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キッチン・イン・でぃすとぴあ 2

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【渋谷で5時 1】

【2−1聖闘士の帰還】

「婿殿、おかえりなさいませ」
「セイコ! 戻ったか! 無事か! 怪我はないか! 歯ぁ磨いたか! 風呂入ったか! また来週〜♪」

 涼やかな和装にグレイヘア、眼鏡姿が板につきまくっている婦人と、長い白髪を三つ編みにし、口ひげを生やした剛健を画に描いたような道着姿の老人が出迎える。

「歯磨きも風呂もこれからだ、とーちゃん! あとなんで来週⁉ あ、かーちゃんただいま〜」
「はい、おかえりなさい、セイコ。婿殿も」
「ただいまもどりました、お義父さん、お義母さん」
「貴様にお義父さんなどと呼ばれる筋合いはないッッッ!Σ(゚Д゚)」
「ええぇぇぇぇ(;´Д`)! 師匠ー! もう婿入りして5年も経ってますがぁぁー!」
「黙れ! このロリコン! セイコが中学生の頃から貴様がねっっっっっとりした目で見ておったことくらい、ワシはわかっとったぞ! この変態弟子め!」
「えぇぇぇぇぇ……(~_~;)」
「(いやまぁアタシの方がシンゴにガンガン迫ってたんだけどね……)」
「……あなた……(ー_ー)」
 眼鏡ごしに突き刺さる、液体窒素のような婦人の極冷のひと睨みに、筋骨隆々な老拳士が「ひゅいっ!」と喉を鳴らす。 
「いや、詩都(しづ)よ……ほれ……ワシもまだ、セイコが他人のものになった事実を受け止めきれんでの……親心的な? 的な?」
「婿殿の言うように、もう5年ですよ? いい加減娘離れしてくださいませ。そろそろその口にアツアツの鯛焼きでもネジこんで黙っていただきますわよ」
「うぐぅ……」
「他人のものって……婿とって実家にいるんだから、100億パーセントここん家の娘だろーが、アタシは」

 これが夢藝流空手開祖、夢藝泰蜀(むげいたいしょく)を家長とする夢藝家の、毎度毎度の帰宅時の様子である。かつてはその無双の強さゆえに、警察の術科(武道強化訓練)の1つとなり、泰蜀自身も師範としてほうぼうの警察に出張っていたのだが、今や弟子は、セイコとシンゴのたった2人となってしまった。
 20畳程の広い居間の中央、畳の上に広げられた東京都全図を囲み、師弟三人は車座になって情報を交換していた。
「して、今回の首尾はどうじゃった?」
「今回の活動で、2名の新規メンバーを獲得しました。現在、23区内の我々の拠点は、城北地区の板橋・北・荒川・足立の4区。1区あたり30人以上のシンパが集まり、ゲリラ屋台活動で、食文化の復興活動を始めています。板橋区は特に多数の同士が集まりましたし、隣接する練馬区の「菜食解放戦線」との同盟関係の締結が上手く行けば、城西地区への足がかりを作っていけるかと。そもそも城西地区の練馬区は、昔から農業の盛んな区でしたし」
「『菜食解放戦線』か……彼奴らは信用できるのか?」
「いや、ZAと戦うレジスタンスって意味じゃぁ、アタシたちと同じなんだし、ベジタリアン達だって、喰いたいものを喰いたいだろーよ。そのための食材の確保は、お互いにメリットがあるんじゃねーの?」
「敵の敵は味方、ということか……そうであればよいのじゃが……」

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