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唯一の悪夢が現実へ

 皆さんは悪夢をたしなんでおりますでしょうか。私もたまに、寝れば強制的にたしなまされています。

 悪夢と言っても、その内容は無限と言えるほど多彩でしょう。怪物が出てきたり、誰かが亡くなったり、とにかく何だかよく分からなかったり。人間っていろんなもので怖がったり苦しんだりできるんだなあと感心してしまうほどです。

 私の印象深い悪夢は「何にも勉強していない状態で大切な試験に挑む」でございます。試験当日の夢もあれば、試験1ヶ月前になって慌てふためく夢もございます。もうものすごく悔やむんです。時間はいっぱいあったのに、なぜこんなになるまで自分は何もしてこなかったのかと。

 大体そこで目が覚めます。そこで気づくんです。勉強してこなかったのは試験を受ける予定がないからだと。カーテンの隙間から差し込む朝日を顔面に浴びながらホッとするわけです。

 私も昔は様々な悪夢を見てきました。少し先で飛行機が落ちたので慌てて現地に向かったら凄惨な光景が広がっていた、なんて夢もありましたし、後頭部に巨大なクモがガッチリしがみついてきた、なんて夢もありました。でも、そんなバラエティに富んだ悪夢をだんだん見なくなり、今じゃ悪夢と言えば先ほど書いたような「勉強ゼロで試験に挑む」夢ばかりなんです。

 過去にそういう経験をしたのは確かです。定期テストが明日に迫っているのに全く勉強していない、あの独特な焦燥感はもう二度と経験したくない。悪夢になって当然の嫌な記憶ではあります。でも、あれだけ多彩だった悪夢が「勉強ゼロで試験」に収束されると、「お前が一番怖いのは結局これだろ?」と神様に言われてる気分になるんです。いやあ、確かに怖いし嫌ですけど、世の中にはもっと酷い事態や深刻な悲劇があると思うんですよね。なのに、最高の悪夢が「勉ゼロ試験」って、なんか全然大したことない人生を歩んでいると思い知らされてるみたいで気恥ずかしい限りです。

 ちなみに、現状、私の唯一の悪夢「勉ゼ験」ですけれども、最近ではそんな悪夢に見慣れてしまったせいか、変化が起きているんです。それまでの悪夢では、勉強しなかった自分を悔やむだけで、他は何もしなかったんです。でも、最近の悪夢は、勉強してこなかったのは仕方がないものとして、残された時間で何とかできはしないかと画策するようになったんです。

 これは成長と言うのでしょうか。それとも何かを暗示しているのでしょうか。何らかの試験を勉強ゼロで受けて、実際に慌てふためきたい欲望が私の中にあるのか。それとも、何らかの試験をちゃんと受けて合格し、悪夢に打ち勝ちたいと思っているのか。

 いずれにしろ試験を受ける予定は全くありませんので、もし受けるとしたら悪夢関連が目的なのは確実です。そんな理由で試験を受けるのは、ちゃんとした目的で試験を受ける人に対して失礼でしょうし、特にそこまで悩んでいるわけでもない悪夢を解消するために時間と労力を費やすのは、それこそ新たな悪夢を生み出してしまいそうです。

 夢で見た怪物が現実に現れるタイプの創作物では、「悪夢が現実を侵食する」のような表現を用いられがちですが、私の場合も悪夢が現実を侵食しているのでしょうか。そう認定してもいいんでしょうけれども、それだと悪夢にも現実にも侵食にも失礼な気がしてきました。

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