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自分が幻の客になってしまったかもしれない

 所用があり、ホテルに泊まることになりました。フロントにて、レストランなどホテル内の各施設における営業時間を案内されます。当時は新規感染者数がだいぶ落ち着いていた時期ではありますが、このご時世です。お酒の提供はかなり制限され、営業時間も短縮されていました。

 もう分かっていたことなので、その辺は特に何とも思いませんでした。気になったのはジムの営業時間です。「22時~6時」。何でしょう、この多くの人を拒むような時間帯は。誤植かと思って確認しても「そうです」との返答が。

 とりあえず、ホテルには他にもいろんな施設があったのであれこれ満喫しているうちに外は暗くなり、私は部屋でひとりテレビを見ていました。そろそろ寝る時間ですが、妙に眠くない。そこでジムに行ってみようと思いました。

 人の気配が全くない廊下を歩いてジムの入口に行くと、「ご利用の方はこちらの電話にてフロントにご連絡ください」との看板があり、そばには確かに電話がある。開いてるから勝手に使ってくださいという形式ではないようです。とりあえず、電話をすると入口でお待ちくださいとのこと。すぐにホテルの方が来てくださいました。ドアを開けて立ち去るホテルマンを申し訳ない気持ちで見送ると、私はジムに入りました。

 本来はいろんなマシンが使えるようですが、このご時世もあって使えるのはランニングマシンだけ。しかも、距離を保つためか1台おきにしか使えないようになっています。まあ、私は運動らしい運動はジョギングしかしてませんし、そもそも他に人はいません。軽く走って汗を流して帰ろうとしました。

 すると、奥から人が現れました。格好からジムで働く従業員だと判断しまして、使っていいか一応聞こうと近寄りました。そうしたら、従業員は私を見るなり「うおっ!」と叫んで10センチくらい飛び上がりました。どうも人がいるなんて思わなかったようです。

 とりあえず、従業員の方は使っていいですよとだけ言って、奥の部屋に戻っていきました。知らない大人が素でビビるところを久々に見たなあとか、自分を幽霊か何かと間違えてはないだろうなとか、いろいろ思いながらも1時間くらい走って退出しました。

 部屋に戻って考えました。自分は本当にジムへ行ったのか、使ったのは間違いなくランニングマシンだったか、そもそもここは本当にホテルなのか。朝、目覚めたら山の中だったとか、そんなことにはならないだろうか。もちろん、翌朝は普通にホテルの一室で目覚めまして、普通にチェックアウトしました。

 こうやって改めて考えると、ホテルの従業員たちのほうがいろいろ考えてたかもしれませんね。「あの時に見た客は本当に客だったのか」とか「身体が透けてなかったか」とか。

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