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僕はおまえが、すきゾ!(47)

僕と優作は、スティーブン・キング原作のシャイニングを観ていた。テレビ画面の中では、ジャック・ニコルソンが斧を持って、逃げ惑う妻を追っていた。
そこには、家族を手に掛けようとする悲哀さは全く無かった。
優作は、ボーっと眠いような顔をして、画面の中で叫んでいる妻を只々、見つめていた。映画はラストを迎え、エンドロールが流れていく。
僕は、優作に上機嫌で話し掛けた。
「やっぱシャイニングだよな。女に振られた時は、シャイニングを観るべし!」
優作は訳が分からんと言いたげに、首を振った。僕は、不意に優作のおでこにデコピンをした。
「ッテ!」と言って、優作はおでこに手を当てて、悶絶していた。僕はそれを嬉しそうに見ていたが、優作は「何すんだよ!」と憤怒しているようだった。
痛ってーなー、と涙目になる程の痛さの割には、優作も嬉しそうだった。
その夜は、映画三昧で過ごし、朝になる迄、映画を観た。
二人とも古賀さんの事も油科さんの話も話題には出さなかった。二人が居なかったかのように映画を只々、観ていた。
翌日には、優作は映画館のバイトで、古賀さんとは、顔を合わせなきゃいけないのに、その夜の優作は、そんな事は一言も言わずにいた。
優作の部屋を、出ようと席を立った時は、もう太陽が東の空から顔を覗かせていた。
僕は玄関に立ち、「じゃあ、またな」と言った。
僕が玄関を出ようとして、振り返ると優作にこう言った。
「一人の女も幸せに出来ないようじゃ、男じゃないよな」
「お前もな」と優作は言った。
僕はグサリとダメージを受けつつも、優作に言った。
「お前には、俺がいるじゃねーの」
僕がそう言うと、優作はそうだな、と弱弱しく笑った。
お前には僕がいる。今日も明日も明後日も、だ。だから、心配する事は何も無い、と僕は優作に言いたかったが、それ以上は、愛の告白みたいでこっぱずかしくて言えなかった。
僕は明け始めた朝の中、自分の家に帰った。
僕は知らなかった。その日、古賀さんが油科さんのアパートを訪ねていた事を。

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