死は、悪なのだろうか
これまでも何度か櫻想の話はお聞きしてきましたが、今回は、「あなたはどう思いますか?どうありたいと思いますか?」という問いを目の前に突き付けられている、と今まで以上に感じました。
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本人の意思や生きる力と向き合うということ。そして、尊重するということ。それは、どういうことなんだろうかという問いが、私の頭の中をめぐり続けています。無関心であるわけではなく、放置するわけでもないけれど、でも、何でもかんでも先回りして本人以上に、その人に「関わる」のも、尊重することとは、また違うのかもしれない。
そんなふうに考えさせられた今回は、櫻想が介護士という役割をどうとらえ、日々どのように利用者の方と向き合っているのかということについて、諸橋さんと櫻井さんに話していただきました。
話者プロフィール
何でも「やってあげる」のが正解なのだろうか?
たとえば、テレビのリモコンを取りたいけど、体を思うように動かせないから、リモコンに手が届かない。
こういうとき介護の世界だと、「困ってるんだからやってあげなさい」「可哀想だからやってあげなさい」という無言の圧力があり、利用者の方に頼まれたら、介護士がリモコンを代わりに取ってあげることが、あたりまえになりがちです。
でも、介護士はいつもその人の隣にいるわけではないのだから、本当にやるべきは、「チャンネルを変えて、自由にテレビを観たい」という利用者の思いと向き合うこと。そして、リハビリなど、それを実現するための手段を考えてサポートすることなのではと諸橋さんは言います。
最近では、介護施設に入居している高齢者の方が誤嚥などで亡くなった際に、介護施設の責任を問う裁判も目にしますが、歳を取れば、誰でも生きる力は衰えていくのが必然。自分で動けなくなっていったら、誰しも死を迎えていくのが自然なのではとも思います。
たとえばオランダには、入居者本人のこれまでの生き方や価値観を尊重するために、食事の栄養チェックをせず、入居者が自由に出歩けるように転倒などの事故が起こらないという約束をしない、ホーフウェイと呼ばれる認知症施設があります。
こういった櫻想やオランダのようなありかたを知ると、今の日本の介護のように、ただ「死なせない」ように完璧なサービスを求めるのが、理想の人生の終わり方なのだろうかという疑問が浮かんできます。
櫻想にたどり着くのは、身寄りがなかったり、借金を抱えていたりする生活困窮者がほとんど。そのため利用者の方は、お金でなんでも解決できる環境にはありません。
そのなかで、それぞれの人生の終わりに位置する介護だからこそ、「その人が持っているもののなかで、取れる最大の選択は何か」「どんなふうに生きたいかという意思を叶えるために、可能性を広げるとしたら何ができるのか」ということが、切実な問いとなります。
たとえば、とある利用者の方は、お腹が空いてもお金がないから手にするものがなく、唯一手に入る医療費から出してもらえる栄養剤も、味が飽きたといって飲まなかったそうです。櫻想では、そうした本人の意思と本人が持っている環境の行き着く先として、死というものが近づくとしても、それをその人の生き様だと受け止めています。
生と死と、それにまつわる尊厳や人権、そして福祉という社会の制度の話。どれをとってみても、明確な正解があるようなものではありません。
今の日本では、たとえば介護や保育などの福祉の現場では、働き手の長時間労働や安月給などの犠牲の上で成り立っていることがたくさんあります。そのうえ、「それは本質的なことなのだろうか?」と疑問を感じるような仕組みやがあたりまえになってしまっていることも、少なくないように思います。
そういった現状を変えようという動きがある一方、人の命や尊厳と向き合う福祉の現場が、誰かを一方的に犠牲にして疲弊させていくという矛盾した構造に陥りがちであることも、また事実です。本人の生きる力や意思を考慮せず、「とにかく死を避けようとする」ような介護のありかたは、その極端な例とも言えるのかもしれません。
今回の諸橋さんと櫻井さんのお話を聞いて思い出したのは、期待と願いの違いの話でした。期待と願いは、どちらも「こうあってほしい」という思いではあるけれど、「こうあってほしい」が叶わないときに不満を持つのが期待。「こうあってほしい」が叶おうと叶わまいと、同じ思いを持ち続けながら関わりを諦めないのが願い。
櫻井さんや諸橋さんをはじめ、櫻想で働く方々が抱えているのは、ここでいう願いなのかもしれないと思います。世間一般の正しさではなく、「目の前の人にどうあってほしいのか」という信念と、それを実現するために必要なことを考え続け、その結果を引き受けること。その生き様には、柔らかなまっすぐさを感じます。
あなたは櫻想のありかたをどう受け取り、何を感じたでしょうか。
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