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司書がただ好きな絵本・児童書を語る『あのころはフリードリヒがいた』


【あらすじ】

第二次世界大戦下のドイツ。
隣同士に住むドイツ人の家族とユダヤ人の家族は、息子同士が同時期に産まれたことで
家族ぐるみで親しくなるが…。


【レビュー】


昨年、この本を読み返した。
児童書なのに主人公の名前は一切出てこない。
家族ぐるみの話なのにファミリーネームも出てこない。
それはすなわち、
「誰でもこのドイツ人一家のようになり得る」
ことの示唆だと思う。
実際、作者は
ナチスの時代が終わるやいなや、
自責や後悔の念のもとにこの物語を書き始めたそうだ。

ドイツ人一家はフリードリヒの一家に対して、
一切悪感情は持っていない。
それどころかドイツ国内でユダヤ人に対する風当たりが強くなってくると、
国外への逃亡を勧めもする。
当然だけど親しい人たちには生き延びてほしいから。
でも一方で、ドイツ人の父はナチスの政党の党員になる。
党員になれば安定した職と高給が約束されるから。
フリードリヒの父はそれを、
「しかたがないこと。私もあなたの立場なら同じ選択をすると思う」
と理解を示す。

先日ロシアで、プーチンを大統領に推す票が圧倒的多数を占めた。
私は
「なぜ独裁者を推すのか?」
と不思議には思えない。
ロシア国内の人たちも、フリードリヒの隣人一家のように
「そういう時流だから」とか「逆らったら自分たちが危うい、家族を守るのが先決」とか
思っているのではないか。

ナチス下でも今のロシアでもない
今の日本においても、
武器を輸出する、と決めた政府に対し、
私たちはきちんとNOを言えているか?

ほら、
誰でも
フリードリヒの隣人になりうるよ。

https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b269727.html

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