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DESIGN : 日本酒・三好イヤーボトル【HANA 2020-2025】 前編

山口県・阿武町にある大正4年創業の酒蔵から2017年に誕生した日本酒「三好(GREEN・BLACK)」。その後も「三好 冬」、「三好 BLUE」と精力的に新たな日本酒を生み出し、人気を博してきました。
そんな「三好」のデザインは、OUWN・石黒が担当しています。

2021年4月、三好から新たなシリーズが誕生します。

【HANA 2020-2025】

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新たに誕生するのは、2020-2025という名前の通り、5年計画のイヤーボトル。

今回の記事は、イヤーボトル【HANA】が生まれるまで…… をグンとさかのぼり、「三好」シリーズがどのように生まれたのか、どのように育っていったのか。阿武の鶴酒造6代目であり、自らも日本酒を醸す三好隆太郎さん、ディレクターの村上さん、デザイナー・石黒の3人で振り返ります。

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感染症対策のため、Zoomにてインタビュー。
(左上)三好さん、(左下)村上さん、(右下)OUWN・石黒

「三好」の始まり

ー 「三好」は、どのように生まれたんですか?

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村上 : 三好さんとは、大学時代からの友人なんです。
ある日、珍しく電話をもらいまして。三好さんが34年の休蔵に終止符を打つため、自身が6代目として奮起し、新たな日本酒のブランドを立ち上げると。そのプロジェクトを進めるにあたって、素敵なデザイナーを紹介できないかと…真っ先に浮かんだのが石黒さんでした。

石黒さんとは別の仕事でご一緒したことがあり、クライアントとの合意形成のとり方が紳士的で上手かった。また情報整理をはじめとした、デザイン工程が抜群に綺麗だったんですよね。そして彼が海外のアワードで受賞していることもあり、これからの日本酒の海外進出という視点に立って見ても、石黒さんが適任だと思いました。

石黒 : 最初は真面目に会議室でミーティングをしたんだけど、そのあと一緒に目黒にある日本酒のお店でお酒を飲んで。

村上 : 会議よりそっちの方がすごく濃厚だった記憶があります(笑)。
三好さんは、酒造の代表であると同時に杜氏でもあって、日本酒の香りを含めた味わい方やマリアージュみたいなものも含めて、興味深い話をたくさん聞かせてくれました。また、お酒って化学だなって思ったり。日本酒の良さももちろんですが、「三好さんってこんなにロジカルだったっけ?」って気づきも。以前会った時とは違い、様々な県、4つの酒蔵で修行を積んだ杜氏・三好隆太郎としての魅力を感じた夜でした。

三好 : 石黒さんを紹介してもらった時、OUWNのサイトで会社のメッセージの部分を見たんです。そこでもう、「あ、大丈夫だな」って直感的に思ったんですよね。この人となら、すごく楽しくできそうって思ったのを覚えています。

石黒 : そこからはトントン拍子に進んでいって。
「三好」っていうネーミングは2回目に会った時に決めたんですよね。

村上 : 画用紙の真ん中に、まだできていない三好のボトルを書いて、ネーミングの話、サイズの話、味の話、流通の話… いろんなことを話しました。
今回の日本酒は、阿武の鶴酒造の立て直しであり、リスタート・リボーンという意味がある。そこで、「三好」という名前が出て。
買い手よし、売り手よし、世間よしという、「三方よし」の精神だったりとか、売り手・作り手・買い手みたいな関係性だったりとか、3というキーワードがあった。
近い将来、海外展開を想定していたこともあって、三好さん自身の名前も広めていった方が効果的。作り手の名称認知と、この日本酒の意味合いが両方存在していたんです。

三好 : 単純に名字でやる、というよりも、思いがネーミングに一致したんですよね。そこがすごい大きかった。

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ー 最初のGREEN・BLACKのデザインはどうやって作ったんですか?

石黒 : 麹・米・水の三、売り手・買い手・世間の三。日本酒造りに大切なこれらの調和を願って、三という数字をラベルにあしらっています。実は「数字の1」が三つ並んでいるデザインで、それぞれの工程を一つ一つ、丁寧に紡いでいくというコンセプトでデザインしました。

最初は具象的なものや絵画的なものなど6案くらいは出していたけど、満場一致でこれになりましたね。

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ー シンプルだけど、他にない感じがしますよね。

村上 : そうなんですよね。シンプルなものってどうしても他に似たものが出がちだと思うんですけど、逆に不思議なくらい個性が出ているように思いました。また「三」というある種の記号は、記憶しやすい効果も持ち合わせています。このラベルを初めて見たユーザーや、日本語が読めない海外ユーザーにも想起しやすいものになると感じました。

グッドデザイン賞SAKE COMPETITIONラベルデザイン部門K-DESIGN AWARDなど、様々なコンテストで入賞。
> 三好 GREEN・BLACK 完成デザイン

三好 冬 〜 三好 BLUE

石黒 : その次にできたのが、「三好 冬」
これは、勝手に僕がポスターか何かを先行して作って、それで2人に共有したら、「いいね、やろう!」って言ってくれたんです。僕が先行して作っていたものに快く乗っかってくれて、2人のクリエイティブの対応能力を感じましたね。

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ー 風味じゃなく、ラベル先行で始まったものなんですね。

三好 : そう、ちょうど僕も冬の生酒を出したいと思っていたんです。
それで村上さんに話したところ、僕がやりたいと思っていることや表現したいことを、文章にしてまとめてくれました。

石黒 : いつも村上さんがコンセプトやコピーを書いてまとめてくれるんですが、PRとしても確実に形にしてくれるので、僕らは安心して作れる。本当に助かってます。
その後に、「三好 BLUE」を出して。そのタイミングでは、より海外展開を意識してユーザーが購入しやすい180mlという小さいボトルも出しました。これは三好シリーズでは初の試みです。

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石黒 : この時にはSAKE COMPETITIONのラベル部門自体がなくなっちゃっていたんですが、味の部門でシルバーをもらって。なのでSAKE COMPETITIONにおいては3年連続で、何かしらの賞をいただけたんですよね。

三好 : ちなみにこのラベルって、僕が貼ってるんですよ。一つ一つ手でやってるんです、令和の時代に(笑)

ー えっ!手作業なんですね。三好のラベルは全部窓が開いているから、貼るのが大変そうな気が…

三好 : そうですね。この前、機械で貼れるようにラベラーを買ったんですが、試しにと思って安いものを頼んだんです。そしたら説明書もなくて、いまだに使えていないです(笑)

3人で集まると何かが動く

村上 : 僕的に「三好の思い出ベスト5」に入るのが、34年に渡る阿武の鶴酒蔵の休蔵復活直後、港区にある八芳園さんで催された三好シリーズのお披露目イベント。
料亭の方に三好のお酒を作る際に使う麹をお渡しして、それを三好さんの地元である山口県の郷土料理と掛け合わせて料理を作ってもらい、食とお酒のマリアージュをテーマにしたクローズドなイベントを行いました。

石黒さんがデザインしたラベルのボトルを持ち、石黒さんがデザインをした前掛けをして。自分たちが作って生み出したものが、ぎゅっとその空間に集約され、一つになった。その中心には杜氏の三好さんがいて、しかも目の前でお客さんのリアクションも感じられた。それが感無量でしたね。リアルなアウトプットの中での役得というか、大きな喜びを感じました。

石黒 : あの日は嬉しかったですね。クリエイティブを通して僕たちの絆も深まっていたので、三好さんを中心にスポットライトが当たってるような光景を見て、感動した。

三好 : また、ああいうのやりたいですよね。
八芳園さんの時もそうですけど、3人でお酒を飲む時って何かストーリーが生まれるというか、楽しいだけじゃなくて、何かが動いていく。山口に帰ってからの酒造りに反映できてるというか、すごく意味のあることが多いです。

石黒 :「HANA」も、飲み屋さんで話したのが始まり。コロナでしばらく会ってなくて、久しぶりに去年の秋頃に会えた時に僕から提案しました。
「三好 BLUE」以降1〜2年、新しいボトルは出ていなかったんですが、コロナがあったことで、もっと人に届かせるようなデザインや、手紙のようなものを世に出していったほうがいいんじゃないかという思いがありました。

そこで自作の封筒に、「HANA」のモチーフをデザインしたものを作りました。

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石黒 : お酒を取り扱ってくれているお店の方とかに、季節の封筒みたいなイメージで届けるのはどうかなって。インナーのモチベーションアップにもつながるし、こんな時だからこそできることを、と思いました。
今の時代を忘れないでつながっていく何かができないかなと思って、2人に相談しました。

三好 : 話を聞いて、私も石黒さんの考えに同意しました。私は今の状況の中で、お酒でできそうなことを色々とあげていって。
そして僕ら3人の思いがつながって、「HANA」が生まれたんです。

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ー 3人の関係性の良さが感じられます。次回、「HANA」について詳しく聞いていきます!

> DESIGN : 日本酒・三好イヤーボトル【HANA 2020-2025】 後編へ続く

CL : ABUNOTSURU

SAKE BREWERIES : RYUTAROU MIYOSHI / @miyoshi_abunotsuru
DR : FUMITAKA MURAKAMI / @fumi_sake
AD+D : ATSUSHI ISHIGURO(OUWN) / @ai_ouwn

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聞き手 ・ 執筆 : 星成美


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