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固定ギアの自転車による環島(台湾一周)の記録 その3

2023年4月28日から5月4日までの七日間、自転車で台湾を一周した。今回は、初日の走り出しから終わりまで。


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環島スタート

 スタート地点の松山駅に着いた。
 海外旅は取りつきに立つまでが大変と聞いていたが、実際、空港からの脱出と台北駅から松山駅までの移動に予想外の時間を割いてしまい、13時頃にはスタートする予定が、時刻は既に16時。当初は、初日に150km先の台中(タイチョン)に着く計画だったが、ひとまず計画変更をして、100km先の新竹(シンヂュー)付近まで走り、その辺りで野営適地を探すことにした。  
 実は、当初は1日平均200kmペースで漕ぎ、ゴールの近く、東部の宜蘭(イーラン)に早めに到着し、太平山(タイピンシャン)という山をのんびりとハイキングできればと考えていたが、この時点で、その行程を踏める可能性が極めて薄くなっていた。(そして、結果的に宜蘭に着いた時点で、そんな体力的余裕も時間的猶予もなかった。)

 ともあれ、スタートを切れないかもしれないという不安はなくなった。
 ここから本格的に台湾一周旅行が始まり、しばらくは漕いで寝るのシンプルな生活に身を置くことができる。
 家を出てからスタートラインに立つまで、地に足がついていないようなぼんやりとした感覚がずっとあったが、いざペダルを漕ぎだすと、環島をするという事実が急に目の前に現れて、一気に解像度が上がったような不思議な感覚になった。そんな気持ちの変化とは裏腹に、誰に見送られることもなく、もちろん開始の合図もなく、この旅行で唯一2度訪れる場所である松山駅前広場を後にして、ぬるりと環島がスタートした。

台北市街を抜けて新竹方面へ

 環島は、まず台湾最大の都市である台北市街のストリードライドから始まる。ニューヨークのメッセンジャーがノーブレーキのピストで狂ったように走る動画がYoutubeにあるが、風景イメージはそんな感じだ。高層ビルの合間を縫うように走る道路を、大量の乗用車や大型バス、そしてそれらよりも遥かに多いスクーターに轢かれないように気をつけながら、細長く地味な色合いの「環島一号線」の看板を見失わないように進む必要がある。人為的な事故リスクが高い区間なので注意を払いながら走る必要があるが、その反面、スクーターに囲まれながら信号待ちをしている時などは、なんだか地元の人になったみたいで少し嬉しかったりもする。

スクーターが多いからかヘルメット専門店を結構見かけた

 普段は見通しの良い田舎道しか走らない僕にとっては、道路脇にひっそりと佇む看板を、動力車の群れに混じりながら識別することは中々に難易度が高く、案の定、ソッコーで看板を見失ってしまった。
 このように、注意深く走っていないとすぐにロストしてしまう環島一号線看板には旅行中かなり手を焼いたが、案内自体はよくできており、地図に頼らずとも、この看板さえ見失わなければ環島ができるようになっている。そんな優れものを一国ぐるりと、それなりにしっかりとナビゲートできる形で整備することは並大抵のことではなかったはず。時折見失いながらも、やはりただただ感心するしかなかった。

見通しの良い道路上の環島一号線看板
茂みの中の環島一号線看板
これも環島一号線看板の一種。環島には枝番で表される派生ルートがたくさんある。

 そんなこんなで迷いながらも大きく方角を間違えることはなく、30kmほど走って三峡(サンシャー)という街に着いた。台湾にはいたるところに「老街(ラオジエ)」と呼ばれる古い街並みが残る地区があり、ここにも三峡老街と呼ばれる地区があった。薄暗くなりかけた老街に、夜市が煌々と浮かび上がる様は、台湾旅行に来たという実感を得るには十分すぎるほど異国情緒にあふれていた。ゆっくり観光したい気持ちはあったが、目的の新竹付近まではまだ結構な距離があったので、「Hi-Life」というコンビニの軒先で少し休憩して、先を急ぐことにした。

三峡老街
「Hi-Life」。台湾はコンビニが多く安心だ。   

凶暴犬の巣

 ここからは、山〜街〜山〜街といった具合で小さな山を越えて小さな街に着くことを何度か繰り返した。2つ目の街を過ぎたあたりで時刻は22時。そんなに距離は走っていないが、飛行機移動などで丸一日行動してうっすらと疲労感を感じ始めていたので、進行方向に向かいながらテントが張れそうなところを探し始める。すると、早速山間の広い幹線道路沿いにテントが1張りできそうな東屋を見つけた。遠くの山の方から野犬の遠吠えが聞こえたが、かなり離れているようだったので、これはしめしめとザックをおろしてテントの準備を始めていると、今度は結構近い場所からガサガサッと獣の音が聞こえた。東屋から少し離れて辺りを見回すと、2頭の野犬が吠えながらゆっくりとこちらに向かってきていた。ここは時折車が通り過ぎてゆくだけで極めて人気の少ない山間部。襲われるとまずいな、とかぼんやりと考えながら、2頭の動きに注意を払っていると、東屋の裏手の白いフェンスで囲まれた空き地から突如として、大量の野犬が激しく吠え暴れまわる音が聞こえてきた。何頭いるかもわからないほどの無数の雄叫びが聞こえたかと思うと、今度はフェンスに激しく体を打ち付ける音が辺りに響き渡る。目的は全くわからないが、おそらくそこは大量の凶暴犬が何者かの手によって飼育されている場所で、先ほどの2頭はそこから脱走してきたものと考えられた。もう完全にバイオハザードの世界観で、台湾とか関係なしに怖すぎる。流石にテントの中でアンデッド化して朝を迎えたくはなかったので、急いで出しかけた荷物をまとめてその場を離れることにした。行く手を遮るように2頭の犬がこちらの様子を伺っていたのですれ違う必要があり、案の定少し追ってきたが、すぐに諦めてくれたのでなんとか無事に逃げることができた。

街と街をつなぐ幹線道路。こんな時間でも時折サイクリストとすれ違った。
山中の道沿いの寺。台湾の装飾は派手だ。

 なんとか危機を逃れたが、一度楽な方に流れた気持ちは中々元に戻らない。もうあまり走る気にならず、とにかく早く寝たいと本気で寝床を探し始める。街中の廟、老街にある公民館、そんなとこで寝られるはずもない場所の前でギリギリまで考えて正気に戻ることを繰り返し、最終的に峨眉郷という山間の集落にある託児所の前というよく分からない場所で野宿をすることとなった。
 時刻は午前0時。環島1日目が終わる。予定よりも進めなかったが、大きなトラブルや怪我もなく、なんとか自転車で走り出すことがきてよかった。固定ギアによる支障も今のところはない。テントも張れて、ようやく横になれる。安堵感と疲労感でいくらでも寝れそうだったが、そこは託児所の前。峨眉の子供たちにトラウマを植え付ける訳にも行かず、誰の目にも触れないよう朝の4時に起きて出発できるようアラームをセットして眠りについた。

(次回へ続く)

久しぶりに使うテント。家にいる時に1度中でお香を焚いたので良い匂いがして安心した。
 

【閑話】インターネット環境について

 台湾ではインターネットで特に不便することはなかった。だいたいどこでも繋がるし、僻地で繋がらないのは日本も同じだ。
 今回僕は日本にいる間にAmazonで台湾用SIMカードを購入して、事前にスマートフォンにセットする方法を選んだ。現地に着いてからしなければならないことを減らすのと、現地で調達するより若干安かったからだ。10日間で1,830円のもので、届いた時点で使用開始日を設定しておけば、自動的に旅行の初日からインターネットが使えるようになる。
 僕は「OPPO A5 2020」というスマートフォンを使っているが、地図やカメラ機能を使いながらでも、充電せずに丸2日は使える優れもので、3年くらい使っているがバッテリーのヘタリもそんなに見られない。さらにデュアルSIM機能が搭載されており、二枚のSIMカードを入れておくことができる。買った時にはこんな機能いつ誰が使うのかと思ったが、今回台湾旅行をするにあたり、事前に買ったSIMカードを挿入しておけば、台湾に着いた時点で設定画面でSIMカードを切り替えるだけで済んだので楽だった。
 周りがiPhoneのAirDropで写真を共有している最中は少し寂しい思いをすることになるが、安くて頑丈でバッテリーも大容量なのでおすすめだ。(OPPOにも「OPPO Share」という機能があり、OPPO同士なら素早くデータを共有することができる)

デュアルSIM

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