尾崎将也の<全部入り>脚本講座[6] プロットの書き方
※今回は無料です
プロットは脚本の設計図
脚本を書く前に、普通は「プロット」というものを書きます。プロットとは簡単に言えばストーリーを詳しく書いたようなものです。厳密にはストーリーそのものとは少し違うのですが、それは後で詳しく述べます。
何のためにプロットを書くかというと、主な目的は「脚本を書く前に内容を検討するため」です。プロの場合は、一回目の打ち合わせでは内容に関して大まかな方向性を話し合い、「じゃあその方向でプロットを書きます」となり、その次にプロットで打ち合わせするのが普通です。必要があればプロットを直し、「これで行こう」となったら脚本に進みます。
教室の生徒の場合も脚本を書く前にプロットで講師に見てもらうケースが多いでしょう。
なぜいきなり脚本を書かずにプロットを書くのかというと、いきなり脚本を書いて大きな問題が発見されてから直すのは大変だからです。プロットの段階で吟味し、直すところがあればプロットで直して、OKとなってから脚本に入る方が結果的に手間が少ないのです。
それが「プロットは脚本の設計図」と言われるゆえんです。例えば家を建てるときに、設計図を書かずに建てるというこがあるでしょうか? 空き地に材木などが置いてあり、「さて、家でも建てるか。どんな感じにしようかな」などと言いながら行き当たりばったりに建てたとして、まともな家が建つ気がしませんよね。
脚本の場合も同じで、行き当たりばったりではなく「こんな人物で、こんなストーリーで」とあらかじめ見えていた方がちゃんとした作品が書ける可能性は高まります。
最初に「厳密にはストーリーそのものとは少し違う」と書いたのは、「設計図として機能するかどうか」が重要なポイントだからです。例えば雑誌やネットの記事で百字程度で映画のストーリーが紹介されたりすることがありますが、それはプロットとは別物です。百字のストーリーでは設計図として機能しないからです。百字のストーリー紹介は、家の例えで言えば簡単な「完成予想イラスト」のようなものです。完成予想イラストを元に家を建てることはできません。家を建てるにはやはり設計図が必要です。プロットは脚本の「設計図として機能する」ことが重要なのです。
プロットを構成する要素
では脚本の設計図として機能するプロットは、どのような要素でできているのでしょうか。それは主に次のようなものです。
①ストーリー
②人物設定(キャラクター)
③舞台設定
④ジャンル、タッチ
ストーリーを書くのは当然として、他の三つは初心者のプロットで抜けがちになる要素です。
人物設定やキャラクターを書くのは当然だろうと思われるでしょうが、生徒が書いたプロットには抜ける(または足りない)ことが多いです。そうなる理由は明らかで、プロットは簡単な文章で書くからです。例えば「主人公の25歳の会社員」と書いたら、それを起点にしてプロットの文章を書いていくことはできるので、人物設定やキャラクターをそれより深めることを忘れてしまうのです。きちんとしたドラマを作るには、その人はどんな人生を歩んで来たのか、どんな性格か、好きなものは何で嫌いなものは何か、人生における問題は何か、などを考える必要があります。しかしそういうことを考えなくてもとりあえず短めのプロットなら書けてしまうのです。短いから問題なのではなく、考えるべきことを考えていないことが問題なのです。
舞台設定やジャンル、タッチも初心者がプロットを書くときに抜けがちになることが多いです。例えば主人公が住んでいるのは東京だとしても山の手なのか下町なのか、一戸建てなのかマンションなのか。それによってストーリーも変わってくるはずです。しかしプロットはそういうことを決めなくてもとりあえず書けてしまうのです。
生徒のプロットを読んで「これはシリアス? コメディ?」と聞いても「さあ」と答えることが多いです。たぶん、「ジャンルを決める」ということ自体がまだ踏み込んだことのない領域なので二の足を踏む、みたいな感じがあるのではないか(または単に考えるのを忘れた)という気がします。しかしジャンルは作品にとって重要な要素です。深刻な話と軽いコメディでは、プロットの文体も変わって来るはずです。
時間経過を意識する
さて、それらの要素を揃えた上でプロットを書いて行くわけですが、プロットにとって一番重要な要素がストーリーであることに変わりはないでしょう。
そのストーリーを書く(考える)上で、認識して欲しいことがあります。それは下の図Aのようなことです。
一番下の起点が「発想」で、そこからストーリーや人物など色々なことを具体的に考えていき、ある程度のところで文章にまとめたのがプロットです。そして最終的な完成形が脚本です。これがこの図の縦の流れです。
わかりにくい、というか初心者が忘れがちなのが横軸です。横の矢印は、作品の中に流れる時間を示してします。
例えば1時間ドラマ(正味45分)の脚本を書くならば、そのプロットに書かれているストーリーは45分のドラマのストーリーであるはずです。つまり完成した脚本に45分のストーリーが流れているのと同様に、プロットにも同じ時間が流れているはずなのです。だとすれば、脚本の真ん中あたりにあるシーンは、プロットでも真ん中あたりにあるはずです。図の脚本とプロットの間に縦の点線があるのはそういう意味です。
ところが、初心者のプロットではこれが大きくずれることがあります。真ん中あたりにくるシーンが終わりの方にきている、つまり前半に比べて後半がすごく端折って書かれているみたいになることが多いのです。こういう問題はやはりプロットを文章で書くことから来るものです。文章は「詳しく書く」か「簡略化して書く」かが簡単に調節できてしまうのでこういうことが起こるのだと思われます。でも完成したドラマの中の時間は、常に一定の速度で進みます。プロットの前半でドラマ全体の2割が書かれ、残り半分でドラマの8割が書かれているとしたらやはりおかしなことでしょう。これは「一行ずれたらアウト」みたいな厳密なことではなく、そういうことがちゃんと意識されていなければならないということです。
状況説明、設定説明をどう扱うか
それとは別に、プロットと脚本で大きく違う特性があります。それはプロットでは「状況設定の説明」がある程度必要だということです。状況設定とは例えば時代劇ならいつの時代でどんな政治体制か、というような視聴者がある程度理解した上で作品を見ないとストーリーがわかりにくくなるような事柄です。現代ものでもある程度特殊な設定の作品だと説明が必要になります。またSFやファンタジーなども世界観や状況の説明が必要になります。
脚本にも状況の説明はあるのですが、それは色々な描写の中に織り込んだり映像で表現したりできるので、状況説明だけのシーンが延々と続くということは普通はありません(もしそんな脚本があったら出来の悪いものだと言っていいでしょう)。
しかしプロットではどうしても最初の方に必要な説明を文章でつけることが必要になる場合があります。それはそれでいいのですが、初心者によく起こる問題は「状況説明の字数をドラマ上の時間経過と混同する」ということです。どういうことかというと例えばA4で4枚のプロットで、最初の1枚を状況説明に費やしたとしたとき、「ドラマの四分の一ができた」と勘違いしてしまうということです。
だから、状況説明の文章を冒頭につけたとしても、「これはただの説明なので、ストーリーはまだ始まっていない。ストーリーが始まるのはここから」というふうに意識する必要があります。
下の図Bのように、ストーリーの時間的進行とは別に状況説明が存在しているという認識の仕方です。
プロットの長さはどうでもいい
「プロットを直しているうちにどうしても長くなってしまいます。どうしたらいいでしょうか」という質問を受けることがあります。
結論としては、プロットの長さはどうでもいいです。教室などでプロットを提出するときに「何枚以内」などと規定があるかもしれませんが、別にその枚数が「プロットの正しい長さ」ということではありません。
大事なのは、プロットの長さよりも出来上がるドラマの時間的な長さです。それは脚本の枚数と比例します。1時間ドラマ(正味45分)の脚本は四百字原稿用紙で60枚程度です。
通常プロットを書くときは、コンクールに出すにせよ教室の課題にせよ、目標とする脚本の長さが決まっているはずです。思いの向くままに書いて、どんな長さになるかは成り行き次第というのは小説ならあるかもしれませんが、脚本の場合はありません。脚本は必ず目標とする長さがあるのです。従ってプロットを書く時点で最終的なドラマの長さ(=脚本の長さ)を意識する必要があります。
プロットが長くなってしまうというときに、二つの可能性があります。
①時間的な長さが長い(1時間のつもりで書いたのに2時間になってしまうというようなこと)。
②詳細を描き込んだので長くなる。
この二つは全然別のことです。②で長くなることは何の問題もありません。色々考えるうちにディテールを思いついて、それを書き込むことで長くなるというのはあることです。例えば「<A>二人はひょんなことで知り合う」というのを、「<B>二人は道で肩がぶつかり、片方が持っていたものを落として壊してしまう。弁償するのしないのということでモメるうち、お互いが同郷だということがわかり、いつしか打ち解ける」などと具体的な中身を書くというようなことです。<A>より<B>は文字数は多いですが、出来上がったドラマ(脚本)のシーンの長さが変わるわけではありません。
<A>のプロットで脚本を書こうとした場合、二人がどうやって出会うかという具体的な中身は脚本の作業の中で考えることになります。それに対してプロットで<B>まで出来ていれば、それを脚本に起こして行く作業になります。プロットの段階で考えるか脚本の段階で考えるかという違いでしかありません。これはどちらが正しいということはありません。それぞれやりやすい方でやればいいのです。
そのことと、①のプロットが長いせいで作品自体が長くなることは全然別のことです。1時間ドラマのコンクールに出そうとしているのに2時間のプロットになってしまったとしたら大きな問題で、これはプロットの段階で解決しなくてはいけません。プロットが長すぎる(または短すぎる)という問題を抱えている人は、その原因が①なのか②なのかを見極める必要があります。
例えば1時間ドラマのプロットを書くつもりが2時間になってしまった場合はどうすればいいのでしょうか。「ところどころカットすればいい」ということはありません。1時間ものと2時間ものでは構造が違うので、そこから考え直さなくてはならないのです。ところどころカットしたり書き足したりして長さの問題が解決するのは、僕の経験では1~2割くらい長いか短いかという範囲でしょう。それ以上になると上に書いたように構造の問題になってくるのです。
しかし、自分が書いたプロットが脚本にしたときにどのくらいの長さになるかというのは、初心者のうちにはなかなかわからないでしょう。これは何本も書いてみて試行錯誤しながら感覚的につかんで行くしかありません。
その他、初心者のプロットあるある
以下、初心者のプロットでよく起こる問題をいくつか書いておきます。
生徒のプロットでは「そして二人は愛を育んで行く」などと、「そこが膨らませるべきとこだろう」というところを一行で済ませてしまう傾向があります。ドラマ上重要な部分はそれなりの行数を要する(言い換えるとドラマ上、それなりの時間を使って描かれる)はずです。
なぜこうなるかと言うと、「ドラマというものがわかっていない」ということも当然あると思いますが、それ以上に「難しそうなことから無意識に逃げる」ということがあるのではないでしょうか。ドラマの重要な部分を書くことは、当然難しいことです。しかしそこから逃げずに取り組まないことには先には進みません。解決法としては、まずは自分のプロットを読み返して「大事なところを一行で済ませてないか」と探す作業をすることでしょう。そしてそれをどう膨らますかを考えるということが、「ドラマを作る」という作業なのです。
生徒とプロットの話をしていて、「この次にどうなるの?」と聞くと、「ああなってこうなって、それでああでこうで」とこちらが「ストップ」と言うまで長々と話す傾向があります。しかもそれを聞いていて、どういう物語なのかさっぱりわからないのです。僕の質問は「次はどうなる?」ということなので、答えは「次はこうなります」と一行で済むはずです。例えばシンデレラで「舞踏会の夜にシンデレラは家事を命じられ一人で家に残される」という場面があって、「その次にどうなる?」と聞かれたら、答えは「シンデレラの前に魔法使いのおばあさんが現れる」です。「その次は?」と聞かれたら「おばあさんはシンデレラに魔法をかける」です。このように物語は一行ずつの「次にどうなる」の連続で作られているものです。「そんなの当たり前」と思うかも知れませんが、多くの生徒は「次にどうなる?」の質問に一行で答えることがなかなか出来ません。自分が書いている物語をちゃんと把握していないからでしょう。さらに言えば、そもそも「物語を考えていない」からです。解決策としては、物語を作るときには「次にこうなる」「そして次にこうなる」とその物語を一行ずつ説明出来るか?ということを常に意識しながら考えることでしょう。その物語が面白いかどうかは、その先の話なのです。
初心者のプロットを読んで、「どうやって映像にするんだろう?」と疑問に思うことがよくあります。例えば、人物が心の中で思うことがプロットに長々と書かれていたりするというようなことです。テレビドラマや映画は映像で表現するものです。主人公が一人で考え込み、心の声がモノローグで聞こえるシーンが5分も10分も続くということありません。しかし小説なら主人公の心の中で思うことをどれだけ長く書こうが構いません。プロットを書くときに映像で表現することを忘れて、小説を書くような気分になってしまうせいでこういうことが起こります。
プロットは初心者が脚本を書く前に最初にぶち当たる関門です。まずはプロットとは何か、どう考えればいいかをきちんと理解しておく必要があります。面白いものなるかどうかはその次の問題なのです。
以下、宣伝です
監督した映画「炎上シンデレラ」が11月4日(金)より池袋HUMAXシネマズにて上映開始です。
<ストーリー>
初主演映画を撮影中にスキャンダルを起こして大炎上、芸能界を追放された女優・みつほ。彼女を主役に映画を撮りたいという妄想を抱えた映画オタクの青年・田代。この二人の運命の出会いに割り込む小劇団を主催するいい加減な男・山倉。みつほと田代がこの劇団に入ってしまったことから物語は妙な方向へ。そして彼らに再び炎上の危機が!?
<キャスト>
田中芽衣 飯島寛騎
比佐仁 里見瑞穂 佐々木史帆 芳村宗治郎 南ユリカ /横田真悠/大河内健太郎 ほか