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ある晴れた日にクラフトビールを最高の状態で飲むことについて

■ある晴れた日にクラフトビールを最高の状態で飲むことについて


「あなたは、今、クラフトビールを飲むべきなのよ」

唐突に彼女は言った。
エアコンの効きの悪い真昼のレストランの片隅に彼女の言葉が漂っているのを感じながら、やれやれ……と僕は思った。

「今は昼間だし、平日だよ?」

レストランではビートルズの後期のアルバム「アビイロード」が流れていて、スピーカーからは何とも物憂げなジョン・レノンの歌声が流れていた。「アビイロード」も中盤に差し掛かかろうとしていた。


「仕事も一区切りついたんでしょ?今があなたにとってクラフトビールを飲む最高のタイミングだってわかっているんじゃない?」

彼女はゆっくりと珈琲を飲みながら、僕を攻めるわけでもなく、まるで不動産屋が新しい部屋を勧めるかのように比較的淡々と話した。
僕は「ふぅ」っと少しため息をついて

「でも、まだみんな仕事してるしね……」


と言うと、少しだけ間をおいて彼女がもう一軒の新しい部屋をすすめるかのように言った

「あなたっていつもそうよね」

「何かをすべき最高のタイミングなんて、人生にはそう何度も無いものなのよ」

やれやれ、彼女の言う通りだ。
僕はいつも周りの目を気にして、本当に最高のタイミングを逃し続けてきたのかもしれない。

僕は何かふっきれたような、そして何か新しい挑戦をするかの気持ちでウエイターを呼び、「COEDOビールの毬花」を注文した。

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注文を終えると曲は「Here come the sun」に変わっていた。


彼女は少し満足そうにこちらを見ながら

「この曲好きよ。ジョン・レノンの悲しげな曲に挟まれたビートルズの良心みたいで」

といい、もう一口珈琲を飲んだ。

しばらくすると、ウエイターがいかにも冷えたクラフトビールを運んできて、僕の前に置き、軽くお辞儀をして去っていった。僕の前に置かれたグラスからは、ホップの香りが漂い、グラスに少しずつ汗をかきはじめていた。

「さあどうぞ、人生の中で何度しかない最高のタイミングで飲むクラフトビールよ」

悪戯に微笑みながら話す彼女に軽く相槌をうって、グラスのビールをゴクゴクと喉の奥に流し込んだ。

「悪くない」

仕事が一区切りつき、みんながまだ働いている暑い夏の平日の昼に飲むクラフトビールは格別だった。なんともいえない旨さだった。

クラフトビールの美味しさの本質……それはきっと「渇き」や「欲望」や「背徳感」なのかもしれない。僕は今までずっと「渇き」と「欲望」と「背徳感」を飲んでいたのだ。そして、これからもそれらを飲んでいくのだ。

彼女がいうように、人生において自分がやりたいことの最高のタイミングが揃うことなど奇跡に近いことかもしれない。そのタイミングを逃すことなど馬鹿げている。僕は今までずっと、意味もなく「最高のタイミングに飲めない理由を探し続けていただけだったようにさえ思えた。

「仕事に戻ろうか……」

といった僕に彼女は少し笑って言った。

「あなたは今日、成すべきことを成すべきタイミングでしたのよ」
「世間的にいったらクズかもしれない……でも、素敵よ」


「アビイロード」は次の曲になり、再びジョンの物憂げな歌声が流れていた。

※この物語はフィクションです


■あとがき


クラフトビールの美味しい飲み方 に書きたくて……完全に思いつきで村上春樹風の短編を書いてしまいました(笑)

※音楽と共に読んで頂けるとより雰囲気がでるかと思い、リンクを貼っておきました。

自分が本当にビールが最高に美味しいと思える瞬間に必要なのは

・乾いている時(喉も心も)
・達成がある時(自分を労ってもよさそうな時)
・背徳感がある時(平日の有給とか)

といった時かもしれないと思っています。
全てを満たすと一般的にはホントにクズな発想かもしれないのですが、多くの人に当てはまる事実かと思っております(笑)

きっと僕らは美味しいビールを飲んでいる時、「渇き」と「欲望」と「背徳感」を飲んでいるかもしれません(笑)

また、ビールだけではなく、心で最高のタイミングかも?とわかっていても周りを気にしたり、あれこれ理由をつけてやらなかったりすることってたくさんあると思います。自分自身もやりたいことを逃さないように人生の一瞬一瞬を大切に過ごしていければなと思います。

ちなみに精一杯、雰囲気たっぷりに書いてみたつもりですが、やってることは「欲望に正直なカイジ」でした(笑)

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みなさんも良いビール🍺を!

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