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小説「光の物語」第74話 〜冬陽 1〜

行儀見習いの侯爵令嬢、クリスティーネの結婚が本決まりになった。
相手のラッツィンガー家との結婚交渉もまとまり、国王の許可も下り、いよいよ本格的な式の準備に取り掛かる。


「婚礼衣装のことが頭から離れなくて・・・」クリスティーネは華やいだ様子で言う。「母は心配いらないと言いますけれど、気になりますの・・・だって、リヒャルトに綺麗だと思ってほしいんですもの」
「彼はもちろん思ってよ」アルメリーアは苦笑する。「心配いらないわ」
クリスティーネはさっきから同じようなことを10回は言っているのだった。


婚礼衣装の他にも揃えるべき服は山のようにある。
新調したそれらを試着するクリスティーネを、アルメリーアはしみじみ見守った。
この子が王城に来たのは去年の今頃だったかと思い出す。
あっという間の一年だったが・・・彼女が似合いの相手と出会い、幸せになってくれそうでよかった。


「妃殿下・・・ひとつ伺いたいことが・・・」
保護者のような気分にひたっていたアルメリーアはふと我にかえった。「なにかしら?」
「あの・・・ナターリエ様は、私の婚礼に出てくださるでしょうか・・・」
「ああ・・・」


ナターリエは変わらず王立修道院で過ごしている。
表向きの理由は両親の喪に服するためとなっており、ベーレンス夫妻の死因も事故とされていた。
だが、クリスティーネは薄々察しているのだろう。


「そうね、どうかしら・・・」
「子供の頃からのお友達ですから、できれば来ていただきたいんです・・・でも・・・」


今のナターリエに友人の晴れ姿は酷かもしれない。
アルメリーアはそう思ったが、口には出さなかった。
「彼女はまだ喪中ですものね。難しいかもしれないけれど・・・お誘いはしてみましょう」クリスティーネの手を優しく握って励ます。「あなたの気持ちは伝わるわ」
クリスティーネはそっとアルメリーアに抱きつき、また服の試着にかかった。


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