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僕はおまえが、すきゾ!(28)

悪夢だ。僕の目の前の惨劇をどう言えれば、うまく伝わるだろう。
僕はベッドの上で胡坐を掻いた姿勢で、優作たち三人を見ていた。優作はカーペットの上で、僕の高校の卒業アルバムのページを捲っていた。その両脇には、古賀さんとその友達、油科さんが膝を崩し座り、優作を囲んで一緒に卒業アルバムを覗き込んで見ていた。僕をベッドの上にほったらかしにしながら……。
正に地獄絵図だ。
古賀さんはアルバムの優作の個人写真を見ながら、キャーキャーと騒いでいた。
「これが、松下さん?見えないー」
その脇で、油科さんはジッとアルバムを無言で見ていた。
油科さんは古賀さんの高校時代の同級生らしい。女子バスケ部では、三年間一緒に部活に励んだらしい。高校時代はショートカットだったけれども、今は髪を伸ばし、美しい天使の輪を頭頂部に描いた長髪だった。
優作と古賀さんが、アルバムに夢中になっている中、油科さんは僕の方をちょっと振り返り、僕に言った。
「一緒に見ませんか?」と。
僕はドギマギしてしまった。初対面の黒髪の美しい女子に。
「い、いいよ」と僕は横をプイと向いて言った。
すると優作が、お前も見ろよ、とまるでここが自分の家の中のように我が物顔で言い放った。
油科さんは僕の手を、ふと握って、僕をベッドから降りるように手を引っ張った。初めて触る母以外の女子の手だった。
その感触は柔らかく、僕は女性は脆く壊れそうだとその時、思った。
油科さんの隣で僕はアルバムを見ていた。
アルバムのクラスの集合写真には、笑顔のクラスメイトとは距離を置いて、まるで笑顔の無い僕が写っていた。
優作は皆の真ん中で白い歯を見せて、笑っていた。

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