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僕はおまえが、すきゾ(36)

僕の頬に涙が伝った。それをベッドで添い寝をしている油科さんが、拭った。油科さんは僕に優しい目を向けて、言った。
「大丈夫、心配しないで。安心して」
そんな言葉では、僕の罪悪感は消えなかった。
彼女は僕の方に体を片して、言った。
「私、あなたの物になっていい?」と。
僕は底知れぬ不安と恐怖を感じて、体を起こした。何に対しての恐怖なのだろうか。
自分の病気を隠して、ちっぽけな自分を彼女にさらけ出せない恐怖だろうか?そんな勇気の無い僕を彼女はどう思うだろうか。
「帰るよ」
僕は彼女の方を向かずに言った。いいや、彼女の顔を見るのが、怖かっただけかも知れなった。
僕はTシャツを頭から被ると、服を着始めた。
油科さんはそんな僕に何も言わなかった。
「じゃあ」と僕は部屋のドアを開けて、帰ろうとした。
彼女はそんな僕に言った。
「卑怯者!」
こんな気持ちは初めてだった。今までで一度も感じた事の無い感情の渦が、僕の心を、頭を一杯にした。
「私があなたを変えてあげるから!絶対に私を好きにさせてみせる!」
彼女はベッドから裸体のまま起き上がり、僕の背中を抱き締めた。
僕は彼女の方を振り向いた。だけど彼女の目は見る事が出来なかった。僕は油科さんに恋してるわけではなかった。
だけど、今、彼女は再び僕を求めている。
僕には、何の決定権も無い。精神の病を抱えて、職も無く、能力も無く、何も無い僕を油科さんはどう思うだろう。
そんな油科さんに僕はどうやって謝ろうかとばかり考えていた。
床に広がり落ちているシーツに目を落としながら、僕はふと、優作の事を考えていた。
優作も古賀さんと今、一緒なんだろうか?優作はこんな僕を軽蔑するだろうか?僕はそんな事をボンヤリと考えていた。
油科さんはそんな僕の気持ちを敏感に感じ取ったのだろうか、僕の唇に指で触れ、キスをしようとした。
油科さんは僕に優しく口づけをした。
僕は、彼女を受け入れた。心だけ、どこかへ飛ばして。
僕は心とは裏腹に、その気持ち良さに彼女を受け入れた。
 
 
 
 
 

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