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ボロ鉄瓶の再生②

サビでボロボロの骨董鉄瓶。調べたところによると、やるべきはサビを落として茶ガラを煮るということらしい。本当に再生できるのか?いざ実践。

たわしでサビを落とす

まずはサビを落とさないことにはどうにもならない。しかし鉄瓶メーカーの取り扱い説明を見ていると、鉄瓶の内側を触ることはかなりの禁忌のようである。しかし、これは適切な状態である鉄瓶を錆びさせないようにするためであって、既に錆びまくっている鉄瓶の話ではないことをこの時はまだわかっていなかった。

使った道具はこちら。

亀の子束子と、毛足の硬いブラシ。とりあえず家の中にあるものからはじめてみる。あまり激しいことをしてダメになってはいけないと思い亀の子たわしで優しく擦っていたがこれで錆が落ちるはずがない。さすがに限界を感じて硬いブラシで擦る。バラバラと錆が剥がれていく。粒子状のものから塊になったものまで大量の錆が取れていく。(撮っておけばよかった!)いい調子。一旦次のステップに行ってみよう。

緑茶を煮る

緑茶の茶ガラもそうたくさん出ないので普通に緑茶を煮出した。

こんなことに何の意味があるのか?と思ったが、調べるとこれは鉄と緑茶に含まれるタンニンで起こる化学反応を利用した対処法だった。酸化鉄にはいくつかの化合物がある。ここで出てくるのは
Fe2O3:いわゆる赤錆のことで、これは鉄をボロボロに腐食していく。
Fe3O4:いわゆる黒錆のことで、酸化皮膜を形成するため鉄の防錆加工として利用される。黒皮鉄とかはこの加工。

どうやら鉄瓶で緑茶を煮出すというのは、タンニンで赤錆を黒錆に還元して、タンニンと鉄が反応してできる難容性黒色塩で表面を覆って保護しようという目的があるらしい。そのためタンニンが含まれているものであればなんでも良く、昔の人は茶ガラだけでなく芋の皮なんかを使うこともあったようだ。おまじないのように思える昔ながらの知恵にも合理的な根拠があるんだな。

調べていてピンときたが、この反応には見覚えがある。草木染で黒を作る時と同じ化学反応だ!テーチ木と泥田を使った奄美大島の泥染も、柿渋を鉄漿で媒染する柿渋染めでも同じ化学反応を利用しているはずだ。これは横道に逸れるけど面白いので後でまとめます。

とりあえずやってみるよう。緑茶を入れて30分以上沸かし続け、丸一日放置する。(通常は湯を沸かしたあと放置するとすぐサビるのでNG。)

翌日見てみると...まっっ黒。

鉄瓶はどうなっているだろう。

お〜黒くなってる!しかし歓喜も束の間。この程度で錆が止まるはずもなく、まだ湯を沸かすと色もサビのカケラも混ざってしまう。やはりもっとゴリゴリに錆を落とさないといけないようだ…。

工具を使ってサビを落とす

まず使ったのは手元にあったドライバーと真鍮のワイヤーブラシ。

明らかに剥がれそうな塊をドライバーでガンガンやって落としていく。たわしで丁寧に擦っていた自分がアホらしい。幸いにも貫通するまでの錆はなかった。ワイヤーブラシで表面を覆うサビを落とそうとしたが、形状的に届かない部分も多い。これでは落とし切ることが難しそうなので、道具を買い足した。

スチールウール、ステンレスたわし、先の曲がったステンレスのワイヤーブラシ、スコッチブライト。
スチールウールは弱すぎてサビに負けてしまってダメだ。ワイヤーブラシで塊を落とし、ステンレスたわしで全体をこそげ落とした。今回のMVPはステンレスたわし。たぶんこれだけでもある程度事足りたかも。もう剥がれてきそうなサビの塊はない。仕上げに我らがスコッチブライトで磨く。ついでにツルも軽く磨いてみると…。

なんと象嵌の文様が現れた!サビで覆われていてはじめはわからなかった。発掘かよ。銀だろうか。白く輝いている。葡萄の文様のようだ。ツルと実はシンプルでどことなく拙い感じがしていい雰囲気。葉は精巧。タトゥーみたいでかっちょいい。なんかより愛着が湧いた。こんなことがあるとは!面白いな...!

緑茶を煮る②

ここから何度か緑茶を入れて沸かして放置するを繰り返すも牛歩。着実に赤かったサビが黒く変化しているが沸かした湯はにまだ色がつく。

ここまではよくあるやり方を試してきた。他にも柿渋を使ったり自分なりに色々試してみたが、それはまた次回に。緑茶と鉄で起こる反応が面白くて興味が沸いたので色々調べてみた。

【余談】タンニンと鉄で染める黒

日本の染色史家・染色家、吉岡幸雄さんの「日本の色を染める」に黒染めについての記述があったのを思い出し再読。


タンニンは多くの植物の樹皮や果皮に含まれている。殺菌作用があるため、外界から身を守るための自己防衛機能として作用するらしい。鉄は酸化鉄として土によく含まれている。どちらも古代から身の回りにありふれた物質だったそうだ。こうしたことから黒の発色技法は日本の染色の歴史でもかなり早い段階で成立してしていて、世界中で似たような染めを行なっているとのこと。代表的なものが奄美大島の泥染だ。

泥染め

奄美大島では今も天然の泥を使った黒の染色を行っている。島に自生するテーチ木の枝を煮出してタンニンを抽出しまずは布や糸を茶色く染める。それを鉄を豊富に含んだ泥田に浸けて黒く発色させる。

鉄媒染の柿渋染めと鈍色

柿渋染をした後に鉄漿(酢酸で鉄を溶かした水溶液)で媒染すると、これも黒く発色する。奄美大島のような鉄を豊富に含む泥田は本州ではほぼ存在せず、こうした土地では鉄漿が利用されたそうだ。柿渋以外にも植物の渋を利用した染色は盛んに行われてきたようで、こうして作り出される灰色〜黒色は鈍色(にびいろ)といって喪の場面で使われてきたそうだ。

草木染めというと、植物の色をそのまま染めるイメージをしていたけど、こうして金属イオンとの化学反応を利用する例が多いと知ってとても興味が沸いた。他にもミョウバンを使ったアルミ媒染や銅媒染などでタンニンだけでも色々な色が作り出せるらしい。自分でできそうだし面白そう。早速お酢にスチールウールを入れてして鉄漿を仕込んでみた。またの機会にやってみたい。
栗の木など渋の多い木に鉄漿を塗れば元々含まれているタンニンで木を黒く染めることもできるかも。

ちなみに草木染め以外にも、お歯黒や古釘を入れて炊く黒豆も同じ仕組み。古典的な万年筆インクであるブルーブラックもタンニンと鉄を化合して作られることから西洋でも同じやり方で黒を作っていたことが伺える。キャンパー達がこぞってやる紅茶と酢による炭素鋼ナイフの黒錆加工も試してみたいことの一つだ。

話が横道に逸れてしまったが、また新しいやりたいことが増えてしまった。やってみたらまたnoteにまとめます。

次回はクリティカルではない部分や失敗したことも含めて色々と試してみたことをまとめていきます。ちなみに現在もまだ使える状態ではなくどうしたものか...。タスケテ!

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