピローグは万感の思いで涙が溢れたのよね。たった230ページの文庫本、しかもかなりライトな文体なので誰でも読めるよ!みんな、読んでください!必修科目!

と、いうところで今回は終わりです。次回は『クララとお日さま』の紹介になります。む。これは難物ぞ。

生きる糧を!