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アンダー5,000万円 小型M&Aの実態

日本パートナーCFO協会所属、中小M&Aと財務コンサル(得意分野は輸出入為替・銀行調達)をしている株式会社フィードバックグルーブの稲葉です。
普段はベンチャーよりも創業10年~の中堅会社様で、「営業の右腕はいるけど財務を任せられる人がいない」という会社に対し、スポットコンサルとして様々なお手伝いをしています。

今回は、そんな中お手伝いしてきたアンダー5,000万円というM&Aの中では小型な案件の実態について、実体験を踏まえてお伝えいたします。


アンダー5,000万円の小型M&A

新聞やネット記事、ブログ等では億円単位の案件しか記事になっていませんが、実際は数千万円単位のM&A案件も多く行われていますし金額的にもニーズが多い価格帯です。
この価格帯の売却案件は以下のような特徴があります。

・数人で立ち上げ、売上はある程度ついてきたけどさらに拡大するにはリソースが足りない。今はまだメイン事業に注力したい。
・家族経営や個人経営でうまくやっていた。
・社員数人の会社。業界の変化に乗れずジリジリと右肩下がり。ここで売却しておけば自分の退職金になるから売却したい。

今回は4,500万円と、特異な事例ですが700万円という2件の案件事例をご紹介します。

*守秘義務の関係上、業態は大きく変更して記載しています。(例:エステサロン→空手道場、からあげ専門店→オーガニックサラダ専門店 程度に大きく変更しています)
*安価でM&Aできますよ、と勧誘するものではありません。やはりM&Aは大変です。


実例1.ビルメンテナンス会社が屋形船(個人事業)を4,500万円で買収

弊社ポジション:売り手アドバイザー
買い手の状況:本業が好調だが人員確保が課題。ビルメンテナンスという地味な業界なので、「楽しい商売もしている」という事をアピールしたく案件を探していた
売り手の状況:40年家族で運営していた屋形船事業。高齢化&ご子息はサラリーマンという典型的な承継難状態。屋形船は自由に参入できる事業ではないことが強み。

売り手との出会いは財務コンサルをしているクライアントからの個人的な紹介でした。屋形船なんて売れるの?と最初は疑心暗鬼でしたが、すぐに売れる人気案件になるだろうと直感しました。
理由はインバウンド需要、新規参入の難しい独占事業、安定性、必要な資金・時間がわかりやすく計画からのブレがすくない、「コレ俺の屋形船なんだぜ」と周りに自慢できる(買い手にとって結構重要です)という点から人気が出るだろうと予想しました。
案の定、案件化してすぐたくさん手があがりました。珍しい事業が欲しいIT企業、シナジーがありそうなレストラン、地元の政治家などあらゆる方に手をあげていただきました。
売り手の意向としてスピード感もありましたので、一番最初に意向表明を出してくれたところとまずは交渉することとしました。

交渉の過程ではもちろん様々起こるのですが、この案件で特筆すべきは資材置き場についてです。
資材置き場も自己所有の土地、建物だったのですが売り主が買った時の建物の売買契約書がありません。登記を確認しても建物は未登記物件でした。
売買からすでに20年は経っていましたが、買い手の顧問弁護士より強い待ったがかかりました。もしかしたら真の建物の所有者がおり、相続等が発生していたらどうなるかわからん、というのが理由でした。
当時の売り主や司法書士とはもう連絡がつかなく、売り主から「この物件でトラブルが起きた場合今後1年間は責任を負う」というような書面を作り、それ以後のリスクは買い主負担ということで決着しました。
書いてみると簡単に見えますが、この交渉は2ヶ月以上に及びその間には顧問弁護士と顧問司法書士の意見の相違、売り主は書面提出への拒否など調整が続きました。
最終的には、また1から他の候補者と交渉し直すのも労力がかかると売り主が折れ書面提出により解決となりました。

このように、売主側が認識していなかったリスクが買い主との交渉により表面化することが多々あり、売り主の思う以上に足を引っ張ることがあります。


実例2.街角の酒屋を個人が700万円で買収 弊社ポジション:買い手アドバイザー

買い手(Aさん)の状況:芸術活動をしているが食べて行けていない。相続により少しまとまったお金はある。
売り手の状況:親から継いだが面白みのある事業ではなく興味がなくなってしまった。サラリーマンをしたい。

買い手とはAさんの個展で知り合っていました。特徴的な素晴らしい絵を描かれる方で、芸術作品を作り個展やネット等で販売していましたがそれだけでは食べて行けずアルバイトをしていました。
売り案件の酒屋は駅を降りるとすぐ目の前にあり、周囲に他に酒屋やコンビニも無い好立地でした。固定客も多く、することといえば馴染みの客が来たらついで買いをするタバコを用意しておく、くらいなもので30代の売り主はモチベーションがあがらないと売却を決めました。
酒屋の紹介を聞きすぐに買い手を思い浮かべました。なぜかというと酒屋には6畳ほどの使っていない部屋があったからです。「ここをアトリエや絵画教室に使えば、Aさんはお酒を売りながら創作活動や絵画教室に専念でき、能力や状況を活かせるのでは」とまさにパズルのピースが埋まったような直感がしました。
Aさんは売り主と面会し、酒販免許の説明等を受け大喜びで無事に売買成立。最初なんでおれが酒屋をやるの?と全くピンと来ていなかったAさんでしたが、遊休部屋でのアトリエや絵画教室のアイデア等を伝えたとたん目を輝かしてくれました。年収も若干アップし、相続の資金も生かせます。
この案件はそもそもM&Aの買い手候補でもないAさんでしたが、Aさんの状況とひらめきが合致した珍しいパターンで、私のアイデアが具現化した印象的な案件でした。
今では小学生向けの絵画教室が人気で地元に愛される店へとなっています。


まとめ

今回は2件だけご紹介しましたが、その他にも電力監視システム、毛穴パック専門店、高級衣装レンタルEC等5,000万円以下での売買案件は少なからずお手伝いしてきました。(*実際の事業から変えています)
最初に例を出したように「立ち上げだけしたけどスケールしない」「会社の事業規模には合わない」というような案件は多く、逆に「新事業したいけど立ち上げが苦手」「ビジネスアイデアが思い浮かばない」というような買い手さんにマッチする価格帯と感じています。

事例2は印象的な案件として紹介しましたが、我々のようなアドバイザーに大事な「ひらめき」をお伝えしたくご紹介しました。
新規事業の一つの手段として、M&Aも広く検討すべき時代になってきたと感じています。

一般社団法人日本パートナーCFO協会メンバ
株式会社フィードバックグルーブ 稲葉

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