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固定ギアの自転車による環島(台湾一周)の記録 その1 

朝焼けの龍磐(ロンパン)大草原

まえがき

 2023年4月28日から5月4日までの七日間、自転車で台湾を一周した。
 「環島(ホワンタオ)」と呼ばれるこの台湾一周旅行を行うにあたり、書籍やインターネットで情報を集めた。これらは旅行中に見ることは多くはなかったが、準備段階での諸々の不安を取り除くのに役立ったし、なによりも、海外での自転車一人旅という未知の世界を前にして、ふんぎりがつかない自分の気持ちを大いに奮い立たせてくれた。
 みなさんがこれから環島や自転車旅をしてみたいと思った時、僕と同じように、なかなか最後の一歩が踏み出せないかもしれない。そんな時、後押しと言えるものになり得るかは分からないが、なんとなく気持ちが軽くなって、どこか旅行にでも出かけようかくらいに思っていただけたらと、僕が体験した「環島」について書いてみようと思う。

台湾南部・屏東(ピンドン)の猫

なぜ環島をしようと思ったか

 月並みだが「今しかできない」と思ったからだ。海外に限らず自転車などで一人旅をする時、精神的・体力的にタフな方が楽しむ余裕が生まれる。どちらが大事かと問われると、体力は旅行中にいやでも培われるので、知らない世界に飛び込んで生活をする精神的なタフさの方が多少必要かもしれない。また、多くの労働者や家族を持つ人にとってはこれが1番の問題になるかもしれないが、自由に使えるまとまった時間を確保する必要がある。
 幸いにも僕は、2年ほど前からサイクリングに勤しみ、国内での一人旅も何度か経験していた。加えて、今年のゴールデンウィークは3日分の有給休暇を加えれば10連休になるというのだから、これだけ手札に役が揃っている以上、勝負しない手はなかったのである。
 といいつつも、観光シーズンで平常時よりも割高な航空券を前に、数週間はエクスペディアの予約画面を行ったり来たりしていたし、国内でも旅行先の候補はいくつかあった。それでも前述した理由から「今しかない」と思い、往復で6万円ほどする預入手荷物付きの航空券を半ばヤケクソで予約し、はれて環島への第1歩を踏み出したのだった。

準備について

オーストリッチの前輪だけ外すタイプの輪行袋

 必要なものは大まかに以下の3つ。
  ①航空券
  ②自転車
  ③寝泊まりやメンテナンスの道具

①航空券

 今回僕はタイガーエアを選んだ。
 5日間〜1週間で一周する計画で、4/28 8:55関空発、5/5 4:10桃園国際空港発の往復で内訳は以下の通り。


 航空券 ¥44,500
 手荷物料金 ¥8,000
 税およびサービス料 ¥6,333
    航空会社のカード手数料 ¥2,200
 合計 ¥61,033


 有給をとり平日である4/28に出発できたので、ハイシーズンにしては多少安く買うことができた。手荷物料金は自転車を預けるための料金で、預ける荷物の重さによって金額が変わるが、今回は余裕をみて行き帰りともに20kg分の手荷物料金を支払った。
 今回、航空券を購入するにあたり初めて知ったが、航空券の値段は同じ便でも日々変動する。僕が見ていた間は、概ね± 5,000円の間で変動しており、最初のうちは何とか底値で買おうと小まめに航空券の値段をチェックしていたが、ハイシーズンということもあり、そもそも航空券を確保できなくなるかもしれないと不安になり、最終的にはあまり気にせずに購入した。今回のように出発を平日にすれば、それだけで結構安くなった。

②自転車

 watanabeという日本製フレームの固定ギアの自転車を選んだ。
 「固定ギア」と聞いてピンとくる方は少ないと思われるが、細かい説明は抜きにして、シングルギアの自転車ということである。変速がない自転車。
 なぜそんな自転車で環島をしようと思ったのか。理由は、とにかくその単純さが好きだからだ。漕げば前に進む。それだけ。変速機がついていないので見た目もシンプルでなんだかかっこいい。輪行中における重量や運搬中の故障リスクの少なさなど実際的な理由はあるにはあったが、とにかく、単純明快な固定ギアという乗り物で台湾を走ってみたかったのだ。
 ただ、先に白状しておくと、今回の環島を固定ギアで走ったのは少し失敗だったかもしれないと思っている。分かりきっていたことだが、固定ギアは登坂が厳しいのはもちろんのこと、下りでも足を止めることができない。分かっていたのだが、ロングライドにおける固定ギアの下りの壮絶さたるや、想定の範囲をゆうに超えていた。下りの途中で休憩をしたのは人生で初めての経験だった。
 つまりは、約1,000km、数日間に渡る環島のようなロングライドにおいては、ギアードのロードバイクやランドナーなどで走った方が絶対に楽しいということだ。

寿峠から逹仁(ダーレン)への長い下りでの休憩中

③寝泊まりやメンテナンスの道具

 ビジュアルで示すと以下の通り。

    野宿を想定した持ち物だが、色々あって野宿をしたのは初日の夜だけで、あとは全てゲストハウスを利用した。ハードに野宿をする場合においても、ゴールデンウィークの時期の台湾はすでに暑いのでシュラフは不要だった。普段の野宿はツエルトを使用したり、天気が良ければテントは張らずにその辺で寝ることも多いが、今回は自転車旅で初めての海外一人旅ということもあり、どこでも張れて比較的安全な自立式のテントを選んだ。写真下部の灰色の物体はマット。右上の自転車メンテナンス用の工具やテントポールは自転車のフレームバッグに収納し、それ以外は右下の緑色のザックに詰めた。ザックの雨対策は中に厚手のビニール袋を入れて対応した。
 行動用の着替えは、当日着ていくものプラス二日分を持っていき、宿についてからの部屋着として薄手の長袖フーディ・長ズボンを用意した。行動中は半袖半ズボンで過ごしたが、日光で肌が焼け切ってしまったので、気になる方は肌を隠す対策をした方が良いと思う。炎天下での放浪旅は衣服が汗で汚れてとても臭くなるので、就寝用のドライな状態の衣服は常に確保するように努めた。レインウェアの通常の使用用途での出番はなかった。
 電気類(着替え類の左上あたり)は、モバイルバッテリーを20,000mAhと15,000mAhのものを持っていった。後者は今回の旅行用に買ったものだが、コンセントで直接充電できるタイプで非常に便利だった。ゲストハウスで充電しながら、この二つで十分事足りた。自転車のライトは、フロントはレザインMINI DRIVEの400ルーメンのものを二つ、リアはKNOGのノグプラスを二つ持っていった。台湾の、特に西海岸は日が長く、思ったより夜間走行が少なかったので、これらはあまり充電することはなかった。ヘッドライトはぺツルのものを2種類持って行ったが、初日の野宿以外で使うことはなかった。
 リペアキットやファーストエイドキットも最低限のものを持って行ったが、幸いにも出番はなかった。写真右側のヘルメットの横にあるのは釣道具だが、釣果ゼロであった上に、最終的に釣りの最中にロッドを折ってしまった。(!)
 ボトルは走行中に水を飲んだり体にかけたりする用に一本、ストック用にナルゲンの1.5Lのものを一本。大容量のものが一本あれば旅行中は安心だった。
   
 僕は色々と持って行ったが、何も持っていない人は何も持っていないまま、家にあるものをかき集めて、とりあえず航空券だけを買って台湾に飛んでいくのもいいと思う。自転車や寝泊まりの道具などは現地で調達できる。台湾は島を一周するように鉄道が走っているので、それを使っていつでも帰ることができる。色々と買い揃えてたりしている間に選択疲れするくらいなら、勢いのまま飛び出しても案外なんとかなるものである。自転車一人旅というとたいそうな気がするが、一時的に家を離れて知らない土地で生活をするだけのこと。忘れ物をしても誰にも怒られない。

     少し長くなったので、旅行中の本編については次回に回そうと思う。


【閑話】自転車だけが環島ではない

 環島とは、台湾を一周することを指すが、それはなにも自転車によるものだけを指しているわけではない。実際、僕が環島をしている間、バイクや徒歩で環島をしている人を何人か見かけた。ただ、「練習曲」と言う環島をテーマに作られた台湾映画の主人公が自転車で環島をしており、その映画のヒットをきっかけに台湾人の間で環島ブームが起こったという文化的背景から、主流は自転車によるものなのかもしれない。いつか、歩いて環島をしてみたい。

途中で飴を交換したサイクリストの自転車
この後、ひとりで歩いて環島をしている女の子にも出会った

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