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事故日焼けスタイル

 今のように外気温が人の体温を越えるかどうかみたいな時期より少し前、季節としてはいわゆる初夏の頃、晴れた日に割と整備されている公園へ行くと、上半身裸で寝転んでいる人がチラホラ現れるんです。

 大体は日当たりのいいベンチや平らな地面に仰向けまたはうつ伏せでいて、下にはシートが敷かれていますから、何らかの身体的トラブルでぶっ倒れたわけではないと分かるんです。たまにサンオイルで全身テカテカの人もいますので、「ああ日焼けしようとしてるんだな」と理解はできます。夏に向けて焼いとこうと考えている点も簡単に推測できる。

 でも、外で人が横になっている光景なんてそうそう見ませんし、半裸の人もまた同様です。だから、見かけるたびに「もうそんな季節か」と思うより早く、必ず面食らうんです。もう毎年そうなんです。とにかく慣れない。トロピカルな柄のシートに寝転ぶ陽気な日焼けさんを見ても「救急車」という単語が頭をよぎったりします。

 興味深いのが、公園などで身体を焼いている人は非常に少数ながら、いろんなところにいらっしゃる点です。寝転んで日光を浴びるのに適した場所があるならば「よっしゃ、今年もいっちょ焼いてみっか」と立ち上がる方が一定の割合で現れるとしか思えない。だから、数は決して多くありませんが、私も毎年のように様々なところで日に焼く方々を目撃して参りました。上半身裸ってくらいですから、そういうことをされる方は今のところ100%男性です。

 今年ももちろん目撃しました。いつものように職場へ向かう電車に揺られていますと、窓に映る景色がにわかに青く広がりました。川です。両岸をコンクリートでピッチリ固められた、幅の広い川の上を電車が通るところだったんです。

 川岸は丈の短い草で覆われた平らな広場が続いていました。きっと晴れた日は市民の憩いの場として、大雨に見舞われた時には河川の増水を少しでも食い止める仕掛けとして、役立つスペースなのでしょう。

 そんなスペースにひとりの男性が寝転がっていました。例によって上半身裸にもかかわらず、草の上へ直に寝転がっている。日焼け族の中でも相当ワイルドなスタイルです。

 その隣には、恐らく彼のものなのでしょう、自転車がありました。それ自体は珍しくないどころか日焼け族には「あるある」です。自転車で日焼けスポットまでやってきて、いい場所を見つけると降りて身体を焼き始める。寝転ぶ日焼け族のそばに自転車が停められている光景を私も何度となく見てきました。

 ただし、今回は自転車も横になってるんです。男性の隣で転がっている。まるで自転車も日焼けを狙っているかのようです。男性は明らかに日焼けをするスタイルなんですが、隣に自転車が転がっているだけで、猛暑にやられて自転車ごとぶっ倒れた人にも見えてくる。もちろん、自転車の中にはスタンドのないタイプがあると知ってはいますけれども、あの光景は見方によってはいくらでも事故に見えるんです。私と男性との間には数十メートルの距離があったと思いますけれども、久々に「救急車」という単語が頭をよぎりました。

 とりあえず、帰りの電車では男性も自転車もいなくなっていましたし、ニュースサイトを調べてもそれっぽい事故を扱った記事がございませんでしたので、マジで身体を日に焼いていただけだとは思うんです。でも、何と申しますか、もうちょっと誤解されづらい日焼けスタイルをご一考くださってもいいんじゃないかとは思いました。

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