オタク業界を三国間比較する

「りょうこさん、アニメエキスポがあるので行きませんか?」
と元家主トモコ女史から電話がかかって来たのが、先週の木曜日の話。

何となく気付いている方もいるかもしれませんが、実は日本で長い間オタクをやっていました。
当時はまだ隠れたアンダーグラウンドな世界で、萌えとか腐女子とかいう言葉もなかった頃から入り浸っていたので、相当古い話です。
そんな出自があるので、各国でアニメエキスポなどのオタクの祭典には必ず出没していました。
とは言え日本のコミケとかとは趣が全く違います。
今回はチュニジアオタク祭りレポートと、その辺の文化の各国比較話をお送りします。


 翌金曜日、トモコ女史と近所のスーパーの前で待ち合わせして、家から10分位離れた会場に向かい程なく到着。
 会場前に小さな公園があるのだけど、そこでチュニジアの若い子達が小さな軍団をそれぞれ形成していた。
 「トモコさん、あれみんなオタクですよ!!」
 「えーそうですか?単に若い子達が集まってるだけでしょ」

私の目からはどう見たってオタクの集まりにしか
見えないんだけどなぁ・・・。 

 トモコ女史はオタク業界には今までの人生、一度も足を踏み入れたことのないようなカタギの人、読んだ覚えのあるマンガはシティハンターとな。うーん、一般的過ぎる・・・。
 そんな彼女なので、オタクごとは全くわからないらしいのだが、長年オタクをやって、各国でオタクを見てきた私にはイッパツでわかる、というか本当に恐ろしい事に、オタクって全世界共通で同じ雰囲気をまとうんだな!!!
 まぁ少なくとも三国間の話なのだけど、本当に超デフォルトとして、黒いTシャツ(アニTだけでなく、ロックT の場合もある)若干の長髪から始まるややうっとおし目の髪、どちらかと言うと全体的に小太り以上、という外見がまるで規則かのように揃いも揃っている。

と言ってもこの写真は規定の人少ないですね、
でも溢れ出るオタク臭はわかる人にはわかっていただけると思う。 

 チュニジアのみの特徴は、何となく裕福な雰囲気の子が多いな、というのが他の二国とは違う。なぜなら家にインターネットがあって、ゲームやアニメ鑑賞に入り浸ってられるのは、ある程度裕福じゃないと出来ない、というのがトモコさんの弁。
 確かに南部の田舎に行った時は、ネットを通す電波塔(?、こういう表現でいいのか)などがある雰囲気もなく、パソコンなんて当然ないでしょう、といった感じだった。
 都会のチュニスでも貧富の差はあるので、下層に行けば勿論ネットを自由に出来る余裕などない。
 メキシコ、ブラジルではそんな事はなかったけど、距離も文化も遠くかけ離れた国の事を知りたいと思うのは、チュニジアでは文化意識や教育レベルの高い人々で、そうそう多いものではない。
 実際、道を歩いていて東洋人だと見ると「ニーハオ!ニーハオ!」とすれ違いざまに調子こいて声をかけてくる無礼、無知な輩の多さには、毎日憤慨する程だ。
 と、話が逸れてしまった。
 そんな日々私を苛立たせているニーハオ攻撃も、さすがにこの会場でしてくるヤツはいない。そりゃそうだ、だって日本フェステバルだもの、『万歳』だもの!

BANZAIっていうイベント名なのです、しかし意味わかってるかな?
どう説明するんだろうかって思ってみたり。
多分こういう掛け声(?)って日本特有のものではないかと。

 日本好きなオタク青少年達だけあって、インドア志向だからか、横目でチラリくらいの控え目な感じで気にしているみたいだ。

 さてここでその“BANZAI”について少々。
 一年に一度チュニジアで開催されている数少ないジャパンエキスポで、開催期間は三日間。日本大使館も協賛(協力?)していて、日本文化を紹介するワークショップなども大使館主催で行われている。

今年はフランスから生け花の先生を招いて、
華道のワークショップが行われていた。  

 主な催しはメインステージでのアトラクション、サロンで行われる各ワークショップ、ゲームサロン、その他物販や個人の展示などなど・・・と規模としてはかなり小さめ。

アルジェリア(隣国)からワークショップの為にわざわざやって来た彼。
コスプレのロールプレイングのレクチャーだったんだけど、
コスプレ大会のためのものなのでいきなりハードル高過ぎでしょ、
という感じだった。

物販ブースで折り紙のワークショップをしていた。
写真じゃわかりづらいですが、結構複雑なものが並んでいた。
外国人は基本不器用な人が多いのですが
(紙の端と端が合わせられないとか)
時々びっくりするぐらい緻密で器用な人もいます。

チュニジアの自称漫画家さん。
全ページ手を抜く事なく、背景まで手描きでビッチリ描き込まれてて、
ほとばしる情熱を感じた。
でも画力は・・・うん、同人誌のあまり上手くないレベル、ごめん!

 しかし会場は選挙演説などを行う、チュニジアで一番由緒ある所で、そんな所を使えるなんてチュニジア側が相当力を入れてる証拠だし、儲かるんだろう、とトモコ女史が言っていた。
 確かに、開場を待っている人も多ければ、あとから後からどんどん人がやって来る。でも今まで見てきた国から比べると、かなり小さい。

 当然だが今まで見てきたので一番大きかったのはサンパウロのアニメフレンズ、というエキスポ。
 会場もデカイし来場者数もハンパない。期間も一週間ぶち抜きで、各地からバスチャーターしてやって来たりする。ブラジルは日系人が多いから、日本文化浸透率も他の国とは比べ物にならないし、お陰で日本から名の知れたアーティストも毎年招聘できるくらいだ。

この年はアンカフェ(アンティーク珈琲店)が来ていた。
ブラジル人も熱狂していたので、知名度は高そう。
ブラジルはビジュアル系バンドが非常に人気があります。
(2014年7月)

大きいホールでやってた何かのコンテスト。
多分コスプレだったのではないかと。
優勝商品に日本行きの航空券がもらえる所に、
ブラジルオタク業界の財力と規模の大きさを感じる。

 その他見たエキスポはメキシコ・グアダラハラ、セラヤ、あとフォス・ド・イグアスでも小規模ながらも開催されていた。
 グアダラハラはメキシコ第二都市なので大きいのだが、内容としてはチュニジアの大規模版、と言った感じで取り立てて何かがあるわけでもなく、セラヤもその縮小版と言った感じ。

グアダラハラのコミクトランというイベント。
グアダラハラ随一の見本市会場で行われていた。
(2010年8月)

セラヤのイベントは小さすぎて会場が上手く撮れなかったので、
ポスターのみ。マンガムンドって言うイベントかな・・・?
(2012年4月)

 フォス・ド・イグアスはたこ焼き屋の手伝いで入っていたので、出て写真を撮る事が出来なかったが、学校を借りて行っていたので学祭のような雰囲気だった。

 何カ国か比較してみたが、結局つまるところ、それぞれの規模の大きさはあるけれども、していることは押しなべて一緒だな、と思う。
 大きいから規模が大きくなり、小さければそれも縮小版になるだけで、本当に何も大差がないのが逆に言えば非常に興味深くもある。

サンパウロは規模が大きい分物販も多い。
他と違うのは同人誌やグッズ作ってる人が多い所。 

これはグアダラハラ、同人誌製作者は見当たらず。
アニメグッズのブースがメイン。

  セラヤにて。小規模になる分、
これもアニメエキスポに入る括りなの?と思う物も販売してたり。
お菓子購買を目当てで来る人も多く、
ポッキー、ラムネは異様に人気があった。
あ、これはグアダラハラも同じ。

 

 写真を見比べてもわかると思うが、国は違ってもどこも催しの内容は同じだ。ラテンアメリカと北アフリカの、どちらかと言うと文化的水準はラテンアメリカに近い国との比較だからかもしれないが、こんなに距離も離れて文化背景も違うのに、している事がほぼ同じになることが何とも面白いと思うし、またこれが外国でするアニメイベントの限界なんだろうか?とも思う。

オレのターン!遊戯王カードはどこへ行っても本当に人気がある・・・
大人のお友達だらけ。
上はブラジル、下はグアダラハラ、違いが全く見つからないよ。
あ、でもチュニジアでは見かけなかったな。

 トモコさんが「若い子ばっかりですね〜」と言って驚いていたが、そりゃそうだろう、アニメ、マンガ、ゲームは若い子だけの物だ、と言ってふと気付いた、でも日本のオタクはオタク道に足を踏み入れたら最後、卒業なんて出来ないから上も下もどんどん年齢層が広がって、業界の規模も拡大してるんじゃなかったっけな?と。

 かく言う私も15歳でその道に入門し、30歳過ぎくらいまでマンガに猛り狂っていた。
 自分の好きなマンガの二次元創作同人誌も買い漁っていた。
 その後海外に出てしまったので、何となく卒業、的になってしまったが、オタクの気質がそうそう消滅するもんではない。
 日本に帰れば漫画喫茶に行きまくり、本屋には毎日通い、マンガを読む時が至福、なのは今も昔も変わっていない。
 昔取った杵柄のお陰で日本語教師の仕事はやりやすいし、サンパウロで新聞社で働いていた時は、その辺を見込まれてオタク関係の取材にも行かせてもらって、私的に相当美味しい思いもした。

 私の場合、オタク業界強制卒業になったが、日本にいたらまだオタクをやっていたかもしれない。実際日本に帰ると最近のオタク事情を友達から聞いてるし、一緒にオタク事をやっていた友人たちは卒業してないとも聞く。

 日本のオタク業界は海外に比べて大昔からあるわけだから(全ての大元なんだから当然なんだけど)、どんどん拡大され年齢層は上も下も広がって然り、でもチュニジアのような今はまだ黎明期のような世界も、時間が経てばオタク業界が成長し、来場者の年齢層も上がっていくのかもしれないなぁ、などと思った。

 興味深かったのとnoteのネタにしようと思ったので3日間通ったが、一番盛り上がったのは初日で、あとは行く度にどんどん火が小さくなっていくように感じた。
 ただ私が3日間通ったように毎日見るコスプレの子とかもいたし、地方からわざわざ来たんだよ!という子とも何人か話した。

ヒジャブ女子のコスプレイヤーを発見!犬夜叉の桔梗だそう。
写真とってもいい?と聞くとヒジャブを後ろに思い切り下げて、
黒髪に見える様にしてくれた。うーん、凄い知恵!!
「ワタシにほんがダイスキナンデス!
キョウハすふぁっくすカラキマシタ、アサさんじ二ばす二ノリマシタ!」と独学した日本語で話してくれました。上手!


 初日のメインステージの盛り上がりっぷりや、どんどん増える入場者を見てると、一年に一度だけあって、このイベントを毎年楽しみにしてる子が何百人、何千人もいるんだ、とそれぞれの情熱を思うと、日本人として少々胸熱になった。

ブラジルで見つけたボーイズラブという名の同人誌・・・
元腐女子としては唸ってしまった。
しかし流石に手を伸ばして中身を確認できず。
小説だったかもしれないけど、何にせよプロ並みに上手なイラスト。
ブラジルは同性愛者が多いから、こういうのも抵抗ないのかも。

 私が少女の頃、同人誌欲しさに早朝から何時間も並んで待っていたあの時の気持ちと、各国のオタク青少年達の情熱は、年代も国籍も違うのだけど恐らく同じものだろう。
 日本と環境が全く違うので難しいかもしれないが、チュニジアでも他の国でも、日本と同じく“若けの至りで好きになったもの”ではなく“大好きで卒業できないもの”になって末永く愛され続けて欲しいなと思った。


 そう言いつつも『BANZAI、来年行くかはわからないな・・・』というのがこれまた正直な感想である。うん、まぁ、実際そんな毎日行くほどではなかったんだよね。
 さ〜、来年はどうするかな・・・・・。

今回の戦利品、チュニジアに剣道場があることにビックリ。

私が行きますと言ったので、
電話後会場までわざわざ招待状を取りに行ってくれたトモコさん。
通し番号一番二番ってナニ・・・主賓?
お陰で3日間堪能しました、どうもありがとう!

BANZAIの入場証明バンド。
招待客なんでゴールドでしたがその日に捨てちゃった、バチ当たるわ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?