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星の王子さま

星の物語の紹介文、第二段として「星の王子さま」について書いてみたいと思いました。心に残る場面、大好きなシーンはちゃんとあるけど、もう一度読み返してから書こうと考え直し、読み始めたのが昨夕のこと。

途中で、紹介文にすることを断念しました。感想文に変更です。この物語は、全てが精巧に組み上げられたお城の様で、一部だけを切り取り伝えることが、到底出来なかったのです。

心に沁みる価値ある言葉がたくさんあります。きっと、読む人が今どのような日々を送り、何を大切に思っているのか、それによって心惹かれるシーンも変わるでしょう。
わたしが、小さな子どもだった頃に抱いた印象と、大人になってからのそれは、全く異なるものでしたから。

子どもの頃のわたしは、星の王子さまが小さな星にたった1人で住んでいることが、可哀想で仕方がありませんでした。話相手と言えば、プライドの高過ぎる薔薇。そのお世話に疲れた王子が、星を旅立つことも、無理もないことだと思っていました。その程度の感想でした。取り立てて心に残るお話ではなかったのです。

ところが、大人になり改めて読み直してみてからというもの、この物語は、わたしの人生を支える大切な宝物になったのです。

心惹かれるシーンは、王子の出会った狐が、絆について語る場面です。

ほら!向こうに麦畑が見えるだろう?僕はパンを食べない。だから小麦には何の用もない。麦畑を見ても、心に浮かぶものもない!それは寂しいことだ。でも、君は、金色の髪をしている。その君がぼくを懐かせてくれたら、素敵だろうなあ!金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくは、君を思い出すようになる。麦畑をわたっていく風の音まで、好きになる…。

王子の出発が迫ってきた時、狐は悲しみます。絆を結んでしまったがために悲しむ狐に、王子は、そんな風に嫌な思いをさせるくらいなら…、と絆を結んでしまったことを悔いるのです。
その時に狐は、こう答えます。「いいことはある。麦畑の色だ。」と…。

わたしは、子どもに関わる仕事をしています。彼らと毎日、一年で200日以上を共に過ごします。それはもう、大きなひとつの家族のようなものです。
そんな風に過ごしていても、別れの時は必ずやって来ます。そうして、彼らが巣立ったあとはもう、ほとんどの場合生涯会うこともないのです。たとえ、強く絆を結んだ相手だったとしても。

わたしの仕事は、そうやって出会いと別れを繰り返すものです。寂しい気持ちはあっても、諦めてもきました。次のステージに心を移し、そこで生き生きと輝けるように送り出すことが、自分の役割なのですから。

そんなわたしに、狐は教えてくれました。絆を結べば、いずれ別れが来たとしても、残してくれた思い出が幸せをくれる。別れたあともその人を思うだけで心温まり、その後の人生をも豊かにしてくれるということを。

狐が小麦畑を見るたび、王子の金色の髪をそこに見て、王子へ想いを馳せるようにして。

そして王子は、薔薇に会うために星へ帰ります。絆を結んだ狐や、仲良しになった「ぼく」を地球に残して。

星空を見上げるのがとても好きです。星が瞬く様子を見ていると、王子の星を探す、「ぼく」の想いを感じます。大好きな気持ちや会いたいと思う気持ち。それはどれも、胸を温める幸せな心持ちですものね。

「星の王子さま」。大人にこそ薦めたいお話です。様々な訳がありますが、わたしは新潮文庫のものが好きです。いろいろ読み比べてみるのも面白いかもしれませんよ。

「秘密を教えるよ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。1番大切なことは、目に見えない。」             きつねより

星の王子さま
サン=テグジュペリ作 河野万里子訳
新潮文庫

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