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春は毎年来るけれど、今年と同じ春は二度とこないから。

 写真を撮るようになってから、花が咲く季節を知った。
 現在、ここ静岡は確実に春に向かっている。街路樹の下にはタンポポが花開き、庭先に咲くフリージアの色鮮やかさが、季節の運びを感じさせる。

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 休日、わたしはカメラを首からぶら下げて散歩することにした。花粉症対策のマスクもばっちりである。平日休みは、平常運転をしている世間を横目に、ひとりだけゆっくりとした時間を過ごしている気がして、少しだけ優越感に浸れる。

 ぶらぶらと、気の赴くままシャッターを切る。
 写真を撮ることは、光を読むことだ。あと一歩動けば、ここに光が当たるから…と考えながら、なんでもない道路にへばりつく。通勤通学の皆様からすれば「あいつなにやってんだ」と思っているに違いない。

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 街中を歩いていると、とある家族が写真を撮っていた。
 幼稚園くらいのふたりのお子さんと、お父さんとお母さんがいて。卒園式なのかな、と思った。

 お母さんがお父さんとお子さんたちにスマホを向けると、子供たちはキャッキャと笑ってはしゃいだ。とても楽しそうだった。そして、今度はお父さんが、お母さんとお子さんたちを撮ろうとしていた。

 わたしは思わず「みなさんで撮りましょうか?」と声をかけた。

 自分でもびっくりした。わたしは全然社交的ではない。話しかけられれば愛想よく話すくらいはできるけど、知らない人に自分から話しかけるような人間ではないのだ。

 まあ、相手もそれなりにびっくりしていた。そりゃあ、マスクして首からカメラぶら下げたどこの誰かもわからないやつに話しかけられたらびっくりするだろう。それでも、フォトグラファーのような恰好をしているのが、唯一の救いだろうか。別にタンポポ撮ってるだけだけど。

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 結局、わたしは家族4人の集合写真を撮った。スマホを返し「確認おねがいします」と言って、その場を去った。

 わたしは家族みんなが1枚の写真に写ってほしかった。

 親元を離れて振り返ると、家族全員が写った写真はそう多くはない。家族みんなで過ごす時間は、意外と長くはないのだ。だから、その笑いあっている今を、どうか1枚に残してほしいと思った。

 春は毎年来るけれど、今年と同じ春は二度とこないから。

 その思いが、わたしを動かしたのだ。

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 そのあとも散歩をしながら写真を撮った。200枚ほど撮ったあと、歩き疲れてサンマルクカフェに入った。わたしは、いちごバナナスムージーを頼む。サンマルク、大好き。

 ずるずるとスムージーをすすりながら「ああ、あれはお節介だったかなあ」と悩むわたしは、やはり社交的ではない。
 しかし、それと同時に「いつかあの家族が写真を見返して、"これ、通りすがりの人に撮ってもらったね"と話してくれたらいいなあ」と思うのだった。

 今年も春がやってくる。すぐそこだ。
 2020年、素敵な春になりますように。

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Nikon Z6 +Jupiter8 50mm f2.0
&
FUJIFILM X100F



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