見出し画像

リハビリ目標の書き方ーSMARTとGAS

目標といえば,最近はSDGs(持続可能な開発目標)が有名ですが,目標を立てるときに参考に使われるのが SMARTの頭文字です.
言語聴覚士(ST)が対象者と協働して目標を設定するときにも役立ちます.

SMART Goals

Specifc     明確な/具体的な
Measurable    測定可能な/現状・変化の定量化
Achievable  達成可能な
Realistic / Relevant / related 
       現実的/当事者にとって意味(関連)のある
Timed     いつまでに/達成までの時間

ゴール達成スケーリング (GAS)

SMARTに沿った目標設定と,成果の測定を具体化する方法に,Goal Attainment Scalingがあります.
1960年代に,Kiresukらによって精神科医療のアウトカム(成果)測定のために開発されましたが,GASのプロセスを踏むこと自体が治療的介入にもなることから,リハビリテーション分野でも有用なツールと考えられています(Bovend'Eerdtら, 2009,原田, 2004).

GASの進め方

ここでは,英国のBovend'Eerdtらによるリハビリテーションのための実践ガイドと,言語聴覚療法の文献(Schlosser, 2004)を基盤に,GASの進め方を記します.

ステップ1 ゴールの決定     Defining the expected goals 
ステップ2 ゴールの重み付け   Weighting the goal 
ステップ3 介入前後の測定          Scaling the goal 
ステップ4 達成状況の評価    Evaluating goal achievement 
ステップ5 標準得点の算出       Scoring goal achievement 

ステップ1は具体的には次のように進めます.
(1)ターゲットとなる活動の特定 
具体的(S)測定可能(M)な活動・参加レベルの目標を選びます.
単に「移動」ではなく「室内での歩行」,「日常生活で(代替的に)左手を使う」ではなく「左手で歯を磨く」のようにすべきとしています.

(2)必要なサポートの特定
行動においては,環境,つまり物や周囲の人との相互作用が重要です.
達成を促進するために有効なサポートを分析して,あらかじめ目標に盛り込みます.
サポートの内容は,目標や対象者ごとにさまざまなものが考えられます(物理的サポート:杖などの補助器具,心理的サポート:自信を高める,認知的サポート:促しやリマインド,作業手順のリストなど).
これらのサポートは,リハビリテーションを実施するうえで専門家が常に意識していることですが,達成可能な(A)な目標を立案するうえでも,達成の度合いを調べたり(予期したレベルとの距離),さらには次の目標(サポートを減じても可能になる)をスモール・ステップ(目標の細分化)で考えていくためにも,とても意義がある工程だと思います.

(3)パフォーマンスの数値化
数値化の方法は目標によってさまざま考えられます.わかりやすい例は,一定の時間内に歩いた距離を測る,動作,作業の完了までの所要時間を測る,ターゲット行動の頻度を測るなどです.
言語聴覚療法の例として,小児の拡大代替コミュニケーション(AAC)に関連した目標の数値化方法を示します(ジョシュ君(仮称,10歳男児,Schlossor, 2004掲載の事例)

Josh 目標達成レベル

GASでは,目標をレベル0として,それを中心にプラス1,プラス2,マイナス1,マイナス2の5段階の達成レベルを決めます.マイナス1が介入前の状況(ベースライン)になります.

ジョシュ君の目標はつぎのように決められました.
ゴール:教室での会話や,バディ buddy(ここでは特定の上級生)との本読みの時間に、バディから出される少なくとも3つの本や絵についての質問に答える.
会話相手の特定:ジョシュ君がコミュニケーションをとりやすい相手(バディ)
場面の特定:①教室での打ち解けた会話場面,②家から持参した本や絵について,コミュニケーション・ブックとジェスチャーを使って話す場面.

言語聴覚士は,バディにインタビューして情報収集するとともに,週に一度,教室に出向いて達成度を確認する.

(4)目標達成までの期間の決定
あらかじめ,達成までの時間(T)を想定しておきます.

ステップ2のゴールの重み付けでは,課題の重要度と困難度を決めます.
重要度は,対象者がその目標が自分にとってどれだけ重要か(R)を判断します.困難度は支援を担当する専門職が判断します.
それぞれ3段階(a little important / difficult, moderately important / difficult, very important / difficult)で評定します.
重要度,困難度の異なる複数のゴールを同時に進めることもできます.
重要度,困難度は,ステップ5の標準得点の算出に加味されます.

ステップ3は,ステップ1で決めた方法での介入前後の測定です.

ステップ4では,あらかじめ定めた再評価の時期に,効果測定結果をもとに対象者ならびに支援チームが目標達成の有無を協議します.

ステップ5では,GASスコア(T得点)を算出します.これによって,介入前スコア(ベースライン)との比較だけでなく,重み付けが異なる目標課題間の比較が可能になります.
スコア計算用のエクセルシートを,King's College Londonの研究室が公開しています(GAS Caluculation Sheet).

<参考(下記URL)> 国際生活機能分類に立脚した目標設定(Functional Goal Writing Using ICF,アメリカ言語聴覚協会HP)

<文献>
Bovend'Eerdt, T JH, et al.: Writing SMART rehabilitation goals and achieving goal attainment scaling: a practical guide. Clinical Rehabilitation, 23: 352-361, 2009
原田千佳子:ゴール達成スケーリング(GAS),作業療法ジャーナル 38: 591-595, 2004
Schlosser, RW: Goal attainment scaling as a clinical measurement technique in communication disorders: a critical review. Journal of Communication Disorders 37: 217–239, 2004      
(了)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?