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プロもするミス

 誰しもミスをする。これはもう真理と言ってもいいでしょう。プロもビギナーもミスからは決して逃れられない。

 もちろん、プロとビギナーが同じようなミスをすることは滅多にありません。プロのほうがビギナーよりもミスの頻度は低いでしょうし、ミスするにしたってビギナーとは段違いにレベルの高いところでのミスに違いありません。ミスもまた、プロはビギナーに比べて量も質も違うということでしょう。

 しかし、どんなプロだってこの世にあるもの全てのプロではありません。ある分野ではプロだとしても別分野ではビギナーということが必ず起こるわけです。

 例えば、たまたま3人制バスケットボール「3×3」のプロの試合を見た時の話です。プロなので皆さん当然うまいわけです。その上、3人制独特の、目まぐるしく状況が変化し、得点がバンバン入る試合に、「よく分からないけどすごい」というアホみたいな感想が出てきません。

 ひとつの試合が終わると、すぐに次の試合に出場する選手たちが同じコートで数分間の練習を行います。選手それぞれがボールを持ってきては、同じゴールに向かって次々にシュートしていきます。ボールは放物線を描いてゴールに入ったり、惜しくも枠に弾かれてあらぬ方向に飛んでいったりする。

 その時でした。シュートをしたひとりの選手がボールをキャッチし、ゴールに背を向けて再びシュートする場所へ戻っていたんです。そこに、ゴールの枠に弾かれたボールが後頭部にボコッとヒットしたんです。もう顔が下に向くレベルのクリーンヒットです。

 私は中学生だった頃を思い出しました。某バスケ漫画にハマっていた私は、運動神経がゼロだったことも忘れ、昼休みになると毎日のように運動神経ゼロ仲間と体育館へバスケをしに行ってました。しかし、そこは運動神経ゼロ、注意力も当たり前のようにありません。シュート練習をするも、自分のボールを拾うのに夢中だった私の頭へ他の人のボールが直撃することなんてちょこちょこありました。

 プロでもボールが頭にヒットする事故があるんだと、私は無駄に親近感を覚えました。

 他にも、こんなこともありました。調子に乗って美術館に行ってみた時の話です。

 そこでは書道の企画展がやっていまして、漢字のはずなのに一文字も読めない独特な書体を眺めては理解した気になっている私に、ひとりの女性が話しかけてきました。

「10分後に2階で書道のパフォーマンスをするので、よろしかったら見に来てください」

 何しろ私は書道とはどういう道なのか完全に知ったかぶりしている状態です。したり顔で見に行く選択肢しかありません。2階へ行くと、既に準備はできかかっているようで、雅な音楽を背景に先ほどとは別の女性が長さ1メートルくらいの太い筆を洗面器みたいな容器に突っ込んで筆先に墨をしみこませているところでした。慣れた手つきは素人目にもプロのそれだと分かるレベルでした。

 やがて、そのプロは軽く自己紹介をしたあと、たたみ一畳くらいの紙にサラサラと字を書いていきます。相変わらず私には読めない難解な書体でしたが、動く筆先には一切の迷いがなく、さすがプロと言ったところです。

 プロが筆を上げ、墨汁の入った容器に向かって静かに歩いた時でした。プロが本当に何もないところでいきなり軽くつまずいたんです。軽くだったので墨汁をたらしたり筆を変なところにつけたりはせず、私を含めた現場の人間全員がスルーしたんですが、確かにちょっとこけたんです。私は見逃しませんでしたし、皆さんも言わないだけで「あ、こけた」と思ったに違いありません。

 どちらの事例もちょっと考えれば当然起こりうることです。いくらバスケがうまくなろうと後ろから飛んでくるボールを察知するのは至難の業ですし、書道を極めに極めたところでつまずきやすさとは何の関係もありません。どんなプロだって万能ではないのです。

 もちろん、バスケも書道もビギナーな私になんて言われたくないと思います。はい、大変失礼いたしました。

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