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槍投げから見る人類の多様性

 小学校、中学校、高校と行くにつれて、様々な勉強が専門化されてゆきます。体育も例外ではありません。単なる駆けっこから徐々に本格的なスポーツ競技をやるようになる。

 高校の時にはサッカーのような集団スポーツはもちろんですが、割とちゃんとした陸上競技もやった記憶があります。しかし、やったことと言えばハードル、三段跳び、槍投げという、どういう基準で選ばれたのかよく分からないセレクションでした。

 私は長距離走以外の陸上競技が全くダメで、長距離走だってせいぜい人並みの陸上弱者でございます。更に、体育の授業なんて回数に限りがありますから、せっかく陸上競技に触れたところであっという間に終わってしまい、コツを掴む以前の問題です。ハードル走をすれば不思議な動きでどうにかハードルを飛び越えるのがせいぜいで、三段跳びをやろうとしてもなぜか四段跳びや二段跳びを繰り出してばかりでした。

 ボールを投げたり打ったりする競技ならばまだそこそこできるんですが、槍投げは状況が全然違いました。陸上大会に出るような人ですと、気軽にヒョッと投げて緩めの弧を描き、プスッと地面に刺さる光景が当たり前のように見られるんですが、私たち普通の高校生がやるとまず槍が地面に刺さらないんです。もう、我々の遠い祖先が狩猟で生活していたなんて信じられないレベルで刺さらない。

 しかも、これを7月の激烈に暑いグラウンドでやるわけです。私のやる気のなさがしっかり乗り移った槍は何度やってもや地面に刺さらず、グラウンドにペタリと横たわる。あとは陽炎のせいで微かに揺らめく槍をぼんやり眺めるだけで、先生に怒られるまでみんな拾おうとしない。

 それもそのはずで、槍投げは男子だけ、女子は50メートル先のプールで水泳三昧だったからです。何なら叱る先生だって10分おきに冷房がキンキンに効いた職員室に戻るという、やる気を出させる指導者とは対極の言動を繰り返していました。「俺、槍がちゃんと地面に刺さったらそのまま先生の尻も刺しに行くわ」と宣言している友人もいましたが、やっぱり槍は地面に刺さらず、傷害事件は未然に防がれました。

 きっとオリンピックに出られるような槍投げ選手だと、真夏日のグラウンドで、プールから水がバシャバシャする音と共に聞こえる女子の歓声を耳にしても嬉々として槍を投げ、そして地面に突き立てるんでしょう。本当に人類は多様化が進んだ生命体だと思います。

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