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愛を語る - 週末1000字エッセイ#05(全文公開)

 冷たい風がびゅうびゅう吹いている。コートをもすり抜け、身体に突き刺さる。指先が痛い。それに耐えられず、自販機で温かい紅茶を買った。両手で包み込む。じんわりと、そのぬくもりに癒やされる。

 寒空の下、新幹線を待っていた。大雪のため、列車は30分遅れ。今年一番の寒さを迎えた日、わたしは東京へと向かった。

 KOBUKURO LIVE TOUR 2023 "ENVELOPE” 東京振替公演。本来であれば、昨年11月の埼玉公演に参加予定であった。しかし、ボーカルの黒田さんが肝炎を患い、ライブは延期。そして今年1月、東京での振替公演が決定したのである。
 長年ファンをやっていて、初めての出来事だった。無事、振替公演のチケットもとれ、わくわくした気持ちでこの日を迎えた。

 ライブ前日、ふたりの友人と宿泊した。待ち合わせは、ホテルのロビー。彼女たちを見つけると、わたしは「よっ!」と手を振った。
 近くの店に入る。ビールを頼む。それぞれの人生を交差させる時間。話は尽きず、あっという間に閉店時間を迎えた。東京の冬は寒くて、友人の笑顔は温かった。

 わたしの青春は、コブクロとともにあった。
 12歳、合唱コンクールで「ここにしか咲かない花」を歌った。わたしは彼らの音楽に魅了され、家族でファンになった。
 16歳、初めて父とライブに行った。それから毎年、ツアーが開催されると親子で参加している。今回も、父と連番だ。
 20歳、Twitterを通じて多くの同志と知り合った。コブクロが好きという唯一の共通点で繋がったわたしたち。
 講義後、休日、ライブ会場。予定があろうがなかろうが、とにかく集まった。くだらない話、まだ見ぬ未来の話。散々話し込んだ帰り道、Twitterでも話し続けた。あの日々は、宝物である。

 あれから10年。
 かつての仲間は、今もなお良き友である。

 ライブ当日。晴れた東京の空の下に、続々と仲間が集まった。数年ぶりに会う友人もいた。年は近くとも、住む場所も職業もバラバラだ。
 久しぶりなのに、まるで昨日会ったかのように感じる。SNSで、互いの近況を知っているからか。もちろん、それも理由のひとつであろう。
 しかし、それだけではないようだ。わたしたちは顔を合せれば、いつだってあの頃に戻れる。まるで、タイムスリップしたかのように。

 夕方父と合流し、会場に入った。ライブグッズのLEDライトを渡す。これはツアーごとにデザインが変わり、いつも父の分も買っている。目一杯楽しんでもらいたいという、娘からの思いである。

 ライブは、あっという間の3時間だった。コブクロの歌声が響いた途端、感情があふれ出して止まらない。歌で泣いて、MCで笑って、思い切り声を出した。

 途中、演出で紅白の風船が降ってきた。多くの人に行き渡るように、お客さん同士、リレー形式で渡していく。コブクロのライブではよく見る光景だ。
 やがて、父もわたしも風船を手にした。そしてわたしの分は、隣の女性に渡した。
「いいんですか?!」「うちは父がもらえたから、どうぞ!」「ありがとうございます!」
 過去のライブで、何度も同じような経験をしてきた。その時わたしは、受け取る側だった。頂いた優しさを、別の誰かに手渡していきたい。また来たくなるライブを、ファンが作っていければいいなと思っている。

 最後に全員で合唱した桜。会場は、一体となっていた。白いライトが揺れる。それはまるで、風に吹かれる桜のようで、とても美しかった。

「また、ライブで会いましょう!」

 終演後、父を駅まで送った。わたしは、終電が早くもう1泊。父から「予定通りの電車に乗った」という連絡とともに、風船の写真が送られてきた。それを見て、思わず微笑んだ。

 その夜も、仲間と語り合った。話し足りなかった。いつだって楽しい時間は一瞬で、物足りない。

 翌朝、ほぼ始発で東京を旅立った。新幹線の車窓から、朝焼けに染まる空と、西に沈む月が見えた。美しい景色を目に、ライブの余韻を胸に刻む。こんなに素敵な朝はないと、感極まった。

 わたしという人間は、ちっぽけ不器用だ。多くのものを、愛せない。しかし、一度愛したものは、大切にし続ける。そのような人間だ。
 家族、友人、コブクロ。変わらぬものはない。わたしを含めたすべてが、変化し続けている。
 しかし、わたしの中にある愛する気持ちは、強く根を張って、ここに立ち続けている。

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