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亡霊に引っ張られたあとの話

 亡霊はしばしば生きてる人を呪い、そして死に至らしめます。とりあえず、怖い話の中ではそうなっています。怖い。もちろん、怖いです。死んじゃうんですから。しかも、亡霊の面々はなんでか知りませんが、みんな怖い顔をしています。亡霊なんだから怖くない顔をしたって充分に怖いのに彼らは手を抜いてくれません。どうしてこうもストイックなのか。それも含めて怖いです。

 しかし、ちょっと待っていただきたい。亡霊によってこの世の者となくなってしまった暁には、亡霊と同じ立場になるわけです。死への恐怖だってもうありません。もう死んだんだから。ならば、亡霊に反撃のしようもあるというものです。なんだったら、こちら側のほうが強いかもしれない。死んでから除霊できるチャンスがあるんです。ええ、誰にでも。

 残念なことに、そんな死後除霊の話はあんまり聞こえてきません。大体この世に聞こえてくるのは、自らも亡霊になって、この世の人間をあの世へ引っ張り込む手助けを始める話です。何してくれるんですか、まったく。いや、待ってください。悪い噂のほうがよく広がるのはこの世もあの世も一緒でしょう。だから、死後除霊に勤しんでいる人だっているけれども、この世にまで聞こえてこないのかもしれません。個人的にはそうであってほしい。

 あの世に行きたての話と言えば、ほかにも気になることがあります。家族や友人をあの世へ引っ張る、という考え方がありますね。妻が亡くなったすぐ後で夫も亡くなってしまう、みたいな話です。

 仲のいい夫婦だったら問題ないと思うんです。あの人がいない世界なんて、と思ったところにお迎えが来た。しかも、引っ張ってくれたのはまさにあの人です。あの世への道のりだって寂しくない。思い出話に花を咲かせながら旅立ってゆけます。

 問題なのはそこまで仲がよくないとか、あとはこの世に未練がバッチリある状況で引っ張られた時です。

「いやいや、何すんの。こっちはまだやりたいことがあったのに」
「だって、ひとりじゃ寂しいじゃん。方向音痴なの知ってるでしょ」
「だからってここまでするかね。そもそもお前今いくつよ。ひとりで行けるだろ」
「なんだよ。いいじゃん。腰が痛い足が痛いって毎日ぶつくさ言ってたじゃん。もうそんな体もないし、死んでスッキリしたろ」
「うるせえ。あー最悪だ。もうひとりで行くわ。ついてくんなよ」
「嫌だね。ダメだって言ってもついてくから」

 亡霊同士の聞くに堪えないケンカが繰り広げられること間違いありません。幽霊の声が聞こえるという霊能者は、幽霊同士のケンカも聞かなければならないのです。いつどこでそんなケンカが起きてるのかは知りませんが、こういうものが聞こえないだけでも霊感がなくてよかったと思います。

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