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題名読書感想文:28 科学は人名になる危機と隣り合わせ

 最近は題名だけでどうにか感想をひねり出す読書「題名読書感想文」をやっております。題名なんて表紙チラ見で済みますから、「読」む「書」というよりは「見」る「書」、すなわち「見書」のような気もするんですが、今のところ気のせいにしています。

 今回のテーマは「人名」です。ものの名前は何かの拍子に人名っぽくなってしまうことがあります。日本人の名前でありがちなのが、最後に「子」がつくパターンです。

 とは言え、今の子供は「〇〇子」なんて名前をつけられるのでしょうか。軽く調べたら、こんなページが出てきました。

 「逆に今風?」とのことですが、本当にそうなのか私には確認のしようがありません。ただ、流行は繰り返す場合もあるようですし、「〇〇子」が再び全盛の時代を迎えたとしても不思議ではないのでしょう。それこそ、将来には「〇〇右衛門」みたいな名前が復活し、ベタな名前として日本を席巻するかもしれないんです。

 「右衛門」はともかく「子」は1文字な上、画数も少ないせいか、割とよく使われる文字です。よく使われるということは、思わぬタイミングで人名っぽくなりがちとも言えます。例えば「量子アニーリングの物理」がそれです。

 量子アニーリングとは、とある組み合わせを最適化処理するのに必要な計算技術とのことで、量子コンピュータに必要なんじゃないかと期待されているようです。日本語だと「量子焼きなまし法」とも呼ばれておりまして、日本語版ウィキペディアでは「焼きなまし」のほうで項目が作られています。

 当然「焼きなまし」とは何かという話になるわけなんですが、これは素材が壊れずに変形する性質を高める熱処理のことを指すようです。地方に古来から伝わる郷土料理みたいな名前ですが、違うんです。

 それにしても量子アニーリングです。「量子」は普通、「物理学で出てくる物凄く小さいもの」だと思われていますが、「アニーリング」がくっつくと、途端に人名っぽくなるんです。「量子」を「りょうし」ではなく「りょうこ」と読みたくなってしまう。リョーコ・アニーリングなんて、ヨーコ・ゼッターランドさんみたいじゃないですか。

 ちなみに、量子アニーリングは日本で生まれた技術なんだそうで、東京工業大学の門脇正史さんと西森秀稔さんにより1998年に発表されたとのこと。

 しかし、「量子アニーリングは日本生まれ」と聞きますと、日本の病院で出産されたかのようにも聞こえます。

 ちなみに、量子がらみではこんな題名の本もあります。「量子の匠」です。

 量子力学の書籍としては独特な題名でございます。そのために、量子の「りょうこ」感がグッと出てくるんです。やっぱり原因は「匠」でしょう。前出の量子アニーリングさんが何らかの職人として独り立ちし、業界を背負う新進気鋭の職人になったかのように思えてなりません。

 なぜかは分かりませんが「特攻の拓」感も出てますね。不思議なことです。

 物理学を筆頭に科学方面は量子の他にも分子とか原子とか電子とか陽子とか中性子とか光子とか遺伝子とか、とにかく「子」がつく単語が多く、人名と誤認される危険性が常につきまとう一大ジャンルとなっています。光子なんてそのままで「みつこ」と読めてしまうわけで、人名化の危機と隣り合わせなんです。

 そんな中で「格子ボルツマン法」という本があるわけです。

 格子ボルツマン法とは流体力学における計算方法のひとつでございまして、複雑な流れといった面倒な状況でも使える便利なやり方なんだそうです。

 科学でボルツマンなんて、どう考えてもオーストリア生まれのルートヴィッヒでしょう。有名な物理学者でございまして、功績がすごすぎてボルツマン定数とかボルツマン方程式、ボルツマン分布などなど、いろんなところに名前が残っている。つまり、ボルツマンはもともと人名なんです。

 ボルツマンが人名であるために、格子もなんか人名っぽく見えてしまうんです。何だったら、ボルツマン一族の血を引く者ですら思えてくる。

 ここまで、ご両親が日本人と海外の方の名前っぽい題名ばかり出てきましたけれども、ご両親が日本人の名前っぽい題名もございます。それが「江戸切子」です。

 江戸切子とは日本の伝統的なガラス細工でございまして、天保5年に始まったとされています。

 「きりこ」さんは日本に実在する人名であり、ラストネームではありますが、ジョルジョ・デ・キリコのようにイタリア辺りでも存在しているようです。つまり、人名に見えても無理はないと言えます。

 ちなみに、名字由来netによりますと、江戸さんは全国でおよそ3700人いるそうです。

 江戸切子さん実在の可能性に期待が持てそうな結果です。

 それから、切子は江戸以外にも存在しておりまして、書籍としては「薩摩切子」がございます。

 薩摩さんは全国におよそ1300人いるそうです。

 それから、変わり種としては「鬼谷子きこくし」がございます。

 「鬼谷子」中国の戦国時代に鬼谷によって書かれたものでございます。つまり、孔子や老子のような、いわゆる「先生」という意味の「子」がくっついて「鬼谷子」なわけで、人名と言えば人名でもあるんです。孫子の師匠とも言うべき人物なんですが、あまりに昔の人物であるためか、存在が疑問視されてもいるようです。ちなみに、書としての「鬼谷子」の内容は主に遊説のやり方なんだそうです。

 しかし、この鬼谷子、なぜか椿鬼奴さん感があるんです。

 共通点は「鬼」があることと漢字3文字であることくらいなのに、どういうことなのでしょう。頑張れば「鬼谷子」が「おにやっこ」と読めるからでしょうか。

 昔の中国の思想家と今の日本の芸人の思わぬ共通点を見出した気がします。気がするだけだと思います。

 「子」に限定したため、どうしても女性っぽい名前ばかり取り揃える形となってしまいました。では、男性っぽい名前はあるのでしょうか。結論から申しますと、あると言えばあります。最後にそちらをご紹介します。それが「恒久グラウト・本設注入工法」です。

 もちろん、人名っぽいのは「恒久こうきゅうグラウト」です。グラウトとは隙間に注入する材料のことでございまして、中でも恒久的、すなわち長期間にわたって変化のないグラウトを用いて地盤を改良する方法を「恒久グラウト工法」と呼ぶようです。

 しかし、恒久は「つねひさ」とも読めますし、グラウトさんという方も存在します。何なら、本を出されているグラウトさんもいらっしゃいます。

 つまり、「恒久グラウト」はご両親が日本人と海外の方である男性の人名っぽいと言えるわけです。

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