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地方の未来を拓く農業のポテンシャルと3人の軌跡

受けてきました!第4期狂犬ゼミナール
今回のテーマは「地域経営を意識した"農業"が地域を変える」全3回のオンライン開催。

農業にはどんなイメージを持つでしょうか。
楽しいのか、それともキツいのか。

日本で農業に従事する方は「農林業センサス」によると2015年は175万人。
50年前の1965年は894万人でした。
日本人口がピークになった2008年より、ずっと前から農業者は減少を続けています。

そんな厳しい一面のある農業ですが今まさに農業で地域を変えている実践者のお話を紹介したいと思います。

江丹別を再生する世界一のチーズ

舞台は、北海道旭川市の北部にある「江丹別町」
マイナス36度にもなる極寒の地は、人口も減少を続け、限界集落が間近に迫る村でした。

そこで世界一のチーズをつくる夢を具現化し、ANAとJAL国際線ファーストクラス機内食に採用される「江丹別の青いチーズ(ブルーチーズ)」を製造するのは、伊勢ファームさん。

ぜひご紹介したいのは次の3点

①究極のオンリーワン
江丹別の環境を最大限活かせるチーズを研究し、たどり着いたのが、フランスのオーベルニュ地方で作られているブルーチーズ。
当時は日本で誰も作り方を知らず、売れないと反対すらされた国産ブルーチーズ。

しかし試行錯誤を重ね、商品化に成功した途端。JALからファーストクラスに使いたいとのオファーがあったそうです。
理由は「国内で誰も作っていなかったから」
大人気のモッツァレラだと、こんな引き合いはなかったのではとのお話。

ブルー・オーシャン戦略をとりつつの、見事なピンホールマーケティング

②儲かる農業モデル
一般的に生乳は取引価格が決められていて、広い土地でたくさん生産しないと儲からない仕組み。
(例えば加工向だと、80円/kg)

でも自ら生産〜加工〜販売までのサプライチェーンを持つことで、販売価格を自由に決めることができます。

生産量や価格の調整が行われる農業ではなく、
酪農という資源を最大限に活かし、値付けの主導権を持つことによって、儲かる農業を実践されています。
さらに品質を高め続ける努力が、多くの人を魅了しています。

③村ごとブランディング
江丹別の青いチーズを皮切りに「江丹別を世界一の村にする」という宣言のもと、旗を立て情報を発信され続けています。

するとどんな変化が起きてるか
地元産の食材が食べられるレストランが開業
森林を活用した事業を始めたい若者が移住
江丹別で音楽ビジネスを始めたい若者が移住

なんと若い世代が江丹別に移住を希望するようになっています。

大切なのは、面白い人が住んでいるまち
地域の合意形成ありきでなく、自分の夢が発信できたからこそ、地域が変わった

伊勢さんが多くの人を魅了することで、江丹別の魅力に還元されているのだと感じます。


空き店舗から始まったワイン革命

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続きまして、山梨県甲府市
2000年、空き店舗が増えていた中心市街地に、「Four Hearts Cafe」をオープンした大木さん。

オープン当初は、山梨県産ブドウを使ったワイナリーや、ワインの取扱店もわずかだったそうですが、山梨産ワインのポテンシャルを見抜き、2008年から「ワインツーリズムやまなし」を仕掛けました。

甲府駅周辺で山梨県産ワインを取り扱うお店は2〜3店舗しかなかった当時と比較して、今や70店舗以上に増えるほど。ワインツーリズムのエリアも県内6箇所に広がりを見せています。

特に印象に残ったのは、

①獲得した外貨を地域で回す
大木さんが実践しているのは、地元で使われたお金をできるだけ地域に残す「漏れバケツ理論」

上記より抜粋
コーンウォール地方(鳥取県くらいの大きさと人口の英国の地域)で、すべての旅行者、住民、ビジネスが、それぞれ1%だけ多く地元のモノやサービスにお金を使えば、地元で使われるお金が5,200万ポンド(2019年3月現在のレートでは日本円で約75億円)増える計算になる

一人ひとり、地域でお金を使う人の割合が多いほど、地域が潤うというもの。
実際にFour Hearts Cafeで使われたお金も、地域のワイナリー、ブルワリー、酒屋、農家、コーヒー豆取扱店と、およそ60の地元事業者に利益が流れるような仕入れをされているそうです。

これがワインツーリズムとなると。ワインはもちろん、宿泊したり観光したり、観光客はもっと色んな経済活動をして帰ることになります。

ちなみに「ワインツーリズムやまなし」は自由にワイナリーを回れるイベントになっています。
参加者には事前に素敵なガイドブックが送られるので、自分でルートを決めたり、前後に宿泊を伸ばしたりと、地域にお金を落とす工夫が随所に見られます。

地元経済への波及効果については、以下の記事で2012年に言及されており、1回あたり7,400万円、年間で30億8,000万円もの経済効果があったとの研究結果が出ています。

②適正価格とキャパシティ
注目すべきは、地域のキャパシティ。
ワインツーリズムやまなしでは、2015年にそれまで2,500円だった参加費を5,000円に値上げしています。さらに定員も2,500人に限定

地方のイベントでは10,000人、20,000人といっぱい来てもらった方が良い!となりがちですが、
人が溢れ、「おもてなし」がおざなりになるのは本末転倒。

迎え入れることができる人数に絞り、黒字になる適正価格の設定。当たり前のように見えて、「人を集めない判断」はなかなか難しい。

最初の2年間は補助金もあったので、格安ツアーになって、実際には赤字だったワインツーリズム。それを打破するための値上げだったにも関わらず、地元の反対もあったそうです。

だけど値上げしてみると、全体の売上は下がらず赤字も解消。事業もしっかり継続されています。

これからは薄利多売ではなく、少ない量でも儲かる価格で、適切なサービスが提供できる地方が特徴を出していけるのではないでしょうか。

③地域をつなぐ巻き込み方
自分だけ儲けよう!ではなく、周りが儲かれば、巡りめぐって最後は自分にもお金が流れてくる。

元々地域にあった資源(ヒト、農業、商業など)やコミュニティを再構築して、繋ぎ合わせる一つの仕組みがこの「ワインツーリズムやまなし

この取組は、一般社団法人ワインツーリズムやまなしで実施されていますが、地域を大切にするため、周囲の皆んなの意見を聞く機会をしっかり確保しているそうです。

地域で出る杭は打たれがちですが、意見を言える機会があることで上手くガス抜きにもなる。
ただ、全ての意見を取り入れるのはもちろん不可能だし、方向性も見失う。
意見を聞く機会と、経営判断はしっかり切り分けていくことがポイントになるそうです。

ゆくゆくはイベントの風景が日常化することを目指されています。
地域にお金が循環する「動脈を広げていく」仕組みこそ、この取組が狙うものなんですね。


一粒1,000円のライチが拓く未来

最後は宮崎県新富町
人口2万人に満たない小さな町で設立された「地域商社こゆ財団」は「世界一チャレンジしやすいまち」をビジョンに、一粒1,000円の新富ライチを開発しました。

ふるさと納税の業績は、累計50億円を突破し、国から地方創生の優良事例にも選出されています。

とっても印象的なのは

①俯瞰逆算思考
1つの木からわずかしか取れない「1玉50g以上・糖度15度以上のライチ」。販売量も限定されますが、手間だって相当かかるもの。

農家さんの人件費、さらに出た利益を次の投資にも回せるような価格を逆算して設定
「値付け」はとても重要で、一度設定すると前述のとおり変えることは難しくなります。

だからこそ、最終的には農家さんが自発的に栽培したくなる条件、ゴールを設定したことで、誰かの努力や時間が犠牲になる地域事業とは一線を画しています。

②稼いだお金の投資先
大切なのは稼いだお金をどう使うか。
こゆ財団さんが素晴らしいのは「投資先」

人材への投資が、長期的に地域にとっても高い効果があるという認識のもと、起業家育成に力を入れられています。
その意味でも「世界一チャレンジしやすいまち」

実際に農業が基幹産業である新富町で、農業ロボットのベンチャー企業を立ち上げ、新たな雇用を産んでいます。

地域での再投資はとても重要。使われたお金の分野が成長するからです。でも、その日限りのイベントや維持費ばかりに流れて、成長する機会を失ってはいないでしょうか。

まちの成り立ちも最終的にはヒトの集合体。
その地域にある強み、その強みを伸ばせる人材にこそ投資する価値があると教えてくれています。

③well-being
自己犠牲のもとにまちをつくるのではなく、多様化した社会で、自分がいかにより良く生きるか

「この地域に貢献したいから移住する」ではなく「自分が活躍できる場として地域がある」の思考が大切。これからの地方創生は、一人ひとりが輝けること

そしてお金も。
その使い方次第で、人も地域も幸せにできることを、今回のゼミナールで教えてくださいました。
お金も使い方をデザインすることが大切ですね。

ただ我儘になるのではなくて、それぞれが自分の強みを活かせる。それが周りにも良い影響を与えられる。そんな生き方にチャレンジできる地域が未来を拓いていくのではないかと感じます。

考察_創造する農業

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実践される皆さんのお話は、どれも示唆に富んだものばかりでした。改めて感じることは

◆生き方と思考の転換
サラリーマンを続けていると、環境に合わせたり、業務命令に従う機会が多くなります。
日本の教育文化にも深く関わりますが、いつのまにか自分が何をして、どう生きたいのか振り返ることがなくなっている気がします。

今回のお話は、「自分らしさ」が地域を変えていった事例。時間は貴重ですが、少し立ち止まったても、自ら敷いたレールを少し外から俯瞰して、自分の活躍できる将来を考えることが大切だと思います。

◆農業は創造性に溢れている
今回「石油の出る国が裕福なように、食を支える農業者は貴重な資源を持っているそれをどう活かすかは自分たち次第」という話がありました。

農業は、何もないところから食べ物をつくるという、とんでもなくクリエイティブな分野です。チーズもワインも農業が根幹にあるわけで、お金と向き合えば、そのポテンシャルは計り知れない

そして農業があるおかげで、私たちは生活できています。その裏にある、サウナのような温室での作業や、手がかじかむ朝の収穫、少しでも美味しいものを届けたいと、かける手間や愛情を知るほど、深い感謝しかありません。

まず私たちがその価値に気づき、未来の投資に繋がる消費行動に変えることが、地域や農業を支える第一歩になると感じています。例えば地元産の採れたて野菜、ぜひ一度買ってみてください。旬で新鮮なものは味が全然違います!

ちなみに川崎市もステキな農家さんが私たちを豊かにしてくれています。

Youtubeちゃんねるをスタートした若手農業者チーム「畑から、台所へ。」さんがその熱い想いをアップされています。ぜひご覧ください!

今回もありがとうございました!!

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