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題名読書感想文:09 学問としての美学、いじられてきた美学

 「美学」は数学や科学、社会学のように「学」の字がついています。ですから、学問の一種でございます。ウィキペディアによりますと、「18世紀に成立した哲学の一領域」でございまして、「美の本質や構造を、その現象としての自然・芸術及びそれらの周辺領域を対象として、経験的かつ形而上学的に探究する」と、学問らしい難解な説明が書かれています。

 かなりザックリと説明してしまうと「美とは何か」「美しいとはどういうことか」「人はどうして『美しい』と思うのか」などなど、「美」について徹底的に考える学問のようです。

 しかし、言葉は時の流れや特定の出来事によって意味が変化してしまうものです。言葉のイメージに至っては、もっと簡単に変わる。18世紀に誕生した美学もまた例外ではありません。

 試しにgoo辞書で「美学」を調べてみました。

美の本質、美的価値、美意識、美的現象などについて考察する学問。
美しさに関する独特の考え方や趣味。「男の—」

 これだけではどちらの美学が先に生まれたものなのかは分かりませんが、少なくとも現代日本では2の意味で使われることが圧倒的に多いでしょう。

 何だったら、2の意味で「美学」を用いる方々を世間は結構な頻度でいじってきました。美学を語る人が「全ての美を追求するあまり自己愛が強くてかなり気障」みたいなキャラクターに描かれている様子を私は何度となく見てきました。

 美を追求するキャラクターもいじられすぎたためか、今ではお笑いコンビ「カカロニ」の栗谷さんのように、ナルシストだけど自虐ネタを連発するなど、更にひねりを加えて笑いを誘う方もいらっしゃいます。

 とにかく、現代の「美学」は「美しさに関する独特の考え方や趣味」がメインになってしまっています。もちろん、学問のほうの「美学」は現在に至るまで脈々と続いているわけですが、別の意味の「美学」を多用することに慣れてしまった我々としては、「美学を勉強しています」なんておっしゃる方のイメージは、金色でやや長めの髪をたなびかせ、やけに胸元の開いた白シャツを着て、口にバラを咥え、全てを見透かしたようなため息をつく美形の男性になってしまうんです。口癖はもちろん「美しい……」です。

 実際の美学研究者はきっと違うでしょう。しかし、固定観念にとらわれた我々は特定のイメージを浮かべてしまう。散々いじられてきた「美学」が学問のほうよりも先行する、しゃしゃり出る。

 学問のほうの美学は何しろ学問ですから、テキストと申しますか、専門的に扱った本、いわゆる「専門書」が存在するんです。しかし、タイトルを読んでも、いじられ美学のイメージが出てきて悪さをするんです。

 試しに、美学の本を並べてみます。まずは「美学の練習」です。

 美学に練習ってあるんだ、と思い知らされるタイトルです。学問はしばしば入門書がございますけれども、美学もまた例外ではございません。他にもございます。例えば、文字通り「入門」とついている「近代美学入門」です。

 学問のお仕事をしている方は当然ながら、ご自身が専門にしている学問が盛り上がってほしいと思っている。盛り上がるためには、より多くの人にその学問へ興味を持ってもらう必要がある。必然的に入門書が増えて参ります。他にも、以下の書籍が確認できます。

 美学への手引き。

 美学への招待。

 美学のプラクティス。

 手引きしたり招待したり、しまいにはプラクティスです。様々な言葉で専門家たちが美学に誘ってきます。

 こんな入門書もあります。「分析美学入門」。

 「美学」も細分化が進んでいるのか、「分析美学」という学問もあるようです。そんなジャンルでも「ちょっと見ていきませんか」と専門家が誘っている。学問の世界は私の予想より広くて深いです。

 更に一歩進んだタイトルもございます。「分析美学基本論文集」です。

 一瞬どこで単語を区切ればいいのか分からなくなりそうな、難解なタイトルです。美学は学問ですから分析もするし論文もある。何の不思議もありません。

 「美学史研究」という本もございました。

 学問も続ければ歴史が積み上がっていくわけで、そのうち学問の歴史をする人も現れます。科学の歴史を研究する人を「科学史家」なんて呼んでおりまして、当然の流れとして「美学史家」もいらっしゃるようです。

 学問として発展しますと、その学問に関する辞典または事典が作られる傾向にあります。もちろんあります、「美学辞典」。

 「美学の事典」に関しては編者が「美学会」というのもポイントです。学問ですから、専門家が集まる「学会」が生まれるのは必然です。名前は「美学会」に決まっています。

 シンプル「美学」も書籍として存在しています。

 いわゆるガチの専門書というやつでしょう。

 図らずとも「美学」の書籍を通じて、特定の学問に関する書籍によくある流れを追っていく形となりました。書籍を通じてなんて偉そうなことを書きましたが、通じたのはタイトルだけだという点は改めて強調しておきます。

 最後に、タイトルに「美学」のある書籍を紹介して参りましたが、ちょっとでも半笑いになった方は私と同じ先入観にどっぷり浸かっています。でも、そういう楽しみ方があってもいいと思います。人間、何をきっかけに興味を持つか分かりませんし、私もふざけた調査をした末に、ちゃんと興味を持ったジャンルがいくつもございます。

 5年後くらいには美学辞典を小脇に抱えて街をうろつく私が世界のどこかで見られるかもしれません。その際は、適当に見守ってくだされば幸いです。

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